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下界の絵描きと漫画家

下界には絵が沢山ある。


商業施設ならば取り扱っている商品の絵、ギルドや役所ならばそれぞれを象徴する紋章、治療院や公共施設はどの街でも共通のマークで統一して文字が読めなくても何の建物かわかるようになっている。


食事処や酒場ではメニュー表に簡潔な絵が描かれている店が多く、一部のこだわりの店を除いて大衆向けの店ならほぼ確実に絵付きのメニュー表が採用されている。


下界にも魔法や魔導具による写真技術はあるが、意外にも写真、絵画、イラストの順で評価が高くなっている。


というのも下界は多人種世界なので写真だと精細すぎたり認識できない色があり、一部の人種に正しく何なのか判り難いという声から現在のような簡素なイラストが好まれるようになったようだ。


このように絵文化が根付いているので下界の街には大体絵描きが滞在しており、冒険者として兼業している者が多い。


やはり絵だけでは実入りが少ないのかと思っていたが、郊外で染料探しのついでに採取をしたり、絵の依頼のついでに調査の仕事を請けたりと冒険者としての仕事は追加収入という認識で、あくまでメインは絵による収入で十分生活出来ていることがわかった。


では何故冒険者登録をするのか。それは冒険者になることで人物保障がされるという点だった。


下界の多くの街では無断で人物画や商品画を描いて配布や販売をすると罰せられる。悪用される可能性があるからという理由らしい。


そこで絵描きは許可を貰って絵を描くわけだが、その許可を得る際にどのような人物かを冒険者ギルドが保障してくれているとすんなりと了承を得られ、冒険者の依頼きっかけで絵の仕事も貰える場合もあるということから絵描きの間で話題となり、冒険者登録をする者が増えたようだ。


そんな感じで絵描きを職業とする者はそれなりにいるが、漫画家は限りなく少ない。


確認出来ているのは中央都市にいる元勇者の漫画家とその弟子達ぐらいだ。


異世界の勇者によって様々な文化が持ち込まれたが、漫画はデフォルメされた人物絵だけがコミカルアートという一つの画法という形で残ったぐらいだった。


漫画が根付かなかった理由は幾つかある。


漫画家が召喚された当時は戦乱中で人々に余裕が無く、とても娯楽に手が出せなかった。


下界の識字率と多人種故の価値観の違いで、見方によっては諍いの原因になりえるとして意図的に流通を抑えられていた。


そもそも漫画家になるにあたり求められる能力水準が高すぎた。


等々で漫画は下界に定着せず、現在長命種になった漫画家がどうにか広めようと試行錯誤している最中だ。


個人的には広まって欲しいんだけどなぁ。


なかなか広まるには解決しなければならない問題が多くあるのでどこまでやれるかだな。


一応漫画家は貴族の身分で魔王とも知己の関係なので上手くやってほしい。頑張れ。




「うーん・・・」


仕事終わりに下界の漫画家の作品を流し読みしている。


「それ、漫画というものでしたね。どうかしましたか?」


「いや、元勇者の漫画家と弟子の漫画家の作品を読み比べてるんだけど、元勇者の方が面白いから何が違うのかなって」


「絵は弟子の方が綺麗ですね」


「そうなんよ。でもどっちが面白いかと聞かれるとこっちなんだよね」


「んー・・・素人の感想ですが、ソウが面白いと言う方は場面場面で線や文字を使って描いているように見えます」


「なるほど、躍動感か。確かにより動いているように見えるな」


「この辺りを弟子はわからないのでしょうか」


「どうだろう、こういうのはセンスだったりするからな。わかっていても真似できないと感じて独自の強みで勝負してるのかもしれない。実際サチは弟子の方を綺麗と評価したのだから、同じように絵柄を重視する人は弟子の方を良いと言うんじゃないかな」


「絵と同じように選ぶ側の感性に委ねられるのですね」


男性脳は動的、女性脳は静的を好むと言うし、下界はさらに人種や出生、文化や気候でも感性が大きく変わるだろうから衝突防止のために規制が掛かったんだろうなぁ。


漫画家もその辺りを学んである程度ターゲットを絞ったり、依頼人の意向に沿うような形で漫画を出している。


おかげで色々な方向性の漫画を読ませて貰えるのでありがたい。


いずれ漫画というものがある程度認知されたら自由に描いた作品も読んでみたいものだ。



今日はサチと別行動の日だ。


「サチも乗っていくの?」


「当然です。道中何があるかわかりませんので」


そう言って天翔機の後ろに乗ってしっかりと体を密着させてくる。これをされると何も言い返せない。


安全運転で今日の目的地の島に降り立つと島の主が出迎えてくれた。


「やぁ、トーフィス。出迎えありがとう」


「ご無沙汰してます。それが噂の天翔機ですか。カッコいいですね」


「だろう。トーフィスならわかってくれると思ったよ」


興味深そうに天翔機の周りと見て回るので内心にんまりしているとサチが一声掛けて来た。


「ソウ、私はそろそろ移動しますが、あまりはしゃぎすぎないようにしてくださいね」


「はしゃぐって・・・子供じゃないんだから」


「ソウならやりかねませんので」


「えぇー・・・」


今一度俺に対してどう思っているのか問い詰めたいところだが、ここで引き留めると他の人達にも迷惑がかかるのでぐっとこらえて見送る事にした。


羽を出して飛び立ったサチを見送ってから天翔機を眺めるトーフィスに聞く。


「なぁ、俺って子供っぽい?」


「僕もたまにへリーゼに同じように言われますよ。男の子だねぇって」


「そうか」


「天翔機ありがとうございました。家にご案内します」


「あぁ、頼む」


天翔機から道具入れを取り出して天翔機を収納する。


ってあれ?トーフィス、今否定しなかったよな?


おい、トーフィス?こら、何早足になってんだ!こっち見ろ!逃げるな!


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