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試験の結果

「・・・お待たせしました」


俺達の前に次のお題のお茶が運ばれる。


白い湯呑茶碗に緑色の液体。湯気は立っていない。


先程の冷たいお茶の時と違ってツユツキの表情が硬い。


「緊張してる?」


「・・・はい。今回の三つのお題の中でこれが一番の難関だと思ってます」


「とりあえず頂こうじゃないか」


ツユツキの心境をもう少し詳しく聞きたいところだったが、ジル婆さんの一言で試験官としての自分を取り戻した。


「いただきます・・・おぉ・・・これは・・・」


熱くは無く、程よい温かさの緑茶だ。


甘味、渋み、苦みがどれもが高い水準で上手くバランスが取れている。


「これ、婆さんの淹れる緑茶に似ているな」


「・・・そうかね」


ジル婆さんはそれ以上何も言わず、二口、三口と吟味するように飲み、その度に何かを想うように目を細めたが、何を感じたかまでは読み取れなかった。


三人が静かにお茶を飲み終え、余韻が抜けるのを待ってから最後のお題に移った。


「最後はオリジナルか。無理難題にも程があるだろうに」


「ふん、どっかの誰かのように突拍子もない注文をしてくる輩がいつ来るかわからんからね。そういうのも鍛えなきゃならんのだよ」


「そんな輩が来るのか。茶師もなかなか大変なんだなぁ」


とぼけてそう言うと怒りの形相でこっちを睨みつけて来た。おーこわいこわい。


「どうぞ」


ツユツキが出した三杯目はティーカップに入った赤茶色のお茶だった。


「アンタこれ・・・風の気まぐれかい?」


風の気まぐれとは紅茶の事で、こちらの世界ではそこそこ貴重な茶葉のひとつとされている。


紅茶の茶葉は発酵させなければ作れないのだが、この世界では発酵技術があまり進んでないので自作するのは難しいとされている。


ただし、風の精が発酵技術を持っているので、干してる茶葉を香りを楽しむために遊び半分で発酵させることがあり、そこから風の気まぐれという名の紅茶が出来たと言われている。


「まずはお召し上がりください」


ジル婆さんの問いに対してツユツキはまずは味見をと勧める。


「・・・ん?んん?」


一口飲んだがまずわかったのはこれは紅茶じゃないということだった。


「風の気まぐれじゃないね。なんなんだい?これは」


「薄味ですが、これはこれで美味しいですね」


興味深そうな二人をよそに俺は何度か試飲を繰り返し、かつての記憶から似た飲み物の名を口にした。


「・・・烏龍茶?」


その言葉にサチとジル婆さんがこちらに振り返る。


「さすがソウ様。ご存じでしたか」


「俺はツユツキが何故これを知ってるか気になるけどな。それに俺の知ってる烏龍茶はこんなに花の香りはしなかったはずだ」


ツユツキの淹れたお茶にはほのかな花の香りがした。この香りのおかげで烏龍茶だと気付くのに時間が掛かった。


「一からご説明します。まず、烏龍茶の存在を知ったのはドリスさんから頂いた茶葉からでした」


ツユツキの話によると、ドリスから試作の紅茶の茶葉をジル婆さんに内緒で貰い、ここぞというところで披露して驚かせてやれと言われたらしい。


「あんのガキんちょが!」


憤る婆さんは置いといてツユツキの説明は続く。


ツユツキはどうにか紅茶の希少性を下げたく思い、ドリスに方法を聞いたが安定して生産するにはまだまだ時間が掛かると言われた。


それでも諦めたくなかったツユツキは発酵の初段階で止まってしまった茶葉に目を付け、試行錯誤を繰り返していくうちにドリスと親しくなり、烏龍茶の存在を教えてもらったそうな。


「どうしてもまだ濃い味にすることが出来ないので、マリーに協力して貰って食用可能な花を乾燥させたものを混ぜて香り付けしました」


「なるほどなー、これはこれでいいと思うぞ」


「ありがとうございます」


「話を聞くに、これはその烏龍茶とやらとはまた違うお茶なんだろう?名前はないのかい?」


空になったティーカップを置いてジル婆さんが語気強めに聞く。


「いえ・・・そもそも苦し紛れで香り付けしたものなので」


「そうかい。それじゃこのお茶に名前を付けることだね。それが茶師としての最初の仕事だよ」


「名前・・・え?茶師?いいの、ですか?」


「これだけ出来れば十分合格だよ。まったく、優秀過ぎて呆れちまうよ」


「合格!・・・私・・・私・・・!」


ツユツキは口を押さえ、目には涙が溢れる。


「・・・よく頑張ったね」


ジル婆さんのその一言がトドメとなり、ツユツキの感情は決壊した。


よかったな、ツユツキ。




「それではツユツキを正式に茶師として登録します」


「よろしくお願いします」


まだ目の周りが少し赤いツユツキがサチに深々と頭を下げる。


「ジルさんもありがとうございました」


「ふん。言っとくけど二番目は合格ギリギリだったのを忘れるんじゃないよ」


「はい、今後も精進します」


「とりあえずアンタには観光島の方を任せる。どうやらいい経験を積めるようだしね」


「え?もう来られないのですか?」


「たまには顔を出すが、アタシの本業はこっちだからね。抜き打ちで見に行くからサボるんじゃないよ。あとこっちにも今まで通り顔出しな」


「・・・はい!」


口は悪いが端々に優しさが見える。ツユツキもそこを良く分かってるようだ。


いい師弟関係だなぁ。口にすると怒られるので言わないけど。


「そういえば俺とサチが口を出すまでもなく合格になったけどよかったのか?」


「いいも何も、アンタ達はアタシがごねた時の説得要員だったからね」


「つまりごねるまでもなく合格だったってことか」


「二杯目はまだまだだがね。他の一杯目、三杯目で工夫が見られたから十分さね」


「だってさ、やるじゃないか、ツユツキ」


「えっと、その、恐縮です」


ツユツキに話を振ると気恥ずかしそうに赤面する。先程盛大に泣いたからか今日のツユツキは感情がよく表に出てていい感じだ。


その後しばらくジル婆さんが今回の試験の結果を厳しくもちゃんと評価し、今後の改善点や目標が定まったところで解散となった。




帰宅後、キッチンで半分ほど外側をボウルに入れた氷に沈めたグラスにお茶を注ぎながら今日の事を振り返る。


「ほい、今日の一杯目の再現」


「いただきます」


「・・・うーん、やっぱりツユツキの淹れた方が美味かったなぁ」


「これも十分美味しいと思いますけど。やはりあのグラスは取り寄せるべきですね」


「だなぁ。今度ガリウスに詳しく聞くか」


「量産が可能なら観光島の新しいお土産に良いかもしれません。その辺りも含めて打診しましょう」


忙しなくパネルを操作するサチを眺めながらゆっくりとお茶を楽しむ。


「これで移民の五人も正式にこの世界の一員になった感じするな」


「最初の頃と比べると皆さん生き生きとしていますね」


「うん。そういえばシアはどうするんだ?移民補佐官としての仕事はほぼ完了になるわけだが」


「今のところ特に異動等は考えていません。将来彼女達が独立して各々で暮らすようになるようなことがあれば、その時に改めて検討しようかと」


「そうか、それがいいと思う。六人で家族って感じするし」


「良い傾向だと思います。シアはもう少し移民補佐官として頑張る必要があるでしょうけど」


サチの厳しい評価に苦笑いしながら彼女達の明るくなった姿を頭に浮かべる。


移民の五人を受け入れる時に俺自身も不安があったが、上手く馴染めたようでよかった。


いずれまた彼女達のような強い移民希望者が出てくることもあるだろう。


その時は出来るだけのびのび暮らせるようにしてあげたいところだ。


こちらから呼び込むつもりはないが、準備をしておいて損はないはずだ。


その辺りもう少しサチと深く話しておいた方がよさそうだ。


そう思いながら俺は空になったグラスにお茶を追加して、サチと今後について話し合うことにした。

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