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ツユツキの試験

下界には酒の他にもタバコやコーヒーといったものが存在する。


タバコというと体に悪影響を与える嗜好品という認識があったが、下界では健康タバコという名前で広まっている。


健康タバコは名前の通り吸うと怪我の治りが早くなったり、解毒作用で体内がリフレッシュされたりする。


使われている素材は薬草と巻紙。巻紙さえ買っておけば出先で薬草を摘めばいいので、旅人や冒険者達の間で緊急時の道具として重宝されている。


作り方は薬草を軽く揉んでからロール状に巻いて巻紙で包めば完成。


あとはそれに水を先から染み渡らせて口から薬草エキスを摂取する。火は使わない。


効果はポーションや傷薬ほどではないものの、自己治癒力を高める効果がちゃんと発揮される。


うーん、調べれば調べる程これって簡易錬金術だよなぁ・・・。


火を使わないのに何故タバコという名称が付いているのか気になって調べ始めたが、実際使ってみるところをよく見させてもらったら巻紙から煙が出ている事がわかった。


この巻紙は水に濡れると紋様が現れ、それが巻くことで重なると効果が発動する一種のスクロールだった。


効果は熱により中の薬草エキスを抽出しやすくするというもの。この効果が発動すると煙、というか湯気が出るところからタバコと呼ばれるようになったようだ。


しかし、この巻紙地味に凄いぞ。


加熱方法が火魔法ではなく熱魔法によって行われている。ヒートの魔法の有効活用例だな。


紋様も重なることを前提にしてあるので、ただ濡れただけは効果が発動しないし、製造の際は天然素材で作られた特殊なインクをハンコでスタンプするだけと生産性のところまで考えられている。


考案者の並々ならぬ熱意を感じる。


ただ、流行らない決定的な欠点がある。


とにかく薬草の苦みや渋みが相当強く出てしまうようで、使う人は必要に迫られて仕方なく我慢しながら吸っているという感じだ。


味の改善をすればもっと売れそうな気もするが、その辺りは既に試行錯誤が行われた後のようで、味の改善の無い安価な巻紙と様々な味の改善が加えられた高価な巻紙が確認できた。


高価な巻紙は抽出速度を抑えて緩やかに抽出することで苦みや渋みを減らし、紙に甘味料や香料を塗布してある。ハーブ飴みたいな味になるのかな。


これだと折角の薬草成分も落ちてしまうが、購入者は健康意識より高級巻紙のタバコを買えるだけの財力を表現する目的で買うのでこれで十分のようだ。


あと高価な巻紙には若干の依存性が確認された。


と言っても中毒性のあるものではなく、味が美味しくてつい次に手が出てしまうというものだ。


美味しくて健康になれるならいいのかな?


でも過ぎたるは及ばざるが如しとも言うので何事も程々がいいのかもしれない。俺も食べ過ぎには気を付けよう。




今日はジル婆さんのところへお邪魔している。


「という感じで下界じゃ薬草類を使ったハーブティーが主流かな。効能重視って感じ」


「どうやって作ってるんだい?」


「細かく刻んで布の袋に入れて、そこにお湯を注いでたかな。最後にぎゅって絞る人が多かったかも」


「そんなやり方じゃ味が悪くなるだろうに」


「みたいだな。大体の人は少量を一気に飲み干してるよ。食後の締めに飲んで残った食欲を消し去る目的もあるみたいだった」


「難儀な世界だねぇ」


「こっちで飲むようなお茶が飲まれてるところは大分限られてるね」


「ほう、あるにはあるんかい。詳しく教えな」


鋭い眼光をこちらに突き付けてくる。興味津々のようだ。


テーブルを挟んで俺とジル婆さんは下界のお茶の話で盛り上がる。サチは相変わらずジル婆さんが少し苦手なようで、離れた席で一人でお茶を楽しんでいるようだ。


「そういえば座席増やしたんだな」


「あの子の提案でね。あの、観光島を走るやつの座席が良かったから取り入れようとね」


「へー、ツユツキの提案だったのか」


「色々と気が利く子だよ。なんでアタシなんかに懐いたのかね」


「茶師として一流だからだろ。あと、気の利かせ甲斐があるからじゃないか?」


「・・・はっ、どうせアタシはひねくれ者だよ」


「ははは、そういうとこそういうとこ」


照れ隠しでそっぽを向く婆さんに笑いがこぼれる。慣れるとこういうところも愛嬌に思えてくるから面白い。


「まったく・・・茶葉選びにどれだけ時間掛けてんだい」


「大事な試験だから厳選したいんだろう」


茶葉置き場の方に視線をやるが、ここからでは中の様子はわからない。


「時間制限も付けるべきだったね。そうしたらさっさと失格にできたのに」


「・・・する気無い癖に」


「なんか言ったかい!?」


「いんや。それよりここ最近どうしてたか教えてくれよ。観光島のこととかさ」


試験が始まる準備にもう少し掛かりそうなので、印象を下げないよう気を紛らわすべく話題を逸らした。




「今日はよろしくお願いします」


和服姿で着飾ったツユツキが深々と礼をする。


「あぁ、こちらこそ」


「楽しみです」


離れて座っていたサチもこちらに席に来て俺の隣に座って一緒にツユツキの挨拶に返す。


「それじゃ試験の内容を伝えるよ」


今日はジル婆さんの頼みでツユツキの試験の試験官を担当することになっている。


これに合格すればツユツキは晴れて茶師として職を名乗る事ができるようになる。


と、いうのがツユツキに伝えられている表向きの内容。


実際はロゼ達がそれぞれ一人前として働き始めているのに、ツユツキだけ自分の下で修業中というのは体裁が悪いので一人前にしてやりたいというジル婆さんの優しさから来るものだった。


素直に認めてやればいいものを、と内心思ったがそれが出来ないのがジル婆さんだ。


婆さんには茶葉の提供やほうじ茶、観光島の出典で色々と世話になってるので二つ返事で引き受け、今日に至っている。


まぁツユツキの様子も見たかったし、普通に試験内容も気になるという興味心もあったというのは否定しない。


「お題は三つ。冷たいお茶、温かいお茶、そしてオリジナルのお茶を出して一定の評価を得られれば合格。得られなければ不合格で基礎からやり直しだね。試験官はアタシとこの二人でやる。心してかかりな」


「はい」


「よし、それじゃ一杯目を出しな」


ジル婆さんがそう言うとツユツキは既にグラスに淹れて準備していた冷たいお茶をそれぞれの前に置いた。


「綺麗なグラスだな」


グラスを掲げると透明な上部から下部に向かって徐々に青いグラデーションになっていて、中身の薄緑とのコントラストが美しい。


「氷は入っていないのですね」


「氷を入れると味が薄まってしまうので今回入れていません」


「説明中も外に出していたようだけど、いいのかい?」


「大丈夫です。どうぞお召し上がり下さい」


ジル婆さんの鋭い指摘にも動じない辺り自信があるようだ。


「それじゃ頂きます・・・んっ!意外と冷えてる」


口をつけてグラスを傾けると少し冷たいお茶と感じるが、飲んで行くうちに徐々に冷たくなっていくという不思議な感覚に襲われた。


「・・・ふぅ、一気に飲み干してしまいました。もう一杯欲しくなりますね、これ」


空になったグラスを置くサチの言う事に強く頷いて同意する。


冷たさもあるが、お茶自体の滑らかな質感と心地よい茶葉の風味が清涼感を与えてくれている。


運動した後や汗をかいてる時に出されたら軽く三杯は飲めてしまいそうだ。


「ふむ、氷を入れてないのに冷たいのはこのグラスの力だね。これ、どこで手に入れたんだい?」


飲み切って空になったグラスを掲げながらジル婆さんが聞く。


「観光島で知り合ったガラス職人の方に作って頂きました。グラスに氷の精霊石の粉末を混ぜ込んでいるそうです」


「この青い色は精霊石の粉なのか。なるほど、底の方が濃いから飲んで行くうちに冷たさをより感じるのか」


「仰る通りです」


「・・・これ凄い技術ですよ。観光島に来た人ですか?」


「いえ、同じく観光島に出典してる方です」


・・・はて、観光島にガラス細工を出してる人いたっけ?一通り見て回ったはずだけど。


「・・・もしかしてその方、香水を出典していたりしませんか?」


「はい。その通りです」


「あー・・・」


ガリウスか!そういえばアイツ、本職はガラス職人だったっけ。


「仕事終わりによく寄って行かれるので自然とお話するようになりまして」


「あの女装大男と何か話してると思ったらそんなこと話してたんかい」


ジル婆さんの言葉にツユツキはにっこりと微笑む。


ツユツキは意外と芯が強く、胆力を持っているのでガリウスのようなインパクトのある人物相手でも物怖じしないのだろう。ガリウスも話せばいい奴だしな。見た目はアレだが。


「まったく、抜け目がないね。よし、それじゃ次に移るよ」


「はい、準備します」


「あ、その前に次に向けてこのグラスを水入れとして使ってもいいかな」


「了解です」


次は温かいお茶か。


水を飲み過ぎないよう気を付けないとな。

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