第零回技術検討会 後半
集まったメイド達が持ち場に戻り、検討会が再開した。
「浄化フィルター?屋外向け?便利だと思うけど。あ、交換が必要だから採用されてないのか。んー・・・フィールドワークの研究者とか警備隊みたいに定期巡回する人に頼むのはダメなのか?」
「これは製造コスト面で没になったと。コスト削減の研究はした上で没にしたんだよな?え?してない?じゃあまだ改善の余地はあるんじゃないかな」
「これ、さっき格納行きにした技術と組み合わせたら上手くいかないかな。うん、それ。そうそう、相乗効果でデメリット部分がかなり打ち消せると思うんだけど、どうかな」
「それじゃ、次・・・大丈夫か?」
十数個程の技術の再検討を終えたところでアリス達が疲弊していることに気が付いた。
「だ、大丈夫です。この程度、情報館の者として、処理しきってみせます」
「いやいや、明らかに大丈夫じゃないだろう。休憩しよう休憩」
半ば強引にアリスの作業を中断させると、ユーミやシンディの気張ってた表情が緩やかになり、二人の部下達はへなへなと床に座り込んでしまった。
「すまん、もう少し気遣うべきだった」
「いえ、主様のお力を見誤ってた我々に落ち度があります」
深々と頭を下げるアリスに困っていると隣で悠々とお茶を飲むサチが口を開いた。
「まだまだですね。アリスはソウの発言を真に受けすぎです」
「ど、どういうことですか?」
「ソウの言う事はどれも可能性を示しているだけで、やれると断言していません。それを真に受け直ぐに行動に移そうとすれば疲弊するのは当然です」
「ですが、このような素晴らしい考え方を提示されては動かずにはいられません」
「まぁ落ち着けって。確かに情報伝達の速さを重視するのは情報館として間違ってはいないと思うが、今回は元々止まっていた技術を再検討する場なのだから、急がず会が終わってから動いてもいいんじゃないか?」
「・・・確かに冷静さを欠いていたかもしれません。猛省致します」
「それに気付くための第零回なんだし、次からは気を付けよう。俺ももう少し周りを見ながら話すようにするから」
「・・・はい」
うなだれる頭にそっと手を置いて軽く撫でる。
誰だってミスはある。本人が反省してるならそれ以上言う事は無いし、たぶん俺はこうやって優しくするのが役割なのだろう。
そんな風に思っていると、目の端でユーミとシンディが口に手をやって身を寄せてこっちに視線を送っていた。まるで噂話をするご婦人みたいだなお前ら。
「二人してなにしてんだ?」
「いやー、ご主人様がいらっしゃるとアリスさんの新しい一面が見られるので嬉しくて!」
「最近ちびアリスちゃんに振り回される様子も散見されますし、旦那様には感謝しております」
それを聞いてアリスは慌てて頭を上げ、平静を保とうと努める。逆にそういうところが愛嬌になってると思うぞ。
「あ、ダメですよアリスさん、自身を厳しく統制しようとか思っちゃ。アリスさんのそういう一面が見れることで館内の士気向上に繋がっているのですから」
「な、なにを根拠に・・・」
「こちらが旦那様がいらしてからのアリスさんへの印象アンケートの結果、こちらはちびアリスちゃんがいらしてからの結果です。ついでにこちらが館内の作業士気の変動グラフです」
シンディが追い打ちのように表示させたパネルには俺が情報館に来る前と来た後、ちびアリスが来てからのアリスへのアンケートが表示されているが、目に見えて良くなっているのがわかった。
「いつの間にこんなものを・・・」
「アリスさんが身を引き締めて以前の自分に戻ろうとした時に表示するよう上位職員間で共有してあります」
「だからダメですからね!今のアリスさんでいてくださいね!」
「う・・・ぐぐ・・・」
完全に外堀を埋められて唸るしかないアリス。強く慕う気持ちからの行動だと思うが、一気にアリスの尊厳を落としすぎてる気がする。気の毒なので助け舟を出そう。
「優秀な部下を持ったな」
「・・・そうですね」
微細な顔の動きと視線をアリスに送ると俺の意図を理解していつもの冷静なアリスに戻った。
「優秀すぎるようなのでもう少し仕事を割り振ってもよさそうです」
「えっ!?」
思いがけないアリスの一言にユーミとシンディの声が重なる。
「皆さん今の私を好いて頂いてるようですし、それならば別の新しい一面も見せていこうと思います」
「・・・あの、アリスさん、もしかして怒ってます?」
「いえいえ、まさかそんな。やはり善意には善意でお返しするのが正しい形だと思っているだけです」
そう言ってパネルを素早く操作すると、ユーミとシンディの元に通知が届いた。
「げ!?なんですかこの量の仕事は!?」
「期限が短すぎませんか!?」
悲鳴を上げる二人と同時に館内からも同じような悲痛な声が上がった。
「最近皆さん部下が付いて仕事が分担できるようになってきた分、個人の処理能力が錆びついてきていると感じていました。そろそろ鍛え直そうかと思っていたところでしたので丁度良かったです。これはそんな私からのプレゼントです」
普段表情がほとんど出ないアリスの顔が慈愛に満ち溢れて見えた。うん、怖すぎてそういう風に見ないと俺の心が持たない。
「そ、そんなぁー!?」
藪をつついたら蛇どころかドラゴンが出て来た事態に情報館は大騒ぎになった。
これはもう検討会を続けられそうにないな。
サチ、笑うのを我慢しすぎて膝に頭を乗せて寝てるちびアリスまで小刻みに揺れてるぞ。ほら、帰る準備するよ。
帰宅後、アリスから連絡が入った。
「お恥ずかしい限り、だそうです」
「ははは、情報館も賑やかになったな」
「良いのか悪いのか、判断が難しいです」
「効率が上がってるなら良い事だろう。個性的な子達が増えてアリスは大変かもしれないが」
「あ、それについて提案があるそうです」
「ん?」
「頭を撫でて貰えたのが思いのほか良かったので、今後は褒賞の候補のひとつにしたいと」
「なんだそりゃ。そんなんでいいのか?」
「是非にと」
「うーん、アリス達がそれでいいと言うなら構わないが・・・本当にただ撫でるだけだぞ?」
「長らく仕えるべき主人がいなかった天機人達なので、名付けやスキンシップを特別視しているのでしょう」
「そうか・・・まぁ俺が出来ることがあるなら極力協力しよう」
「ありがとうございます」
他にも今日の連絡事項を聞き、必要なら答える。
そういえば結局検討会は俺がやったような出来そうなことを参加者からとにかく列挙してもらう形式になるそうだ。
検討会が終わったら技術発案者に連絡、再研究の意思があれば考案権利を保持、なければ自由化して意欲のある者に託すという形になる。
出来そうなことを考えることと実際改良するのには大きな差があるので、理想を追い求めすぎて生活を疎かにするのだけは止めて欲しいところだ。
あと、今回検討会をして感じたのは個人の範囲で研究を終えているものが多かったという点。
他の分野に転用できそうなものが結構あったので俺もあれだけ考えが出せた。
その辺りをサチに伝えると。
「この世界のものの大半は趣味ですからね。個人が満足してしまえばそこで終わりになってしまうのです」
「あー・・・」
「ソウがこちらに顔を出すようになってから神様が何を求めているか明確になった部分があるので全体的に技術への関心が高くなりました。研究所でも他分野の研究者達と話し合ったり共同研究するようになったようです」
「そうか。それはなによりだ」
改めて自分が神ということを感じる。
皆は俺のためにと頑張ってくれている。
ならば俺は皆のために頑張ろう。
まだまだ神として未熟だし、日々研鑽だな。
もちろん無理はしない。皆に示しがつかないからな。程々に頑張るよう心がけよう。




