第零回技術検討会 前半
「・・・あー・・・やっと終わった・・・」
「お疲れ様です」
長椅子に全体重を預ける俺にアリスが労いの言葉と共にお茶を出してくれる。あー、心の疲れが癒される。
「サチはどうしてる?何か調べものがあると言って早々に居なくなってたけど」
「現在古い研究資料を集めている最中ですね。シンディさんとユーミさんを補佐に付けましたのでもうじき終わるかと思われます」
「そうか。じゃあ戻ってくるまでゆっくりさせてもらおうかな」
「かしこまりました。お茶菓子はクッキーで宜しいですか?」
聞きながら既に空間収納からクッキーが入った器を出している。
前に出してもらったものより出来がいいのが一目でわかるが、出したアリスが妙にそわそわしている。
「・・・味見して欲しいのね」
「館内の者達では何を出しても美味しいとしか言わないものでして」
「そうか。どれどれ?」
クッキーをひとつ手に取り口に運ぶ。
相変わらず俺の作るソフトクッキーと違ってボリボリとした歯ごたえが楽しいクッキーだ。
「・・・前に食べたものから何か追加されているな。ほんのり香りがして美味い」
「ありがとうございます」
「うーん・・・風味的に何かの種っぽい感じがする。粉末にして練りこんであるから特定はできんな」
「さすがソウ様、そこまで分かるのですね。そのクッキーにはこちらを使っています」
アリスがテーブルに置かれたのは俺がアーモンドっぽいと勝手に認識している種だった。
本来これは粉末にして飲み物に混ぜて楽しむものだが、アリスはそれをクッキーに転用したのか。
「いい発想してる。アリスが考えたのか?」
「いえ、クッキー開発部署の者達です」
「そんな部署あったっけ?」
「最近部署名の変更を行いました。元々はワカバさんとモミジさんが持ち帰る料理の情報を管理する部署でしたが、彼女達に触発されて各々趣味と称してクッキーの研究をしていたのでそのまま正式に仕事として採用しました」
「研究はクッキーだけなのか?」
「管理業務もありますので現在はクッキーだけです。成果次第にはなりますが、いずれは専属化させて別の料理を任せたいところです」
「そうか。最近食に興味がある子が増えて来たし、ルミナと連携して天機人の食材研究士を招き入れてもいいんじゃないかな。後でサチに提案したこと伝えておくよ」
「ありがとうございます」
視線をテーブルに戻すとふとアリスが置いた種が目に入る。
この種、味はアーモンドっぽいけど形がハート型なんだよなぁ。
なんとなく興味心のままに種を半分に割って少しだけかじってみる。うん、やっぱりアーモンドだね。
「これ、軽くローストして粗く砕いたのをクッキーに入れたら美味そうだな・・・うおっ!?」
独り言のようにぼやいたらアリスがいつの間にか隣で目を輝かせていた。
「是非詳しく!それに他にも試食して頂きたいクッキーが!」
「わかったわかった、落ち着くんだ」
何かスイッチが入ってしまったアリスに圧倒されながらサチ達が戻ってくるまでクッキーの試食と助言をすることになった。
最初に会った頃と比べるとアリスも随分感情豊かになったものだ。
相変わらず表情はあまり変化しないけどいい傾向だと思う。
「それでは第零回、技術検討会を行いたいと思います」
「わー」
司会進行のシンディの開始の声にアリスの膝の上に座ったちびアリスが手を叩いて場を盛り上げる。
部屋には俺とサチ、アリス、ちびアリス、シンディ、ユーミの他にシンディとユーミそれぞれの部下が数名となかなかに賑やかになっている。
今回俺とサチが情報館に来たのは過去に研究で生み出されたものの用途が見出せなかった技術を調べて再検討するためだ。
そのことをアリスに伝えるといい機会ということで二人の部下も参加することになった。
「今回は第零回ということで、ひとまずやってみようという試験的な会としております。また、部下達に経験を積ませる機会としてソウ様、サチナリア様、ご協力頂ければ幸いです」
「わかった。それで、どういう風に進めるんだ?」
「まず、あまり使われていない技術や素材を提示して紹介します。次にそれについて皆さんで話し合います。そして何か使い道が見出せたら保留、見出せなかったら再び格納となります。以上です!」
シンディの代わりにユーミが説明してくれる。前よりたどたどしさが無くなってしっかりした雰囲気が出て来てて成長を感じる。元気なのは相変わらずだな。
ユーミの部下達はわかりやすく緊張した様子でガチガチになっているが、シンディの部下達は目を閉じて落ち着いている・・・ように見えたが、よくよく見たら手が震えていた。
こういう時はさっさと始めてしまった方がいいな。
「よし、とりあえずやってみよう。提示を頼む」
「は、はい!」
ユーミの部下が前に出て空間収納から対象を取り出してテーブルの上に置く。
円筒形で上下に金属が付いており、胴の部分は半透明になっていて空になった中が見えている。
「これは?」
「えっと、マナを蓄える装置です!あの、その!」
「落ち着いて。ゆっくりでいいから」
「深呼吸がいいですよ!深呼吸!」
「は、はい!すぅ・・・はぁー・・・」
小声でアドバイスするユーミに従って深呼吸をする。微笑ましいなぁ。
「め、メリットは念を使う直前の体内精製されたマナと同等の力が貯えられることです。素材のコストが抑えられているところも良い点です」
「え?普通に凄いものじゃないか。なんで使われてないんだ?」
「デメリットが大きすぎるからかと。これに力を蓄えるには人がマナを注がないといけないので自然に貯える事ができません。そして、時間経過で自然と放出されていってしまうんです」
「つまり放っておくと空になるのか」
「はい。もしマナが必要になったら完全食を口にすれば良いので利用価値が見出せず、このサンプルだけ格納されてました」
「なるほど・・・。皆はこれをどう見る?」
「うーん・・・」
「・・・申し訳ありません」
サチとアリスに聞いてみたが、どうやら二人とも何もひらめかないようだ。ちびアリスは興味深そうに装置を色々な方向から覗いているが会話に興味は無さそうだ。
「質問があるんだけど、その時間経過で放出されるってのは空間収納に入れててもされるのか?」
「原理はわかりませんが、されてしまいます」
「ふむ、減少量とかは分かってる?」
「えっと、この大きさで最大まで貯蓄した場合、およそ五日で空になります。減少量はほぼ固定値です」
「ほうほう。それなら精霊石の代わりのようなものが作れるかもな」
その一言にサチとアリスが食いついた。
「ソウ!それはどういうことですか!?」
「主様!詳しくお願いします!」
「お、落ち着け。作れそうってだけで作れるかどうかは技師次第だからな。とりあえずもう少し研究出来そうって話」
「それはいいですから、ソウは何を思いついたのですか!」
「わかったわかった、説明するよ」
俺は自然と放出されてしまうところに着目した。
放出量は一定量らしいので、それを逆手に取って固定作業をする装置のエネルギー源として組み込めば利用価値ができると考えた。
例えば煮物のような料理は長時間加熱する必要がある。
今は精霊石のコンロのおかげでありがたく作らせて貰えるが、定期的に精霊石を交換する必要がある。
だが、この貯蓄装置があれば精霊石を使わずにコンロと同じことができるのではないかと思っている。
「と、いうような感じなんだけど、どうかな?使う道具側に力を制御する装置を組み込んだりする必要はあるけど」
そこまで説明するとアリスは俺の手を取り祈るように頭を下げた。
「やはり主様は素晴らしい御方です」
「え?何?急にどうした?」
「これは技術革新になりえます。そうですね?サチナリア様」
「ソウの言うように技師次第ではありますが、少なくとも改めて研究が必要なのは確かですね」
パネルを開いて何かのリストを作りながらサチが答える。
それを見て言おうか言うまいか少し留めていた考えが小声で口をついて出てしまった。
「・・・いずれはちびアリスの稼働時間の延長ができるかもしれんな」
「主様!それも!」
「はいはい」
かなり小さい声で言ったはずなのにしっかり聞かれてしまったので、ちびアリスの予備バッテリーの可能性をアリスに語る。
「こう、背負う鞄のようなものにしてエネルギーを供給できれば疲れにくくなるんじゃないかな」
ちびアリスに何も入ってない背負い鞄を装着してもらい、説明するとその場の全員がちびアリスに注目したまま動かなくなった。
「あるじたま、にあう?」
「うむ、似合うぞ。メガネも付けてみようか、賢く見えそうだ」
「ほんとー!?」
のほほんとしたやり取りをしていたが、誰かがリークしたのか情報館のメイド達がちびアリスの姿を一目見ようと殺到したため検討会は一時中断となってしまった。
そして俺は新しい技術を考えついた時より褒め称えられた。
うーん、複雑な気分だ。




