09「大人の、おもわく」
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『ああ、君がジョセフィーヌの王子様だね』
王子様。
予想だにしなかった言葉に頭が真っ白になる。
『へっ!?はっ!?』
いや、そもそも元王子様に王子様って言われる俺の立場!!
『エナシアが自分そっくりって言ってたけど、うん、確かに似てる。
……おいで、お姫様に会いに来たんでしょ?』
ちょいちょい、と手招きされる。
王弟殿下のそばに行くとか畏れ多すぎる!でも行かなきゃ行かないで大問題!!
頭の中が大混乱だ。
これ、俺本当に行っていいの?大丈夫?不敬にならない??
『大丈夫。取って食ったりしないから。おいで』
穏やかな声を聞いて、心がスッと落ち着いた。
『……失礼、します』
ゆっくりとベッドに近付き、殿下の足元に跪き、頭を垂れる。
『サビニエル侯爵家ちゃくなん、レックス=サビニエルと申します。お目にかかれて光栄です、イオルム王弟殿下。両親が大変お世話になっております』
『…………ふふっ』
少しの沈黙の後、笑い声が聞こえて顔を上げると、王弟殿下は口を押さえてクスクスと笑っていた。
『??』
『ああ、ごめんね、気分を悪くしたなら謝るよ。
可愛い王子様だなと思ってね』
可愛い王子様。
むしろ今の言葉の方にムッとしたんだが?
『ふふ、顔に出てる』
『ひえっ!?』
口元から手を離すと、殿下はニンマリと口を弓のようにして笑った。
『素晴らしい挨拶をありがとう、小さな紳士。
僕はイオルム……うーん、ウルフェルグって言うべき?セスを名乗るべき?』
知らんがな。
『まあいいや!僕がイオルムでーす。
はじめまして、レックスくん。僕が取り上げた子がこんなに大きくなって、涙ちょちょぎれちゃう』
『……え?』
王弟殿下が取り上げてくれたって話、本当だったの?
『疑ってたの?ほんとほんと。僕が取り上げましたー!
久々のお産で感動しちゃったぁ、エナシアは複雑そうな顔してたけど!双子ちゃんの時もおんなじ顔してたなぁ』
『ええっ!?』
リズとベスも殿下が!?
『うんうん。そうなの。リリスが心配してたから、僕がお産の面倒見ることにしたんだ。
双子ちゃんも元気かな?グレイリオにはこの前会ったけど』
俺は何を聞かされているんだ……。
『ああ、話がいっぱい脱線しちゃった!ごめんごめん。
ジョセフィーヌちゃんには薬を飲ませたから大丈夫、熱は下がって、今は眠ってる』
そうだった。
『失礼します!』
慌ててジョセフィーヌの枕元に駆け寄る。
ジョセフィーヌは、穏やかな寝息を立てて眠っていた。
額に触る。俺の手の方が温かいくらいだった。
『……良かった……』
『急に表舞台に引っ張り出しちゃったから色々、ね。
僕より大人びてるから油断してた。まだ九歳の女の子には、大人の思惑は毒だったな』
『大人の、おもわく』
『うん。僕のことが気に入らない人とか、僕に阿りたい人とか、僕を蹴落としたい人とか、僕に大事な用事がある人とか、ね。
身体についた傷や、身体を蝕む毒なら治せる。でも、心についた傷ばかりは魔法では治せない』
『……何か、傷つけられることを、言われてたんですか?』
『それはわからない。ジョセフィーヌちゃんの許可があれば記憶を覗くけど、まだそこまで話してないからね』
記憶を覗く、って、なんかとんでもないことをサラッと言ったぞこの人。
『ふふ、驚かないね、君は』
『両親に、殿下のお話は聞かされていたので。何でもありの人だと』
『あははは!何でもあり!!間違いない!!んもう、エナシアってば言い方!!』
しばらく手を叩いて大笑いすると、殿下は小さく息を吐いた。
『犯人の目星はついているから安心して。息がかかってるやつも含めて、二度とこの子に近付けないようにするからね』
『……はい、よろしくお願いします』
『ん?手を握ったり、しないの?』
『婚約する時に、「すこやかなこうりゅう」をしたい、って言われたので』
『……じゃあ、チュウとかは?』
『してないです。……したいけど』
ジョセフィーヌの顔を見つめる。
陶器みたいな肌、少しだけふっくらとした唇。
ああ、出会った時から可愛かったけど、今も本当に可愛い。
『…………』
『…………殿下?』
静かになった殿下を振り返る。
殿下が目をキラキラと輝かせてぷるぷる震えていた。
『やだあああ!じゃあ本当に王子様じゃん!僕なんて君くらいの歳の時に七歳のリリスにたくさんチュウしてたよ!?』
『はあああっ!?』
『だって我慢できないもーん!リリスも良いですよって言ってくれてたし!!』
『何とんでもないこと暴露してるんですか!』
『あーんもう可愛い!レックスくん純情男子で感激しちゃった!!さすがエナシアとグレイリオの子!!』
純情男子、かな。
『純情かは、わかんないです。意地も、あるかもしれないし』
『……ふぅん、意地?』
『初対面の時に失敗したんで、もう絶対失敗しないぞ、って、思って』
『だから、触れないの?』
『はい』
『ふぅん、なるほどね。悪くないとは思うけど、自己満足にならないようにね』
『……どういうことですか?』
『どこかの国の王子様が、むかしむかーしに婚約者の女の子を自分のせいで命の危険に晒してしまったんだ。
その王子は自分のせいだからって婚約者に触れるのをやめて、逃げて逃げて逃げて消えようと思ったら、その婚約者が追いかけてきてぶん殴られちゃったの。
「私がいつそんなことを言ったの!!?」って』
『……』
『だからね、ちゃんと言葉で確かめなよ。僕みたいにならないように』
やっぱり。
『聞いたことあるなと思ったら、やっぱり殿下の話でしたか』
『えっ!?誰から聞いたの!!?』
『……母です』
『んもーう!エナシアってば!!ぷんぷん!!』
嫡男を当初漢字にしてたんですが、悩みに悩んでひらきました……(でも後で戻すかも)
子ども時代なので、漢字は年齢+小学校の学年にしてプラス1か2(ジョセフィーヌはもうちょいレンジ広め)にしてるんですが、意外と難しい漢字も低学年で習ってるんですよね!すっかり忘れてる!!




