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初手でやらかしてしまった俺が、一目惚れしたあの子と結婚するまで  作者: アカツキユイ
四年目

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10/17

10「王子様は君だけだ」

ブックマーク・評価・ご感想ありがとうございます!

 とてもわざとらしくぷんぷんと怒ってみせた後、殿下は表情を和らげて俺を見た。


『ジョセフィーヌちゃんは気持ちを言葉にするのが苦手な子だよね』

『……はい』


 ジョセフィーヌは論理的なことはスラスラと淀みなく話せた。

 しかし、感情に関しては本人もよくわかっていない。出会った時からそうだった。


『言葉にするのを、君が手伝ったって良いんだ。早く手を繋いだりしたいなら、なおさら!』


『なんで手をつなぐことが決まってるんですか』

『まずはそこからだからだよぅ』


 殿下がふふふと一人で笑って、椅子から立ち上がった。


『それじゃあ僕はそろそろ帰るね。リリスもジョセフィーヌちゃんのことを気にしてたから、大丈夫って報告しないといけないし!

 睡眠改善の魔道具は、オフにしたついでに調整もしておいた』


 そうだ、すっかり忘れていた。

 王弟殿下の顔の一つが、世界最高峰の魔道具師の一人と言われる魔道具師ヨルム。

 同一人物だと認識されていないことが多いが、ウルフェルグは魔道具の普及率が高いため、『魔道具の父』と呼ばれていたりする。


『調整?』

『あれは身体の疲労が回復すると決まった時間に覚醒を促す仕組みになってるから、しばらくは使用禁止。夫人には僕から伝えておくよ。

 君も使ってるんだよね?心の疲れは回復できないから、そういう時はオフにしてとにかくたくさん寝ること。エナシアが根性論を持ち出してくるかもしれないけど、グレイリオと協力して説き伏せるんだよ?良いね?』


 根性論……母さん……。

『はい、ありがとうございます。父に伝えておきます。一応……母にも』

『はは、エナシアすぐ忘れそう!

 じゃあレックスくん、ジョセフィーヌちゃんをよろしくね。この子の心の支えは君だよ』


 心の、支え。

『……気休めでも嬉しいです。ありがとうございます』


『気休めじゃない』


 間髪入れずに返ってきた言葉を聞いて、反射的に殿下の顔を見た。

 殿下はまっすぐ、俺を見ていた。


『気休めじゃない。僕は、はぐらかすことはあるけど嘘は言わない。

 この子の支えは君だ。物理的な守りは僕たち大人がする。

 けど、僕は心の支えにはなれない。それは、この子の家族や、君たちサビニエル家のみんなの役割』

『……』


『一度しか言わないよ。ジョセフィーヌの王子様は君だけだ。他の誰でもない。覚えておいて』


『……はい』


『ん、よろしい』

 殿下は俺の目の前に立つと、ワシワシと頭を撫でた。

『わあっ』


『頑張ってね』

『頑張ります!』


『じゃあねー!エナシアたちによろしくぅ!』

 去り際にそう言い残して、颯爽と殿下は部屋から出て行った。


 後には俺と、眠っているジョセフィーヌが残された。

 ドアはうっすらと開いて、ジョセフィーヌの侍女が立っているのが見える。


『……ジョセフィーヌ』

 俺はまだ王城には入れない。ジョセフィーヌが戦っている場所に、行くことすらできない。


 王子様は俺だけ。


 早くすぐそばで守れるようになりたい。

 学業や芸術に秀でた子どもは、王城から入城許可証が発行される。

 ……俺のところには、そんな話すらやってこない。


 まずは、許可証を手に入れることだ。


 眠っているジョセフィーヌの髪をひとふさ手に取る。

『待ってろよ、ジョセフィーヌ』


「王子様」なら、これくらい、やっても良いよな……?


 鮮やかなボルドーの髪に、さっと唇を押し当てた。


『〜〜っ!!早く元気になれよな!!』


 聞いているはずもないのに大声を出すと、逃げるようにジョセフィーヌの部屋を飛び出した。


 そのまま、おばさんへのあいさつも忘れて家に飛んで帰った俺は、妹たちの部屋に一直線に向かった。


『母さん!俺、許可証が欲しい!何を頑張れば良いか一緒に考えて!!』


『許可証って、入城許可証?突然どうしたの』


 妹二人を小脇に抱えた母が、ぐるんぐるんと回っている。リズとベスがきゃっきゃとはしゃいだ。


『……あ、ジョセフィーヌ、熱出してたんだ』

『熱ぅ!?』

『それで、お見舞いをさせてもらったら、王弟殿下にお会いした』


 ぴたり、と母が動きを止める。

 妹たちが『おかあさまー』『もっとー』と母を見上げた。


『そう、イオルム殿下と会ったの』

『うん。……俺、本当に殿下に取り上げてもらってたんだね』

『あんた信じてなかったの!?』

『だって、普通王弟殿下に取り上げてもらったなんて言われて信じられるわけないじゃん!』


『……それもそうね』

 リズとベスを降ろすと、母はぐるりと首を回した。

 妹たちは不満そうな顔を浮かべると、『おにいさまー』『だっこー』とこちらに突進してきた。

『わっ』


『入城許可証、発行基準はおそらくセラフィーヌたちに聞いた方が確実だわ。まずは今晩、グレイリオ様に話をしましょう』



『なるほど、入城許可証か』

 話を聞いた父は、目を細めてじっと宙を見つめた。

『ジョセフィーヌが許可証をもらったのはイオルム殿下が後見人に変わってからだね。一番手っ取り早いのはイオルム殿下に相談することだと思うけど……』


『それじゃダメだ』

『私もそう思います。殿下のことだから私たちが頼めば出してくれるでしょう。

 でもそれではダメ。レックスが自力で手に入れたということが重要だわ。周りを少しでも黙らせるために』

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