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初手でやらかしてしまった俺が、一目惚れしたあの子と結婚するまで  作者: アカツキユイ
二年目

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05「考え直したいと思います」

ブックマーク・評価・ご感想ありがとうございます!

 俺とジョセフィーヌが婚約して二年目の夏、双子の妹が生まれた。

 両親が俺の教育と同時に取り組んだことは、俺に兄弟を作ることだったのだ。


『これで仮にあなたが婿入りしても、この子たちに跡を継がせれば良いから安心ね』


 こうした母の力技で乗り越えるところは本当にすごいと思う。

 ……俺が泣いて泣いて婚約してもらったのも、力技といえばそうかもしれないが。



 我が家でお茶会をした時に、ジョセフィーヌも妹たちと面会した。


『本当だ、サルみたいですね、かわいい……』


 サルかどうかは別として、頬をうっすらと染め、目をキラキラとさせて赤ん坊を眺めるジョセフィーヌは……妹二人よりもはるかに可愛かった。

『ふげぇ……』と胸を押さえた俺を見て、母がため息をついたのはここだけの話である。



 ***



『レックスさま、今日はあまり先生のお話を聞いていらっしゃいませんでしたね』

 ある日、経済の授業を受けた後の短いティータイムで、ジョセフィーヌに指摘された。


 母は、母の実父の母であるばあやのハンナとともに、毎日忙しなく二人の面倒を見ていた。

 平民として生まれ育った母は、自分が育てられたように、乳母などは雇わずに自らの手で俺を育て、そして、妹たちを育てていた。


 厳しい母の目がなくなったことで気が抜けたのか、俺は勉強に身が入らなくなってしまったのだ。


『そ、そんなことねえよ』

『では、五十年前の経済危機を受けてとなりの国が講じた経済政策は何でしたか?』

『……ええっと……』


 黙り込んだ俺を見て、ジョセフィーヌがわざとらしくため息を吐き、席を立った。

『となりにいらっしゃる方が集中なさっていないと、こちらまで気が散ります。高いお金を払って先生を呼んでくださっている両親たちにも面目が立ちません。次はしっかり受けてください』


『……わかった、悪かったよ』



 しかし、次も、その次も、俺の態度は変わらなかった。

 四度目の授業の後、ジョセフィーヌはお互いの母親を呼び出した。


『わたしはもう、レックスさまと授業を受けたくありません』

『な、なんでだよ……!』


 出された紅茶に手をつけず、ジョセフィーヌは冷たい目をこちらに向けた。


『何度おねがいしても、授業中に上の空。めいわくです』



『……レックス、どういうことなの』

 俺の隣に座る母の方から、冷気が流れてくる気がした。


『ち、ちがう!そんなことねえよ、ちゃんと受けて』

 俺の幼い言い訳を、ジョセフィーヌがピシャリと遮った。

『三回おねがいしましたが直りませんでした。げんかいです』


『ごめんなさいジョセフィーヌちゃん。先生からきちんとお話を伺うわ。この馬鹿の根性も叩き直します。しばらくの間、ひとりで受けてもらえるように手配するわね』


『おねがいします、おばさま。この調子ではふだんの「すこやかなこうりゅう」もできそうにないので、わたしも考え直したいと思います』


『か、考え直すって……?』

 背中を、嫌な汗が伝った。


『このままこんやくをつづけるかどうかです』


 ***


 その夜、サロンにて。


『この馬鹿たれがあああっ!!!』

 頭に衝撃が走った。目から火花が散ったかもしれない。


『いってええええ!!!』


 涙目になりながら頭をさする俺を、母は先ほどのジョセフィーヌと同じ冷ややかな目で見ていた。

 その隣に座る父は、少し気まずそうに視線を逸らしている。


『その程度の気持ちなら、婚約なんてさっさと解消してもらいましょう』

『なんでだよ母さん、おうえんしてくれるんじゃないの!?』


『……何甘ったれたこと言ってるの?そもそもあんたが泣き落として結んでもらった婚約だってこと、忘れた?』


『だけどおれだって、せいいっぱいがんばって』

『精一杯頑張ってる奴が集中できてないって四回も注意を受けるわけがないでしょう!!?』


『……だって』

『だって何だ。言い分があるなら聞いてやる』


 母の口調が完全に荒れている。

 この頃の母はいつもイライラして眠そうだった。


『おれだって……遊びたいし……みんな、楽しそうだし……』


『あのねえ、あんたは頑張らないといけないの!

 ジョセフィーヌちゃんの足を引っ張るなんて言語道断なのよ?

 あんたが遊ぶだけ、ジョセフィーヌちゃんとの結婚は遠くなるの』


『それはいやだ!いやだけど、勉強ばっかりじゃつまんない!』

『いい加減にしなさい!』


 母が立ち上がりかけたその時、父が母の右手をつかんだ。


『エナシア。あとは僕が話をするから、君は休みなさい』

『グレイリオ様、ですが』

『今夜はシッターも頼んだよね?リズとベスは大丈夫だから、しっかり寝なさい。

 寝不足は判断力を鈍らせる。感情任せにこの子を怒鳴ることはお互いのためにならないよ』


『……わかりました。あとは、よろしくお願いします』


 母は父に頭を下げると、俺を見ることなくサロンを出て行った。


『……ふう、さて、紅茶を淹れようか』

ばあやのハンナとの関係が複雑なんですが、母エナシアはお手つきでできた子です。

この辺りの詳細はシリーズ内の「私の心の声を聞けば全部解決?そうですか、狙い通りの結果になることをお祈りしておきますね。」で語られています。

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