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初手でやらかしてしまった俺が、一目惚れしたあの子と結婚するまで  作者: アカツキユイ
一年目

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04 「引きつづき、どうぞよろしくおねがいします」

ブックマーク・評価・ご感想ありがとうございます!

『しつれいします』


 ジョセフィーヌが「すこやかなこうりゅうができない」と判断したら即解消。

 そんな歪な形で結ばれた婚約だったが、大人たちの計らいで、出会ったその日に毎年お茶会を開き、そこで俺の意思でも婚約の解消ができるようにすることになった。


 明日がその初めてのお茶会という日に、俺は父から呼び出された。

 侯爵家のサロンに入ると、そこには父と、ラングロワ子爵ーーおじさんがいた。


『……おじさんも?』

『うん、私も。三人で話そう、レックスくん』

 おじさんはいつも穏やかだ。この日も穏やかな笑顔を浮かべていた。


『レックス、座って』

 父に促されて、ソファに座る。


『紅茶で良いですか、ラングロワ先生』

『先生はやめてください、侯爵』


 先生?と首をかしげる。

『二人の婚約のお陰で、僕たちも話す機会が増えたんだ。子爵のお話は面白くてね。先生と呼ばせてもらっている』

 父が楽しそうに笑った。


 父が紅茶を三人分淹れると、『さて』と話を切り出した。


『明日は契約更改のお茶会だが、この一年がレックスにとってどんな一年だったかを聞いてみようと思ったんだ。

 あとは、僕たちの一年も聞いてもらおう。ここではみんな、対等だ』


 対等?とまた首をかしげる。


『話していけばわかるさ。じゃあまずレックスから聞こうか。ジョセフィーヌ嬢と婚約してからこの一年間、君の生活は劇的に変わったと思う。大変だっただろう』


 大変……大変か。

『たいへんだったと思う。でも、ジョセフィーヌ……じょうが、すっごくすっごくすっごくかわいいから、ずっといっしょにいたいから、がんばった』


『そうだね。君は本当に頑張っていた。勉強の量も増えたしね。母さんも今まで以上に厳しくなっただろう?』

『……母さんは元からこわかったけど、もっとこわくなった』

『ははは!そうだね。父さんも怖いなと思ってる』


 父さんも怖いのか。母さん、おっかないもんな……。


『レックスは睡眠の質を改善する魔道具を入れてもらったんだろう?あれを僕も使ってみたいとエナシアに言ったら、すごい顔でにらまれたよ』


 母さん、夫とはいえ侯爵をにらむなよ。


『興味がありますか?グレードが色々あるので、エントリーモデルであれば安く手に入ると思いますよ。研究所を通して買えば割引が利くので』

『それはありがたい!エナシアがカリカリしていてね……睡眠の質が上がれば機嫌も良くなると思うんだ』

『今度カタログをお渡しできるように手配します。ジョセフィーヌを通じて受け取ってください』

『助かります』


『おっと話がそれた。それで、レックスはどうだい。婚約はやっぱり続けたい?』

『もちろんだよ!』

『そうか、それは良かった。君にはますます頑張ってもらわないとね』


 父が微笑むと、子爵に目を向けた。

『先生は如何でしたか。ジョセフィーヌ嬢にこんな形で婚約者ができて、ご迷惑ではありませんでしたか』



『いやぁ、そうですね……ジョセフィーヌには本当にたくさん縁談が来ていて、お断りするのも大変だったので、率直に言って感謝しています。断る口実ができたので』

『……そんなに、来てたの?』


『うん、来ていたよ。うちは子爵家だろう?立場的に押し切られると断れない。

 ずっとのらりくらりとかわしてきたけれど、さすがに王家からお話が来た時には妻と頭を抱えてねえ……そこにサビニエル夫人がお話を持ってきてくれたから、これを逃しちゃいけないと思って飛びついたんだ。

 ジョセフィーヌがあんなことを言い出したのは完全に予想外だったけどね』


『王家!?』

『そう、王弟殿下のご子息は……少しジョジョと歳は離れているんだけど、どうだろう、って。婿入りでも構わないって言われて』


『ははは!殿下は相変わらず突拍子もないことを仰るな』

『笑いごとじゃないよ父さん!』

『本当に、笑いごとじゃないんですよサビニエル卿……』


 両親……というか、主に母が王弟殿下夫妻に気に入られている。

 これは叔父がやらかした夜会で母の口が大暴走した時、ご夫妻がその場にいらしたことがきっかけだったらしい。

 俺を取り上げてくれたのは王弟殿下だったという話も聞いている。……嘘か本当かは知らないが。


『私も妻も娘の意思を尊重するという話をしていましたから、意思を尊重した結果、殿下に丁重にお断りさせていただく形にはなりました。とてもあっさり引き下がってくださったのは良かったんですが……』

『王城に出した婚約の申請に推薦のサインを足してきてねえ……あれは大騒ぎだったね』


『へ!?』

『政治には関わらない立場を明確になさっている方が、政略とも受け取れる婚約に対して一筆認めたんだ。そのお陰でほとんどの家が口出ししてこなくなったから、本当に助かったんだよ』


『……でも、ジョセフィーヌがドレスを汚されたりした、って』

『うん。そういう牽制を理解できない人というのはいるんだ。頭でわかっていても心がついてこない、そんなこともある。

 怒ってくれたとジョジョから聞いたよ。ありがとう、レックスくん』


『……おれは母さんにほうこくしただけで、母さんが』

『僕には「ドレス仕立ててきましたから!」って事後報告だったけど、あの時のエナシアは完全に目が据わっていたね。「うん、わかった……」としか言えなかった』

『その時の夫人のご様子が目に浮かびます……』



 ……なんとも言えない空気が、サロンの中に流れた。

 父が冷めかけた紅茶を一気に流し込んで、ふうと息をついた。


『レックスがジョセフィーヌ嬢と婚約して僕たち夫婦も作戦を練り直したから、大変ではあったかな。

 でも一番良かったのは、レックスがやる気になってくれたことだ。さっきの君の話だと、まだ頑張ってくれそうだから安心したよ。

 さて、新しいお茶を淹れながら、先生のお話を聞こうかな。ジョセフィーヌ嬢の様子を、ここだけの話として』



『……ジョセフィーヌは……そうですねえ、あまり感情が表に出ない子なので、一見何かが大きく変わったということはなかったと思います』


 子爵の言葉に、ついガッカリしてしまった。

 無理やり婚約してもらったのは俺なのに、ジョセフィーヌにどこか期待していたんだ。


『ですが、周りの目を認識できるようになったのは成長ですね。今までは自分と自分が興味のあることにしか関心がなかったので』

『……なるほど、周りの目、か』


『はい。それはレックスくんの婚約者になったということもある。嫌がらせを受けるようになったこともある。

 私たちの娘なので周りが見えなくなることは性質だと割り切っていますが、それでも他者との関わりを皆無に生きることはできません。

 これは、あの子の世界に飛び込んできてくれたレックスくんのお陰だ。ありがとう』


『え?そんな、おれはただ、ジョセフィーヌじょうがかわいくて、むちゅうで』

『誰かに対して夢中になれる、ということが、あの子にとっては新鮮で衝撃的だったんだ。

 あの子なりにこの一年間、レックスくんとの交流を楽しんでいたように私たちは見ていた。だからたぶん、婚約は解消にはならないよ。これからもジョジョのことをよろしくね、レックスくん』

『……はい』


 その後も、色々と話をして、男だけのお茶会は解散になった。



 翌日。


『レックスさま、こんやくはどうしますか?』

『けいぞくだ!……あ、いや、けいぞくしてほしい。おれはまだ、ジョセフィーヌじょうのこんやくしゃでいたい』

『……わかりました。引きつづき、どうぞよろしくおねがいします』


 こうして婚約は継続になり、そのあとはいつも通りのお茶会になった。

 その夜、両親が揃った場で、継続になったことを報告した。


『良かったね、レックス』

『ひとまず安心ね。でもやっと一年、ここからが本番よ』

『うん、がんばる……』


『?どうしたの、レックス』

『……ジョセフィーヌ、やっぱりすごくかわいかったんだ!!ぜったいほかのだれにもわたしたくない!!おれ、がんばる!』

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