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初手でやらかしてしまった俺が、一目惚れしたあの子と結婚するまで  作者: アカツキユイ
一年目

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03 「そこにゆうれつはありません」

ブックマーク・評価・ご感想ありがとうございます!

 俺とジョセフィーヌの婚約者としての交流は、月に一度のお茶会から始まった。


 彼女は俺以上に様々なことを学ぶために時間を割いていた。

 語学にマナーレッスン、ピアノや刺繍に馬術はもちろん、工学や天文学も学んでいたと後に聞いた。



『……もうしわけありません。なかなか時間が取れなくて』

 サビニエル侯爵家と、ラングロワ子爵家で毎月交互にお茶会をした。


『それはおれもかくごしてたから、平気だ。それより、ねむれてるのか?』

 ジョセフィーヌは感情があまり顔に出ない。

 いつも同じように淡々とした受け答えではあるものの、その健康状態が気になった。


『はい。ねむりのしつを上げる魔道具を使っていますので。短いすいみんでも、なんとか』


 眠りの質を上げる魔道具、そんなもんあるのかよ。

 めちゃくちゃ働いても眠りの質を上げて回復させようという目的なら、考えたやつはとんでもない。


『……それならいいけど、しっかりねろよ。

 かわいいのに、つかれてたらだいなしだからな』


 そう、可愛いのに。

 可愛いのに疲れていたら色々と台無しだ。


『……ありがとう、ございます』



 お茶会が終わってからは、母に会話の内容を報告しての反省会。


『台無し、はちょっとギリギリかしらね。反応は?』

『だいじょうぶだった、と、思う……』

『そう。まあジョセフィーヌちゃん自身が割とそういう物言いをするからセーフかしら。

 次に同じような会話があったら、「可愛い顔が一番だよ」くらい言ってみてもいいかもね』

『……やってみる』


 ジョセフィーヌが話していた睡眠の質を上げる魔道具は、なぜか二日後には俺のベッドに備え付けられていた。


『……これ、高いんじゃ……』

『あなたもきちんと寝ないと。

 記憶は寝ている間に定着するの。それに寝ないと背が伸びなくなるわよ』

『!!?』


 背が伸びなくなるのは困るから、しっかり使うことにした。

 使い始めてから、確かに物覚えが良くなった。

 ひとつひとつの物事の繋がりへの理解度が上がったので、睡眠は本当に大事だと思う。

 ちなみに、これは今も使っている。




 そして俺は本当に勉強量が倍になった。

 科目と時間が五割増になり……ん?

 当時は気づかなかったけど、それぞれが五割増だと、合計したら倍以上じゃないか?


 新しく増えたのは王国の地理と経済、そして少しつっこんだ魔法概論。

 魔法に関しては、使う使わないにかかわらず早いうちから仕組みを理解させようとしたのだろう。

 母は魔法が苦手である。



 地理と経済に関しては、なんとジョセフィーヌと一緒に授業を受けることになった。


 頼むなら教えることにも長けた第一人者を。

 これは国が紹介してくれた。


 しかしそういう人は講師料も高い。

 なるべく安くあげるために両家で相談した結果、二人同時に受けさせることにしたらしい。



 ジョセフィーヌには国から奨学金も出ていたが、教養やマナーは子爵家が教育すべきことであり、施す教育全てに予算が下りるわけではない。

 また、王女殿下のお気に入り、かつ話し相手でもあったために王城に招かれることも多かった。

 その際のドレス代なども当然かかる。少しでも切り詰められるところは切り詰めたかったのだ。


 侯爵家であれば深く気にしないところも、子爵家となれば事情が変わるのだと、この時初めて知った。



 そして、ジョセフィーヌとの出来の違いを見せつけられたのである。


『このひょうこうではこの草は生息できないと思うのですが、何かとくべつなかんきょうなのでしょうか』

『この国の魔道具のせいぞうは、こじんにいそんしていますが、国としてはこれをかいぜんするたいさくを考えているのでしょうか』


 当時の俺からしたら「何が何やら」だった。

 ジョセフィーヌの頭の回転の速さと理解力の高さを目の当たりにして、面食らってしまった。


 まだ幼い子どもの質問に、国が選定した講師は十代の学生に対して答えるように丁寧に回答していた。

 何かコツがあるのかとジョセフィーヌに尋ねると、想像するのだという彼女からかけ離れた答えが返ってきた。


『高いところは気温が下がります。

 あたたかいところにしか生えないと言われている植物がなぜ生息できるのかを、まず考えてみるのです。考えてわからなければしつもんします。

 じゅぎょうの時間はかぎられています。じゅぎょうは先生の頭をその場でかりられます。考えるだけなら、ひとりでもできます』


 ジョセフィーヌは、決して俺を馬鹿にしなかった。

 これはおじさんとおばさん……子爵と子爵夫人の教育の賜物だろう。


 たぶんここで見下されたりしていたら、純粋にジョセフィーヌを可愛いと想い続けることはできなかった。


『わたしにできないことを、ほかのだれかがしてくれます。そこにゆうれつはありません』


 感覚はズレているが、言っていることは至って真っ当。

 それがジョセフィーヌ=ラングロワという少女だった。



 ラングロワ子爵は研究者で、夫人はもともと助手をしていたという。

 助手であったセラフィーヌ夫人もとても優秀な人だと母から聞いた。

 ジョセフィーヌは生まれながらの才媛だったのだ。


 俺とジョセフィーヌでは頭の作りが違う。

 講義についていくために、予習復習にはジョセフィーヌの倍以上の時間をかけた。

 というより、ジョセフィーヌは俺のように、一つの科目に多くの予習復習の時間を割けないというのが実情だった。

 しっかり準備と復習をするようにしたお陰で、全てとはいかなかったがある程度ジョセフィーヌと講師の話がわかるようになった。


 サボりたい日ももちろんあった。

 昼間のスケジュールは母にガチガチに管理されていたから、その分こっそり授業の手を抜いたり、夜の自習をサボってみたりした。


 ……そんな日に限って夢を見るのだ。

 大人になったジョセフィーヌが、俺をおいて他の男とバージンロードを歩き、俺から遠ざかって行く夢を。


『行かないで、ジョセフィーヌ……っ!!』


 毎回、汗と涙でぐしょぐしょになって目が覚めた。

 情けない自分の顔を鏡で見ては、絶対にそれは嫌だ、ジョセフィーヌを誰にも渡すものかと気を引き締めた。



 そして半年が経つ頃には、生活リズムや勉強のボリュームにも慣れた。

 毎朝走って体力がついてきたこともあると思う。


 夜にサロンでくつろぐ両親の傍ら、勉強してきた内容について意見を交わす時間が加わった。

 習ったことを実地でどう生かすのか、生かされているのかを早い段階で知れたことで、普段の勉強にも身が入るようになった。



 お茶会でも、勉強してきたことを話題にジョセフィーヌと少しずつ会話が続くようになっていた。


 ある時、気になって尋ねてみた。


『ジョセフィーヌじょうは、王女でんかのお茶会にもさんかしているんだろ?』

『はい』

『その……いやな思いとかしてないか?』

『いやな思い?』

『ししゃくけのくせに、とか、やらかしこうしゃくけとこんやくした、とか言われてないか?』


『……でんかがいらっしゃらないところで、言われることはあります。ドレスをジャムでよごされたりすることも』

『……は!?』


 子どもだから紅茶をかけるわけではなくジャムをつける。やり口が汚すぎる。

『まだ幼くいらっしゃいますから、粗相もなさいますよね』とでも言って笑ったのだろう。



『ですがごしんぱいなく。せいこうほうでやり返していますので。でんかにほうこくして、こうぎもしていま』

『いや、そうじゃないだろ!』

『……?』


『おじさんとおばさんが大切にしたててくれたドレスをよごされて、ゆるせるわけないじゃん!

 ……ごめんなジョセフィーヌ。おれがわがまま言わなかったら、きっとそんな目にあってないよな……』


 王女殿下からドレスのお下がりもいただいていると聞いていた。それすらも嫉妬の理由になっているのかもしれない。

 ……だけど、子ども相手に、そんな。

 ぎゅっと拳を握りしめた。


『……わたしがどんな方とこんやくしていようと、していまいと、同じようなことはされていると思いますよ。

 気にしないでくださいね』



 お茶会の後、俺の報告を聞いた母は、その日のうちに光の速さでジョセフィーヌを邸から掻っ攫い、ドレスを仕立てに行っていた。

 汚されると汚した本人に倍の汚れがつく付与魔法付きのドレスを。


 その後、ジョセフィーヌは汚されたり壊されたりした時に、同じことを相手に返せる魔道具を身につけるようになっていた。

『こっちの方が長くみたら安く上がりそうだから』と母は言っていた。

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