19 「とんでもないことです」
ブックマーク・評価・ご感想ありがとうございます!
とんでもない余興が終わった後、全員で感想を伝え合い、健闘を称え合った。
『そういえば、イオルム殿下は精霊が視えるのですか?』
生徒の一人が殿下に尋ねた。
『ん?なんで?』
殿下が首をかしげる。
『先ほどの試合中からずっと、精霊の光が殿下の周りにたくさん視えるので……あの、気付いていなかったらすみません』
生徒の質問を受けて軽く目を見開いた殿下は、すぐににっこりと笑った。
『ああ、君は視えるんだね!確かにハエみたいにぶんぶんうるさかったよねぇ』
王弟殿下の言葉に、質問した生徒が目を丸くする。
『えっ!やっぱり視えるんですか』
『うん。声も聴こえる。シルヴァロンは多いよねぇ』
そう笑うと、殿下は空中に目をやり、ふんふんとうなずいて視線を戻した。
『みんなのことはいつも見てるって!
ラッキーアイテムは金平糖!窓際に置いておくと良いことがあるかもしれない、え?ないかもしれない?
はは、 メルシエ商会の金平糖だと確率アップだって?わかった伝えとく』
周りが口をぽかんと開けて殿下を見ていた。
自然に気がついた殿下がニンマリと口角を上げる。
『この子たちはみんな気まぐれだからね。ご機嫌を取っておくに越したことはない。
困った時に助けてくれたりするからさ』
『随分と仲が良いんですね、イオルム殿下』
『僕は森に入ることも多いからねぇ。仲が良いっていうより絡まれる』
すると、殿下の髪の毛が見えない何かにピンピンと引っ張られ始めた。
『んもう!ほら、絡んでるじゃないの!!
あんまり引っ張ると、せっかく持って来た星屑蜜あげない!!』
スン、と髪の毛が落ち着いた。
星屑蜜は精霊の大好物だという話は以前聞いたことがある。
『よろしい。後であげるから、待っててね』
王弟殿下がにっこり笑って、俺たちの方を見た。
『みんな、今日はお疲れ様。さっき対戦しただけでも、君たちが大人に負けないレベルに達していることがよくわかったよ。これからも研鑽を積んでね。
明日のチーム戦は、先生たちが組み合わせを考えてくれてるみたい。明日は僕もずっといるから、楽しみにしているよ。
この後は少し休憩してもらって晩餐。 食事もここの学生には貴重な実習の場だから、協力をよろしくね』
はいはい今あげますよー、と言いながら殿下が教室を出て行った。
これから精霊たちに星屑蜜をあげるのだろう。
『休憩って言っても、寮に一度帰るのはもったいねえな』
さっき握手したニールが呟いた。
『せっかくだからみんな遠隔対戦のコード交換しようぜ!あと感想戦も!』
『よっしゃ乗った!』
参加者の八割とコードの交換をした。
交換の輪に加わらなかったのは見るからに貴族ばかり。
おそらく遠隔対戦の経験がないか、平民と交流を持つことに抵抗がある奴らなのだろう。
民なくして領地経営は成り立たない。
単純に遠隔対戦に興味があるけど未登録の奴は、シルヴァロンにいる間になんとかできないか、後で殿下に相談してみようと思った。
***
晩餐には、お茶会に参加していたジョセフィーヌたち令嬢も合流した。
『お茶会はどうだった?ジョセフィーヌ』
『大陸共通語以外の言語を母語になさっている方とご一緒するのが初めてでしたので、とても新鮮でした。皆様素敵な方でしたよ』
『それは良かった。聞いてくれよ、俺、優勝したんだ!』
俺の言葉を聞いて、ジョセフィーヌが目を輝かせて両手を胸の前で合わせた。
『本当ですか?おめでとうございます』
『ふげぇ……』
だめだ、可愛い。可愛すぎる。
『レックス様?』
『ごめん。ありがとう。ジョセフィーヌに祝ってもらえるのが一番嬉しい』
『ふふ。特訓したと言っていましたものね。努力が実って本当に良かったです』
割り当てられたテーブルに向かい、ジョセフィーヌの席の椅子を引く。
ジョセフィーヌがスッと椅子の前に立ち、腰を下ろした。
『お茶会で出たお菓子も美味しかったのですが、お料理もとても美味しいそうです』
『そうか、楽しみだな。たくさん頑張ったからお腹がすいたよ』
晩餐はシルヴァロンならではのメニューが並んだ。
中でも絶品だったのは銀灰茸のスープ。銀灰茸も精霊たちが好む食べ物で、シルヴァロンの特産であり、特にここシルヴァロンの銀灰茸は、精霊が認めた人間しか調理ができないらしい。
シルヴァロンの住人は問題ないらしいが、外部の人間はほとんどお許しがでないんだとか。
給仕をしてくれた学生の中には、昼間の大会に参加していたやつもいた。
『お前、なんでもやるんだな!すごいな』
『そんなことな……ありません。
規模が小さなところでは全ての業務を担うこともありますので、専攻だけではなく基本的な使用人としての仕事は一通り学ぶのです』
『そうか。明日のチーム戦も参加するんだろ?』
『はい、参加いたします』
『わかった。楽しみにしてる。試合の時は、立場は関係なしな』
そう声をかけると、男子生徒はきれいな一礼をしてキッチンに戻って行った。
『……難しいな』
『?何がですか?』
『模擬統治の対戦の場では身分は関係ない、みんな平等なんだ。
だけど、そうじゃない時には急に立場が壁になるんだなって思って。
あいつらも実習だから、さっきまでふざけて小突き合ったような相手でもきちんと仕えないといけない』
俺の話をじっと聞いていたジョセフィーヌが、ふんわりと微笑んでくれる。
『それをきちんと理解なさっているレックス様は、素晴らしい侯爵様になれると思いますよ』
『ジョセフィーヌにそう言ってもらえると自信になる。ジョセフィーヌも細やかなところに気が付く素敵な侯爵夫人になれるって保証するよ』
俺の可愛い婚約者様は、目を伏せて口早に返した。
『とんでもないことです』




