20 「なんとお呼びしましょうねぇ」
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その後、ターニャさんとともにジョセフィーヌとメルシエ家の別荘に帰ると、デボラさんがお茶の準備をしてくれていた。
『今日はレックスおぼっちゃまもジョセフィーヌお嬢様もお疲れ様でした』
『ありがとう、デボラさん』
『そういえば、イオルム殿下は?』
晩餐の席にもいなかったし、一体どこに行ってしまったのだろうか。
『殿下は夕食のために御自邸にお帰りになりましたが、まもなくいらっしゃると思いますよ』
『えっ、御自邸って、ウルフェルグに!?』
『さようでございます』
『リリス様がお作りになった食事が恋しいと朝からおっしゃっていましたらねえ』
『殿下には距離など関係ございませんので』
『ああ、ありますねたまに。たとえば、隣の大陸まで日帰りで行かれることとか』
ジョセフィーヌがうんうんとうなずいた。
『は!?』
距離感がおかしい。
『ほかの魔女様たちも、この程度は難なくなさいますね』
『転移が苦手な方や、転移ではなく物理での移動を好む方もいらっしゃいますが』
ウルフェルグは魔道具は普及しているが、普及しているせいか魔道士が軽んじられる傾向にある。
当時から王弟殿下がかなり地位向上に努めていらしたと聞くが、回想している今現在でもまだ高いとは言えない。
『レックスおぼっちゃま、ご優勝おめでとうございます』
ターニャさんがベリーのソースがかかったチーズケーキを持ってきてくれた。
『本当に。おめでとうございます、レックスおぼっちゃま』
『……あの……』
『?いかがいたしましたか?』
『おぼっちゃま、って、恥ずかしくて……ジョセフィーヌはお嬢様、だけど……』
もう十一歳だし、おぼっちゃまだと子ども扱いされているように感じたのだ。
『確かにおぼっちゃまは、もう少し幼い方に対する呼び方でしたね。大変失礼いたしました』
『じゃあなんとお呼びしましょうねぇ、シンプルにレックス様でしょうか、それとも』
『旦那様でいいんじゃなぁい?』
そう言ったのは、いつの間にか部屋にいたイオルム王弟殿下だった。
しかもチーズケーキ食ってるし。
『いや、さすがにそれは飛躍しすぎでは……第一デボラさんとターニャさんの主人は王弟でん』
『僕もずっといるわけじゃないし。未来の旦那様なんだから、練習練習!』
俺の言葉にかぶせて反論を封じると、殿下は皿に残ったケーキにフォークを突き刺して口に運んだ。
『お行儀が悪いのではありませんか、殿下』
美味しそうに咀嚼してごくりと飲み込んだ後、殿下が悪びれなく笑った。
『ごめんなさーい。リリスには内緒にしてね、デボラ。それにしてもおいしいなあチーズケーキ!』
全然謝ってねえ。
『それにしてもレックスくん頑張ったね!優勝できてすごいすごい!』
『ありがとうございます』
殿下には子ども扱いされているようでイラッとくるが、悪意がないのはよくわかっていた。
『明日はチーム戦だけど、初めてだよね?』
『はい』
『うふふ、楽しみだなぁ!』
何が楽しみなんだろうか。
さっきの反乱する領民役を嬉々としてやっていた様子を思うに、ろくなことではない気がする。
『ジョセフィーヌちゃんはどうだった?』
『大陸共通語以外の言葉でお話しする機会が初めてでしたので大変勉強になりました。やはり座学と実地では大きく異なりますね』
『確かにそうだね。レックスくんは平気だったの?』
『あ、俺は遠隔対戦で翻訳使わずに話したりするので、大丈夫でした』
そう答えると、王弟殿下はうんうんと大きくうなずいた。
『なるほど、すでに経験済みだったか。どうだった?』
『顔が見えた方が話しやすいですね。
ああ、それで殿下に相談があるんですが』
『なぁに?』
遠隔対戦の登録をしたい奴が、帰るまでに登録できるようにならないか、と殿下に相談する。
『せっかくの機会なので、もったいないと思って』
『なるほどねぇ……子どもは一応保護者の許可が必要だから、本登録はできないんだよなぁ』
『それは知ってます。でも、殿下がいるならなんとかなるんじゃないかと思って、殿下以外にはお願いできないなって……』
チラッと王弟殿下の顔を見る。
殿下はニンマリと俺に笑い返した。
『ざんねーん、そういうのには乗せられないのです!』
『……くそっ』




