18 「素直は大事!」
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『前に、あの子の王子様は君だけだよって言ったでしょ?
あれは、今も変わってないよ』
殿下を見ると、まるで子供を見るような眼差しで俺を見ていた。
そうだ、この人は十人の父親でもあった。
『だから君は、まっすぐあの子に気持ちを向け続けてあげて。そうすれば、あの子の恋心も少しずつ育つさ』
恋心も育つ。
その言葉が、胸の中にストンと落ちた。
『……はい』
俺の顔を見て王弟殿下が微笑む。
『眠れそう?』
『はい。明日は招待していただいたご厚意を無駄にしないように頑張ります』
『よしよし、僕も決勝には応援に行くから、頑張って』
『え?いや、決勝まで残れるかなんてわかんないし』
『残るよ、君なら。大丈夫』
『……』
『僕が推薦した手前、心無いことを言う奴もいるかもしれないけど、結果で黙らせな。僕とリリスも、そうしてきた』
殿下が手を打ち鳴らすと、ティーセット一式がテーブルから消えた。
『よし!僕も寝る。今度こそちゃんと寝てね。
おやすみ、レックスくん』
『ありがとうございました、殿下。おやすみなさい』
殿下を扉の前で見送り、ベッドに入る。
ハーブティーが効いたのか、殿下の言葉に安心したのか、すぐに眠りにつくことができた。
翌日はとっても良い目覚めのまま、モリモリと朝食を食べ、会場である使用人養成学校へ行き。
そのまま、あれよあれよと優勝してしまった。
イオルム殿下は当初のスケジュール進行表に基づいて決勝の予定時刻には学校に現れたが、ちょうど決勝の勝負がついたところだった。
『ありゃ、終わっちゃったの?』
ポリポリと殿下が頭を掻いた。
『ええ、たった今……』
審判をしていた教師の男性が気まずそうに答える。
『勝ったのは?』
『俺です、殿下』
おずおずと答えると、殿下は満足そうにうなずいた。
『だよねぇ!そうだと思った!!』
『優勝者を予想してたって、それはイカサマじゃないのか!』
三位だったどこかの令息が声を荒らげた。
『イオルム王弟殿下が連れて来たんなら、条件だってわかるだろ!!』
『そんなわけな』
『これはね、二度と同じ条件が出ないように、そして決して人の思惑が入り込まないように、ガッチガチに防御を固めた最新版を使ってるよ?
イカサマやヤオチョーができないようにしたくて、開発に苦労したんだ。対面でも遠隔でも絶対に不正ができないようになってる。僕がそうした』
俺の言葉を、殿下が遮った。
『……まあ、悪い奴らとのイタチごっこであることは否定しないけどね。
ただ、ここは精霊が棲まう森、シルヴァロンだ。彼らは嘘偽りを許さない。この場所で僕が不正を働くなんてことは断じてない。
この子はヨルムとしての作品だけど、ウルフェルグ王家の一員であるイオルム=ウルフェルグとして誓っても良い』
『……』
室内が沈黙に包まれた。
王弟殿下が重い空気を打ち消すようににっこりと微笑む。
『なーんてね。ごめんごめん。僕の作品たちのことになるとつい熱くなっちゃうな。
とにかくレックス=サビニエルに事前に何かを伝えた事実はないってこと。優勝するだろうなと思ったのは、この子の親から特訓の内容を聞いてたから』
『……特訓?』
『過去一年に開かれた大人向けの大会、決勝で使われた条件を片っ端から練習した』
『は!?』
『大人向けって、鬼畜みたいな条件じゃん』
『なんでそこまで』
『……決勝で親父に負けたんだ。見たこともない難易度の条件設定だったから、慣れようと思って』
『そりゃどんな条件出ても落ち着いてるわけだ』
決勝で俺と当たった男子が肩をすくめた。
『オレの負け。あんたとの戦い、シビれたぜ。
オレはニール。明日も楽しみにしてる』
そして、自然に手を差し出して来た。
その手を握り返す。力仕事をしている、少し節が目立つカサついた手だった。
『レックスだ。お前強かったぜ。
遠隔やってるか?やってるなら後で遠隔のコードを交換させて欲しい』
『喜んで』
『うーん、素直は大事!素直であることは自分の身を助けるよ!』
すぐそばで俺たちを見ていたイオルム殿下がニコニコしていた。
『んー、時間余ったし面白いことやろっか!』
面白いこと。それは、殿下が全員と同時に一対一で対戦をするという指導対戦だった。
しかも、俺たちは領主、殿下は領主に不満がある領民。反乱を起こそうとする領民たちを十五ターンで抑え切れたら俺たちの勝ち。ちなみにこの手の対戦は三十ターンが一般的だ。領民が行動する量を減らした方が領主側に有利である。
が、しかし。
俺たちは負けた。誰も勝てなかった。
ふんふんと鼻歌混じりに席を移動しながら一人ずつを相手にしていたイオルム殿下が、十五ターン使い切らずに圧勝したのだ。
俺は十二ターンで詰んだ。ニールは十四ターンまで粘った。
『ふっふっふ、統治は苦手だけど掻き乱すのは大得意なの!!』
それで良いのかよ王族。
椅子の背もたれに身を預けた俺に、殿下は満面の笑みを向けて来た。
『いつでも呼んでね!領地をぶっ潰しに行くから!』
絶対に嫌だ。




