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初手でやらかしてしまった俺が、一目惚れしたあの子と結婚するまで  作者: アカツキユイ
六年目

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15/17

15 「守る気がない時のお返事ですね」

ブックマーク・評価・ご感想ありがとうございます!

『ごめんねぇ、旅情もだってもへったくれもなくて。

 せめてもう一日移動に割ければ、列車で来られたんだけど』


 大会の会場であるユジヌ公国のシルヴァロン領。

 世界的な商会の支店に転移すると、イオルム王弟殿下が両手を顔の前で合わせた。



『大丈夫です。お陰で俺たちもギリギリまで授業が受けられたので』

『レックス様の言うとおりです。私も連れて来てくださりありがとうございます、殿下』


 空間魔法が使われている魔法鞄を下ろすと、部屋の隅にいた初老の女性が王弟殿下の前に跪いた。

『お疲れ様でございます、殿下』

『久しぶりだね、デボラ。講師業お休みさせちゃって、大丈夫?』

『全く問題はございません。邸でターニャもお若いお客様の到着を今か今かとお待ちしております』


『ふふ。君たちがこの二人についてくれるなら安心。よろしくね』

『御意』


 女性は立ち上がり、俺とジョセフィーヌの前まで来ると、とても美しい礼をした。

『お初にお目にかかります。わたくしはデボラと申します。以前はイオルム殿下とリリス様のお世話をさせていただいておりました。現在は、ここ、シルヴァロンの使用人養成学校で生徒たちを育てております。

 短い期間ではございますが、身の回りのお世話をさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします』


 そして、孫を見るように目尻の皺をぎゅっと深めてみせた。

『それにしても、本当に凛々しいおぼっちゃまと可愛らしいお嬢様ですこと。昔の殿下とリリス様を思い出しますね』


『ふふ、僕はとんだ悪ガキだったよぅ』

 イオルム殿下が恥ずかしそうに頭を掻いた。しかも、かなりわざとらしく。


『まったくでございます』

 デボラさんがそれにうんうんとうなずいて返す。


『ふふふ、そこは否定してよぅ』

『否定のしようがございません』

『へへへ、デボラにズバッと言われると子どもの頃を思い出すなぁ』


『今もお子様のようなものですよ、殿下。

 今回の件だって昨晩のお知らせだったではないですか。相変わらず良い性格をなさっておられる』

『へっへっへ。だって驚かせたかったし!君たちなら絶対なんとかしてくれるってわかっていたからね』

『そのせいでターニャは半泣きになりながら邸を掃除しておりました』


『昨日の今日では大変でしたでしょう。申し訳ございません、デボラさん』

 驚いた(といっても表情はほとんど変わらない)ジョセフィーヌがデボラさんにお詫びをした。


『とんでもないことでございます、ジョセフィーヌお嬢様。

 殿下が直前に知らせていらっしゃるのは毎度のことですので、我々も驚きません。むしろ殿下がおいでになることは一週間も前にお知らせくださったので、何かおかしいと思っていたのです』


 さすがに知らせが急すぎるだろ、王弟殿下……。

 デボラさんの言葉を聞いて、ジョセフィーヌが王弟殿下を見る眼差しが若干険しくなった。


『一週間前でも、あまり褒められたものではないのではありませんか?殿下』

『げへへ、ごめーん。でもデボラ、素敵なお客さんでしょう?』


 全然悪びれていない。


『ええ!それはもう。久方ぶりのお客様ですから、腕が鳴ります。

 生徒たちもそれぞれ現場実習に入っておりますので、良い経験になりましょう。

 それではお二人とも、参りましょうか。食材は調達して既に馬車に積んでおります』


『はい』

『よろしくお願いします、デボラさん』


 俺たちをニコニコと見守っていた殿下が軽く裾を払った。

『じゃあデボラよろしくね、夕食には間に合うようにするよ』

『遅れないようにお願いいたしますね、殿下』

『はぁい。それじゃあお二人さん、ごゆっくり』


 パチンと指を鳴らして、殿下が消えた。

 あの人、一人だけだとあんなに身軽に転移するんだな……っていうか、魔法陣も詠唱もなかったな!?


『あれは、守る気がない時のお返事ですね』

『さすがジョセフィーヌお嬢様、その通りでございます』


 守る気ないのかよ。


『それでは、参りましょうか』


 シルヴァロンは、ユジヌ公国にある世界有数の別荘地だ。

 一流の使用人を養成するために、国を跨いだ複数の貴族たちが出資をしている大きな使用人養成学校がある。


 今回俺が参加する国際大会は、この養成学校の補佐科が主催するものだった。

『ここを出てから、職に就く国はそれぞれ違いますので、早いうちから色々なやり方を知っておくことが重要なのです。

 ウルフェルグからご参加いただくのはレックスおぼっちゃまが初ですので、皆たのしみにしております』


 馬車に揺られながらデボラさんが説明してくれる。


『そうなんですね』

『はい。これに合わせて各国から貴族子女が集まっております。お嬢様も、お茶会で他国の方々とたくさん交流していただけると思いますよ』

『ありがとうございます。楽しみにしています』

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