『第5話 酒場の争い』
5話でございます。
作者は酒を飲める年齢だが飲めません。
渓谷を通り抜け、関所を抜けて俺たちはアーム領地は桜ガ峰に辿り着いた。
地名から見るに和風といった言葉が似合う場所だ。建築様式も和室でどこか懐かしい気もする。
ここにダンカンさんの領主邸があるらしい。
桜ガ峰に着いた際にタガモさんはお得意様と商いがあるからと別行動。ザンロックはカエサルを無理やり酒場に連れて行ってしまった。
「それにしても、桜が峰か……。俺の故郷にある花と同じ名前だな。」
「花って?桜の事?アーム領の風物詩なのよ。」
「そうなのか。俺の故郷では春の風物詩だったが、ここでは一年中咲いているのか?」
「咲いてるわよ。それも年がら年中花びらを散らしながらも、それが風流だからって言いながら飲むのが、ここのマナーらしいわよ。」
「そうなのか、俺の故郷では未成年は酒を飲めないからユウリだけでも楽しんでくれ」
「いやよ。私も未成年だから飲めないわ。」
日本とこの世界は変なところで共通点があるな。
「ユウリの年齢は……女の子にそんなことを聞くのはよくないか」
「17歳であなたと同じよ。納得?」
「納得だ。……そろそろ着くな。ここがダンカン領主邸か。」
「この時間だと……いるかしらね。」
「?」
「申し訳ありません。ダンカン様はこの時間はいません。私は言ったのですよ、“マルコ様から使者が参られると”、そしたら、“そんなことよりも定時からは飲みだ”と仰られて酒場に行ってしまいました。」
中に入ると召使いのような女性がいて、ダンカンは酒場にいるから用があるならそこに行ってくれと言われた。酒場となるとカエサルとザンロックがいるな。召使いさんに道を教えてもらい、俺たちは酒場にやってきた。
酒場の中はよく言えば熱気が溢れていて、悪く言えばおじさん同士の親戚の飲み会のようだった。どれがダンカンさんかは分からないが、目についたのはカエサルとザンロックだった。
「俺の金を受け取れよ!カエサル!受け取れねえのか!」
「それは私の騎士道に反します。必要以上の金銭を貰わない。それに例外はありません。」
「だからって俺の金を受け取らないのは違うだろう!」
卓上を見るとザンロックの方には空いているジョッキが複数あったが、カエサルの方には飲みかけのお茶しかなかった。
「受け取れよ!お前は橋を落として巨人を倒した。それで俺の利益は想像のプラス以上だ。計算以上の金は受け取らん。それにお前の取り分はもっと多い!」
「私は……、騎士道が……!マコト!ユウリ!こんなところに何の用だ?」
「大変そうだなカエサル。酔っぱらいに絡まれて――」
「――誰が酔っ払いだ!マコトと言ったな!お前にも少しは借りがある!それを今ぁ返す!」
俺はザンロックの顔を押さえつけて、話を切り出した。
「それで、話を聞いていたが、ザンロックはカエサルに金銭で借りを返したくて、カエサルは余分なお金を受け取りたくないわけだな。」
「すまないが、私の志の問題になってしまう。迷惑をかけて融通が利いてないことは重々承知しているが……これだけは――」
「いいよ。俺に案がある。ザンロック耳かせ……コショコショ……」
「おほっ……それはいいな!」
すると、ザンロックは椅子のうえに上がり、周りに聞こえるように大きな声で言う。
「皆のもの!よく聞けぇ!ここにおられる騎士公カエサル・グリス・ロクサーヌ殿が今夜のここにいる全員分のお代を払ってくれるそうだ!喜べぇ!!」
その声を聞いたおっさんどもは歓喜した。カエサルへの感謝の声と酒とつまみの注文がひっきりなしに聞こえる。
「これは……」
「お前に払う分の金と俺に払おうとしていたお金を使って今日の支払いをしてもらう。これでお前はお金を貰わない。だけどザンロックはお前にお金を使う。更に周りから感謝を伝えられる。どうだ?周りからの礼を無碍にするのは騎士のやることか?」
「フッ……マコト、お前にはつくづく驚かされるよ。そうだな。人々の感謝を無碍にするのは騎士のやることではないな。」
「ハッハッハ!!お前たち!気前がいいな!今日は更に飲めて俺は嬉しい!――」
カエサルと固く握手を交わしていると、奥から誰かが歩いてきた。全体的に毛深く筋骨隆々、身長は小さいが威圧感は凄く、それに酒臭い。
「おっ?お前は……ティーチのとこの妹のユウリ嬢ちゃんじゃねえか!」
「げっ……ダンカン……。」
「ん?ダンカンさんだろ?ユウリちゃん?」
「……ダンカン…さん。お久しぶりです……。マコト……私はちょっとだけ離れるからよろしくね。」
ユウリはそそくさと逃げ出していった。確かダンカンが嫌いとか言っていたな。
「マコトと言ったな?お前だろ?ユウリとパーティーを組んだのは。俺はダンカン・アーム。ここアーム領の領主と桜ガ峰鉱山の責任者だ。よろしくな!ここに来たのは目的があんだろ?橋を落とした張本人。」
忘れていたわけではないが、あちらから言われるとまるでこっちが黙ってたみたいになるじゃないか。
「……あれは、巨人を倒すために仕方ない犠牲といいますか――」
「いいんだよ!どうせ一度バラす予定だったしな!マルコのとことの話し合いの仕事が消えたと思えば、俺は大助かりよ!」
そう笑いながら、ダンカンさんは俺の背中をバンバンと叩きながら言った。何となくだがユウリが苦手な理由が分かった。
この人はアレだ。酒飲みにしか合わないテンションで生きてるんだ。だから、俺も今結構対応に困っている。正直言って俺も苦手だこの人。
「んで?俺を探しに来たんだろ?お前みたいなガキンチョが酒場に来るってことは」
「そうです。マルコさんから書簡が届いててそれを届けに来たんです。」
そう言いながら、背中に背負っていたリュックから書簡を取り出す。書簡を受け取るとそのまま横にいる人間に渡してしまった。
「悪いな。俺は定時以降は仕事をしないと決めててな。この挨拶も橋を壊したやつとユウリへの社交辞令みたいなもんだ。明日になったらまた領主邸に来てくれよ。そこで話をしようじゃねえか。」
「分かりました。それじゃ本日は俺たちも帰ります―」
「――待て待て、酒場に来たのに酒は飲まないのか?それに食べ物は?お前はここに何しに来た?酒場だろ!飲もうぜ!」
「誘いは嬉しいですけど、俺は未成年なんで……」
「未成年か?歳は?」
「17です。」
「誤差だよ誤差!ほれ飲んだ!飲んだ!」
「ダンカン!マコトを離しなさいよ!」
その声は!逃げたはずのユウリではないか!
「私の見てるところでマコトに飲酒はさせないわよ!強い味方を呼んできたから!」
すると、ユウリの後ろから一人の女性が出てきた。ニコッとこちらを見て笑いダンカンをじーっと睨む。
「その子に酒を飲ませるのですか?あなた?」
「へっ……へへ!冗談だよ冗談!あれだ領主ジョーク!嫌だなーみかちゃんは……」
そういうとダンカンさんはそそくさと後ろの酒飲みの連中に混ざっていった。
「ありがとうユウリ。助かったよ。その人は?」
「ダンカンさんの奥さんのミカさん。昔から良くしてくれてて私は大好き。」
「ありがとうございます。ミカさん。後少しで飲まされるところでした。」
「いいのよ。あなたたちご飯は食べた?ここの薫製焼きはおいしいわよ。お酒が飲めない私でも楽しめるからよかったら食べていきなさい。奢るから。」
「……あ、ありがとうございます。」
奢ると言っても今日の支払いは全部、ザンロックとカエサルからなんだよな。
「えっ?今日は無料なんですか?良かったわね2人とも。好きなもの頼みなさい。」
「やったー(棒読み)」
「わーい(棒読み)」
ユウリは分かっていたが分かっていない顔をしていた。俺もそうすることにしよう。今はこの場の好意にまかれよう。
後日、俺とユウリは言われたとおりにダンカン領主邸に向かった。




