第50話『俺は倒れない』
第50話です。話数は記念日と同じですよ!!
権能模倣時にマコトの脳内にはその権能の使い方が体感的に理解できるように情報が流れ始める。要するに権能の出し方である。
――なるほどな……。“権能”の最大重力付与数は2つまでか……、腕を通して操作する権能は『地歴武器』や『毒牙』などで慣れているからいける。今はミヤビさんがティーチの腕を一つ潰してくれているから使ってくる『重力操作』は一つだけだ……。
「ゲンマ!! 畳み掛けるぞ!! 作戦通りに頼む!!」
「はい!! 僕はサポートに徹しますので!! 動いてください!!」
ゲンマが“ミラージュ”の魔法具から離れてティーチとマコトのいる前線まで駆け上がってくる。ティーチからすれば何もないところからゲンマが突然現れた。
「貴様ッ!! 今の今までどこにいた!?」
ゲンマは駆け上がると同時に石のような“魔法具”を空中に放り投げた。当然、ティーチの意識は少なくともそちらに向かうだろう。
「いきますよっ!! まずは“ダークス”――!!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「“陽動用”の魔法具は先ほど見せた“ミラージュ”なのねん。これは“魔法具”の正面に後ろの景色を投影する霧のようなものを噴出させる“魔法具”なのねん。」
タガモは“ミラージュ”の装置のようなものを手渡す。中々の大きさだが、“ダイアリー”と大差ない大きさであり、持ち運びには困らない。
次に見せたのは“ダークス”の魔法具だ。一見ただの石だがれっきとした“魔法具”である。
「これは割って効果を発動させる“魔法具”なのねん。割るだけでいいから詠唱は不要なのねん。割ると周囲の光を吸収して、目に映らなくする“魔法具”なのねん。効果は折り紙付きなのねん。使えば分かるねん」
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タガモの説明通り、放物線上を描いて飛んだ“ダークス”は空中で亀裂が入り割れた。
当然、ティーチの思考は投擲物の排除である。先ほどのマコトの理解不能の言動を無視してまでも投擲物の処理をしなくてはならないのは“軍人”故の性であろう。
しかし、瞳を通す光は漆黒に飲み込まれる。
――見えない!? これ自体が罠だったのか!?いや……それ以上に今はアラキ・マコトとゲンマ・エピタインの二人の行動を見極めなければ……。しかし、ミヤビへの“落下”を外すわけには……
ティーチが反射が接近物に気づいた。方向は警戒していた全方向の内の前方。闇の中である。向かってくるのは恐らくゲンマの方であろう。“落下”の標準をゲンマに合わせた刹那である。
反応できなかっのは――無意識の拳。
アラキ・マコトの人間離れした軌道からの攻撃であった。ティーチの肩にぶつかるように拳を振り抜いたマコトはあらぬ方向へ飛んでいったように見えた。
「よしっ!! 当たったが……制御が――!?」
しかし、ティーチはその攻撃軌道を見てマコトの言葉の真意を理解した。今のは俺の“権能”の動きと酷似していると……。荒削りだが、それは幼少の自身と同じ動きだということを。
そして決断する。
『滅びを』
「もういい……貴様らは――退け」
ティーチはゆっくりと両腕を天へ掲げる。まるで子どもが鍵盤を叩くような無造作さで、ティーチは両手を振り下ろした。空気が叩き潰され、続いて大地が応えるように震えた。
大気が震えた音が静まった時には優勢であった状況は劣勢に変わっていた。絶えずに響いていた歌声は止み、壁となっていた地形は消滅した。
ティーチが周囲に目を向けると、ゲンマの隣には壊れた機械のようなものが見えた。
――そういうことか。恐らくはあの“魔法具”を使って俺の視覚に座標誤認や蜃気楼のようなものを引き起こしていたのか……いや、どうでもいい……ゲンマは倒した――後はミヤビとアラキ・マコト……
瓦礫が持ち上がり、癇癪のような大声が響いた。
「痛いわね〜!! 何もここまで本気を出さなくてもいいじゃない!! それに見なさいよ!! こんなに大きなたんこぶができたんだから!!」
「こんな事があったあとだ……驚かないさ……それよりも、もう動かないほうがいい。衝撃を全て引き受けたのだろう? ……でなればこの程度では済まないはずだ……」
「へえぇ……冷静じゃない……。よく周りを見ているというか? 何か頭がグラクラするというか? 少し休みたいというか……??」
――ミヤビはもう戦えないな……考えなくていい……。ならば、アラキ・マコトを探さなければ……やつは一番近くにいたが、何やら自信がありそうだった。
……それ以上は……探すのはやめるべきだ……? 俺は何を?? 今のは思考の落下??
「何故……私の“権能”が……私に……??」
ティーチが自身の身に起きていることを分析している最中、何を分析しているのか、その詳細は一切合切なくなっていた。
アラキ・マコトを探すという目的は既に落下していた。
そして、すかさず奇襲が振りかかる。
マコトの掌底がティーチの鳩尾に深く突き刺さる。人間が出せる力の具合ではなく、完全な奇襲はティーチに最大のダメージを与えていた。
「ぐゔぅぅ……何だ……貴様は何者だ!! アラキ・マコト!! 何故!? 私の“権能”を扱える!!」
「……難しいんだな……この“権能”……思った以上にピーキーだ……力を誤ると壊れそうだ……」
マコトは自身の攻撃に重力を横向けで付与させた。短時間の実験で見つけたのは“権能”の落下の規則性であった。
――手に重力を与えようとしたら、腕が落ちそうになった。それならば攻撃に重力を付与すればと思った。やってみたらビンゴ。攻撃が腕から抜け落ちて、ティーチに落下した。
しかし、この攻撃はティーチの気づけにもなってしまった。
両者、“権能”は同じだ。
しかし、経験は手札の数はティーチが上である。
同じ“権能”で戦えば、勝つのは――
より強く、より理解している方である。
――アラキ・マコトは俺の“権能”を使える。これは事実だ。理由などを考えるのは後でいい。対策は落下の応用。俺ならば片腕があれば対策は容易だ。
――と、俺がティーチならばそう考えるだろう。出力や慣れで勝てるわけがない。同じ権能なら負ける。だから俺は同じ土俵では戦わない……。勝てる土俵に持ち込む!!
お互いの初手は似通った攻撃だった。もはや挑戦者や強者などは関係がない。自身が思う最適解を相手にぶつけて戦闘不能にする。それだけである。
空気に重力を付与させた落下弾は同等との威力であったため空中で相殺された。飛び道具が飛んでいる間に両者距離を詰める。
――アラキ・マコトは空気の落下の性質を既に理解している。俺が戦闘で使ったものは理解しつつあると見ていいだろう。ならば、初見の近距離技を使うのみだ……。
床がめぐり上がり、削られた地面がマコトに体当りした。まるで地面の一部が空に向かって落下したようだった。
――上にも落下するのか!? そうだよな。横が可能なら上も下も大差ないよな。なら、あの時みたいに!! 広がってくれ!!
マコトが両手のひらを広げると、床の残骸は霧散するかのように四方八方に散り散りに砕け散った。そして、粉々の礫の全てに上の重力を与えた。
――上の落下だと!? なるほど……元から存在する重力を駆使して速度を上げる魂胆か!! だけどな……それは俺が10年前に到達した戦法だ!! 当然!! 対策も!?
ティーチが驚いたのは礫の攻撃ではない、マコトの立っている居場所であった。空に立つ。絵空事のような光景が目の前に広がっていた。
ティーチが驚いたのはその後だった。礫が剣に変化していた。
過去にマコトから受けた攻撃が脳裏に浮かぶ。百にも達する剣の海が礫から瞬時に生成され、空を舞っていた。
――ティーチにはできない。俺だけの使い方。ここは俺の土俵だ。
「『百の剣』!!」
マコトの必殺技『百の剣』は『地歴武器』の応用技である。触れた全ての建材を剣に変換し、慣性をつけることで百を超える剣を降らせる技である。
そして、全ての剣が『重力操作』で別の挙動をしながらも、ティーチを目掛けて落下し続けている。まるで大きな魚群のようだ。それらを一つ一つ迎撃しても剣は絶えずして襲いかかる。
――考えたな……。『重力操作』は大雑把な落下を得意とする“権能”だ。以前のような単純に襲いかかってくる剣の雨ならば迎撃は容易い。だが、この幾度にも重なり続ける剣を凌ぐのは――
その時、ティーチが着実に剣を破壊しているなかで、マコトは自分に落下を付与した。それにより急加速で地面に向かって落ち始めた。
――操作は『百の剣』のアドリブと同じだ。落したい方向に落下させれば向きは変えられる。今が千載一遇のチャンスだ。ティーチが剣を迎撃しているこの瞬間が――
「貴様っ!!何をっ!?」
――俺の落下を受けとれぇッ!!
自らを落下そのものに変えた拳が、ティーチへと迫る。そして、振り抜く拳はティーチを捉える。が、ティーチは類稀な反射神経で完全な奇襲を肉体で防いだ。しかし、マコト経由でティーチに付与された落下は止まらない。
――なっ!? これは!! 沈っ――!!
既に落ちたものを停める術をティーチもマコトも持ち得ていなかった。“7貴族”の切り札。『最強』の男が地面へ叩き伏せられた。最初の瞬間であった。
「ハァ……ハァ……。立たないでくれよ……」
マコトもその場で体の力が抜けたかのように座り込む。仮眠を取ったとは言え、不眠で動いていた身体と体力は特に限界を超えていた。それはティーチも同様であり、最後まで最適な判断をしていた。しかし、落下が付与される可能性を考慮できる余裕がなかった。
――まだ終わっていない……。ユウリの下に戻らねえと……。まだ倒れるわけにはいかない……。立て!! 足を動かせ!! 最後までやり遂げてから倒れろ!! 俺!!
苛烈な争いに耐えきれず崩壊した部屋は外壁がなくなっており、外の景色を映していた。
曙光が照りだし始め、その光にマコトは目を細める。長きに渡る戦闘が幕を閉じた。
曙光により照らしだされた影が残酷な真実を同時に写し出す。
その影にマコトが気づいた時には、身体は外に向かって落下を始めていた。
「まだだぁ……終わっていない……私は立っている!!」
ティーチと重なる朝日がマコトの目を焦がすような強い光を見せ始めた。後光が差すとはよく言うが、これほどまでに神々しくも荒々しい人物は存在しないだろう。
「――さぁ!! アラキ・マコト!! まだ終わっていないだろう!? 最後の決着を着けよう!!」




