第46話『強者の感覚』
第46話です。
前に書いていた小説と話数が並びましたね。
カエサルは事前にマコトと連絡を取っていた。“ダイアリー”の親機を確認した際にカエサルの名前があり気になって子機に連絡したのだ。
「驚いたよ。まさか君達がタガモさんの言うお得意様たちだったとはな……君も巨人戦の後に声をかけたのか?」
「いや。俺は違う伝があってな。その時に再会した。……そう言えば、あの時は出かけていたが“ヒルコ”に行ってたのか? 」
音は近くに聞こえるが、お互いが通話している場所は“ヴァイシュラ”と“セヌーデ(カエサルの邸宅がある地域)”である。そんな距離をどうやって通信しているのかと、ゲンマは通話の様子を眺めていたが、分かるはずもなかった。
「あの時? ああ、君が招待状を取りに来た日のことだな。確かにタガモさんと商談を行なったが、場所は“王都デフィー”だった」
――そう言えば、タガモさんも言っていたな。商談があってデフィーに来ていたって……。そのおかげで俺たちは助けられたのか……
「なるほどな……。ところでカエサル……頼みがあるんだが……聞いてくれないか?」
「頼み? これまた急だな。すまないが……これから“討伐作戦”があってだな……」
「あ、そうか……。分かった、気にしないでくれ……じゃあ――」
マコトが“ダイアリー”の通話を切ろうとすると、「――待て」と言う声がした。
「通話を切るな。話だけでも聞かせてくれないか?」
「話だけだけだからな」
マコトはカエサルに今の新たな事情を包み隠さずに説明した。ティーチなどの7貴族の政治関係の話に入りそうになると、途中で通話を切ろうとしたが、カエサルは最後まで聞こうとした。
「――ということだ。これで全部だ満足したか?」
「ああ。満足だ。それにしても話を聞いてしまったからには、私もそちらに向かわねばならぬな」
「はあ? 討伐作戦はどうするんだ?」
「それは私の部下に任せれば良い。しかし、こっちは違うな。君が弱いだとか相手が強いなどは関係ない。君の計画に私が参加したいと思ったからだ。騎士ではなく“友”としてな……。それに断ると私はこれを言いふらすかもしれないな」
「ああ〜……そういうことならば仕方ないな。じゃあ協力してくれカエサル。これは依頼とかそういうやつじゃない。気軽にお願いするぜ。」
「ああ。そうしてくれ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「見つけたぜぇ。風切りマスク」
パウンド・ウルフは光悦とした表情をしていた。狩りを楽しむハンターのようだ。
――やけに血なまぐさいな。こいつの出血か? まるで部屋全体を動き回ったかのような匂いも嗅覚じるな……。警戒するに越したことはないな……。
「随分と早かったじゃないか……。まだ遊びたりなかったか……?」
「なら、こんなお遊びはもうおしまいにしようぜ!!」
先に動いたのはカエサルだった。動きを探知し入ってくるタイミングを予見していたからである。カエサルは既に先手を打っていた。
部屋の入り口に投げナイフで楔を打ち、“魔法具”を二つも設置していた。
しかし、パウンド・ウルフはそれを嗅覚じとったのだ。匂いとカエサルの動きの傾向から面倒くさい罠だということを察知した。形状は先ほどと同様の投げナイフであるため、移動の能力であると推測した。
移動したところを叩き潰す。彼ら獣人の反射神経を持ってすれば容易いことであった。しかし、四天王の矜持と部屋に充満した血の匂いが彼の本能を刺激したのだ。
――強者の匂い
強者だけが全身全霊で体感できる。この香りを久しく忘れていたパウンド・ウルフは主君のことを少しだけ忘れることにした。
――何もさせずに“狩る”。喉を開けば掻っ切る。ほら、開くだろぅ!! さっきの詠唱をよ!!
「“スピーカン”!!」
――詠唱が……いや!! 何かが違う!?
パウンド・ウルフが第一で頼っていたのは匂いである。その次が音だ。狼の獣人である彼は音に敏感であり、その耳がカエサルの詠唱を聞き逃さずに追撃することを可能にしていた。
そして、パウンド・ウルフほどの強者は背後で鳴る音を聞き逃すことができなかった。
少し戸惑いが生まれた。が、それを動物的本能で打ち消した。
――権能解放『真似筋』!!
パウンド・ウルフは自身と完全に酷似した分身体を作り出すことができる。それはパウンド・ウルフの動きをトレースして動く。生成には体力を多く使うが、獣人の肉体では大したことではない。出した際に肉体を反転して出していれば、双方に別れて攻撃が可能になる。
パウンド・ウルフはカエサルだけではなく、その音を出した道具も同時に潰すことを決めたのだ。その迷いは一瞬。しかし、最適の判断だ。
――勝った……!!
音を出した魔法具は何か詠唱を唱えていた。二人のパウンド・ウルフはその詠唱を一言一句聞き漏らさずに聞きながら攻撃を行っていた。
――お前は強い。最も賢い判断をしている。発動前に音を潰すのは最適解だ。詠唱をする喉を潰しに来るのも“魔法具”の対策として完璧だ。
本体のパウンド・ウルフの脚が“魔法具”へと届くのにかかった時間は4秒。恐らく、最適解を最少の時間で導き出したのだろう。パウンド・ウルフの耳は知っていた。
――……4秒もあれば……
「“魔法具”の詠唱は終わる……!!」
“スピーカン”の横に置かれた魔法具はけたたましい音を立てながら強烈な光を放った。
さながら閃光弾のようだ。
「何だ?? これは!!? あがァ!!!」
至近距離で爆音と光を浴びたパウンド・ウルフの目と耳には強烈なダメージが入る。すかさず、カエサルが近づこうとするが牽制するように脚を大きく回す。
「見えなくてもな……聞こえなくてもな……俺には匂いで分かんだよ……」
「そうだな。私の居場所は匂いで分かるだろうな。しかし、私の姿も見えず、“魔法具”の詠唱は聞こえまい。」
無論、パウンド・ウルフにはカエサルの返事すら聞こえていない。至近距離での“リライト”により五感のうちの二つを奪われたからである。そして、本体への攻撃は分身体へ共有される。
「それでは……“テレポ”を使わせてもらおうか……」
カエサルは初撃と同様に『風斬りの太刀』で投げナイフに風を纏わせた。言わずもがな“テレポ”の紙がついた投げナイフである。
「“転移”の道具か……来いよ……。今の俺は冴えているからよ……全て嗅覚えてるぜ……」
“カエサルの風”と“投げナイフ”の存在を匂いで察知したパウンド・ウルフはカエサルの動きを“リライト”を食らう前以上に警戒した。
「準備は整った……これより……この風と共に……この部屋を私の領域とする……」




