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女神から授かった権能“模倣”で異世界を生き抜く  作者: 近藤セカイ
第1部 第3章『パウンド編 ――大貴族会――』
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第45話『匂い』

第45話です。

強キャラの運用が難しいと知る今日この頃。


 その場に突如現れたのは風切りマスクことカエサル・グリス・ロクサーヌである。


「風切りマスクだぁ? 興味ねえな!! 俺は侵入者を追うのに忙しいんだよ」


 ウルフの現在の優先順位は主君(ティーチ)に近づいてる侵入者(マコトとゲンマ)である。そのためか、カエサルを障害とは思わず、背を見せてマコトたちを追おうとしていた。


「……その観点からすると、私も侵入者ではないのか? それに私が君を逃がすとでも?」


 ――権能解放 『風切りの太刀』


 旋風がカエサルを中心に周囲を駆け回り始める。風はカエサルの匂いを運び、パウンド・ウルフの鼻腔をくすぐった。匂いはパウンド・ウルフの脳に警鐘を何度も鳴らした。獣人の本能がこの侵入者は“危険”だと告げた。

 

 そして、飛んできた何かをパウンド・ウルフは余裕をもって躱した。それを爪で弾かなかったのは、嫌な匂いに触れるのを嫌ったからであろう。


「見え見えの投げ道具は無駄だぁ!! 鼻につくんだよぉ!! 鉄は!!」 

 

 カエサルの初撃は“投げナイフ”であった。右手の直剣ではなく、隠していた左手からの投擲だった。それに“風切りの太刀”を纏わせて、貫通力と攻撃力をかさ増ししていた。

 投げナイフはパウンド・ウルフの背後の壁に――突き刺さった。


「それは瞳の幻妖――」


 ウルフは匂いではなく、目視で投げナイフを確認する。投げナイフは壁へ深く突き刺さっていた。しかし、石壁そのものはほとんど抉れていない。


「絶えず流れる光の形――」


 その投げナイフには何か特別な細工は見えない。あるとすれば“紙”が貼られていることだ。しかし、投げナイフの貫通力は“紙”ではなく“権能”だと断定した。


「成りかわれ――」


 相手(カエサル)から感じていたのは、“敵意”と“少しの殺気”だが、詰めることが不可能な距離が2人の間には存在していた。


「――“テレポ”」

「あ? 何だって?」


 最初に感じたのは匂い――しかし、その移動は不可能だと脳が判断した。その時間がわずか0.2秒。目と耳と脳では感知できない移動を鼻は瞬時に察知した。


「悪いが……背中を貰う!」

「何で……後ろにいやがんだよ!?」


 カエサルの刃はパウンド・ウルフを切り裂いた。風を纏った直剣は肉と骨の抵抗を大きく削ぎ落とし、深々と切り裂いた。

 

 しかし、それはパウンド・ウルフだが、パウンド・ウルフではなかった。

 倒れたはずのパウンド・ウルフ。その隣には、最初からそこにいたかのように、もう一人のパウンド・ウルフが立っていた。


「はいよぉ。身代わり助かるぜ!!」


 パウンド・ウルフが触れると、倒れたパウンド・ウルフは最初からいなかったかのように腕のなかに消えていった。


「増殖……いや、分身か……」

「さぁ分身? 増殖? もしかしたら双子かもしれないぜ?」

「それは面白い冗談だな」

「だろう。俺のジョークは鉄板なんだぜ。」


 パウンド・ウルフが右腕を前に突き出し、「“権能解放”」と呟く。

 すると、その腕の先からもう一人のパウンド・ウルフが形成されていく。その様子はあまりにも奇怪であった。まるで、パウンド・ウルフの中に瓜二つのパウンド・ウルフが収納されているようだ。


「お前は“強者”だからな。俺も“権能”をフルに使わせてもらうぜぇ!!」


 パウンド・ウルフが走り出すともう一人のパウンド・ウルフもほぼ同時に走り始めた。

 対するカエサルはこの攻撃を『受け』で対応するつもりだ。カエサルは自身が防護の騎士だという強い自信を持っていた。

 パウンド・ウルフの全力は未知数だった。しかし、自分が防御に回れば耐えれる計算で立ち回った。

 

――速い!!


「遅いんだよぉ!!」


 カエサルは直剣でパウンド・ウルフの爪を上手く受け止めたが、ほぼ同時に攻撃してきたもう一人のパウンド・ウルフの攻撃を受けきることはできなかった。

 堪らず、カエサルはパウンド・ウルフから距離を取る。


「それは瞳の――」


 距離を取りながら、詠唱を唱え始めたカエサルをパウンド・ウルフは逃さない。発達した筋肉から出される速度は後退するカエサルを悠々と超えている。

 そして、その筋力から放たれた蹴りは直剣ごとカエサルを吹き飛ばした。

 吹き飛ばされたカエサルは壁に打ち付けられ吐血する。しかし、崩れた壁が砂塵を立てる中で“詠唱”を始めた。


「何か唱えてんだろ?? メンドクセえからやらせねえよ」


 砂塵の影響で見えにくいはずだが、パウンド・ウルフにとって視界からの情報は嗅覚の二の次であった。

 強い“強者の匂い”がそこにあることを鼻は嗅覚(かん)じるのだ。それを頼りに即座に距離を詰めた。

 ここだ、と匂いに大まかな目星を付けて、巨大な体躯から放たれる二つの拳は、ドン――ドン と、カエサルにめがけて放たれた。

 拳を振り落とす途中でわかっていたことだが、そこにカエサルはいない。風を纏った直剣で壁だけを切り抜き、人一人が通れる穴を作っていた。


「チッ……壁をくり抜きやがったな……クソ……壁を壊すと怒られるしな……」


 逃げられたわけではない匂いで分かる。相手は重傷を負っている。よく分からない道具も油断しなければ対処ができる。

 パウンド・ウルフはあいつ(カエサル)を斃して早くと主人ティーチの所へ向かわなければという焦燥感を感じ始めていた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 カエサルは壁をくり抜いて直ぐに近くの部屋に駆け込んだ。

 相手が匂いで探知してくることは事前にマコトから聞かされていた。なので、奇襲や逃げ切りは狙えない。あの脚の速さならば直ぐにここも見つかるだろう。

 

 ――(パウンド・ウルフ)は強敵だ。ティーチ様と戦うつもりのマコトのところに行かせるわけにはいかない……。ならば、ここで……倒すしかない……。


 当初の目的は足止めであったが贅沢を言えるほどカエサルとパウンド・ウルフの相性は良くなかった。

 カエサルは“魔法具”に“準備”を施した。逆転の一手になりうるであろう“魔法具”に全てを賭けるつもりだ。


 受けた際に痛めた右腕に応急処置を施し、刃を食いしばり気合で肩を元の位置に戻した。腕や頭からの出血にも布をあてがい応急処置を終えた。

 

 ――奴は匂いでの判別が多かった……匂いか……。これを使えば……いけるか……


 その時、カエサルが周囲に纏わせていた風に誰かが触れた。その気配をカエサルも瞬時に察知した。


「よぉ。見つけたぜ……“風切りマスク”!!」

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