第43話『作戦の完成度は準備から』
43話です。
マコトたちは“ヒルコ”を出立して“ヴァイシュラ”へと向かった。道中に障害などはなく、馬車の中でマコトとゲンマはリネットに聞こえないような小さな声で最後の作戦会議をしていた。
「“ヴァイシュラ”に着きました。道中、何やら楽しそうなお話をされていましたが、どんなお話を?」
リネットは白々しくも会話の内容をゲンマに聞き出そうとしていたが、ゲンマは両耳を塞ぎながら口を噤んでいた。
「言いませんよ、だそうだ。それに関しては俺も同意見だ。さっきも言ったろ? 秘密だって」
その返事にリネットの表情は微動だにせず、「そうですか」とひと言を返すと、リネットは革紐でまとめられた数枚の紙束を差し出した。
「これは?」
「“ヴァイシュラ”の地図です。見ればわかると思いますが、いくつかマーキングしている箇所があります。二重丸で囲んでいる場所がパウンド領邸です」
渡された地図を見ると、大きく“パウンド領邸”と書かれた場所を囲むように二重丸が書かれていた。ほかにも複数箇所が丸で囲まれていた。
「僭越ながら、こちらで都合の良い宿泊先を押さえておきました。宿泊先はこちらです。領主邸から徒歩5分、表通りを避けられる立地です。また、この書状を見せれば2日間だけですが、丸で囲まれている全ての店で割引が利きますのでお使いください」
リネットは書状を渡すと、距離を取りながら深々とお辞儀をした。
「これから先に私は同行することができません。御二方のご健闘を祈ります。それでは――」
そこには誰もいなくなった。リネットは瞬きもしない間に目の前から消え去った。その動きは“メイド”というよりは“忍者”であった。
「行っちゃいましたね」
口を噤んでいたゲンマが口を開き呑気そうに言った。依然として耳は塞いだままである。
「礼すら言ってないのにな……」
「ん? 何か言いました?」
「いや、何でもない。まずは宿に向かうか。この置いていかれた荷物を置きたいしな」
マコトは馬車から下ろされた荷物を指さし、それらを二分して宿まで持っていった。宿に入ると二人は部屋の窓からパウンド領邸の様子を眺めていた。
「大体の造りはマルコに言われた通りだな」
「そうですね。それにしても広い庭です。見張りの人もたくさんいますね」
「取り敢えず、今日の1日で見張りの配置を覚えたい。ゲンマ。言うか、書くか。好きな方を選んでいいぞ。」
「言うか、書くか? どういう意味ですか?」
「見張りを見つけたら口で教えるか、この地図に書き込むか。好きな方でいい。」
「う〜ん……。書くか、言うかですよね……」
結局、ゲンマは書く方になった。理由は「見間違えたら責任を取れない」からだそうだ。マコトに「書き間違えても一緒だろ?」と言われると、冷や汗を垂らしながら静かに黙り込んだ。
最終的には夜が更けるまで続け、夜間の配置と、おおよその交代時刻を把握した。そして2人は眠りについた。
――決戦まで後1日。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――翌日
マコトたちはパウンド領邸の監視を切り上げて、“ヴァイシュラ”の街を歩いていた。ゲンマは挙動不審のような様子で周りをキョロキョロと見回している。
「それにしても道が広いですね〜。理由でもあるんですかね?」
「大勢の軍隊や物資を通りやすくするためだろ。馬車が4台は横並びで通れるからな」
「へえ〜。やっぱり防衛都市だからですかね?」
「だろうな。リネットから貰った地図を見ても細かい路地が多い。これも防衛戦の際に味方のみが使える通路なんだろうな」
「もしかしてですけど…これも事前準備ですか?」
「ああ。事前に道を自分の目で見て覚えたほうがいいからな。地図だけだとアドリブになってしまうからな」
――ぐぅ~……。
「あっ。僕です。お腹が空きました。何か食べません?」
マコトは街の中央にある時計塔を見た。時刻はおおよそ昼時。ゲンマのお腹が鳴るのも無理がない時間だ。
「そうだな。この辺で割り引いてくれる店はあったかな……」
マコトは地図の丸がついている店の中から飲食店を探す。ちょうど近くに酒場があることを見つけた。
「そこに酒場があるな。そこでいいか?」
「いいです! いいです! 早速行きましょうよ!!」
二人は酒場に入った。中は比較的に新しく、昼なのに人が多い。その多くは風体から兵士や傭兵の類であることがわかった。二人は空いている奥のカウンターに座るように案内された。
「昼なのに人が多いですね〜。お昼ご飯がおいしいんでしょうか?」
「そうかもしれないな〜。好きなもの頼んでいいぞ…。」
「ホントですか? じゃあ…え~と……」
ゲンマがメニューを選んでいる間にマコトは周囲に聞き耳を立てた。酒場を選んだのは単に近かったからという理由もあるが、酒場が“情報が集まる場所”という側面を持つことを知っていたからである。
「聞いたか? この前の“大貴族会”の襲撃。」
「聞いたが? それがどうした?」
「ティーチ様が鎮圧されたと、聞いたが。その襲撃を組んだのが“フィリア教団”らしいんだよ……」
「“フィリア教団”って!? あの“フィリア教団”か?? ティーチ様が2度壊滅させた。あの!?」
「声がデケえよ……。それでな……近頃はその……で兵士が少なくな……るだろ……それ……」
気になる話だったが、途中でよく聞こえなくなってしまった。マコトは他の場所にも聞き耳を立ててみた。今度は兵士風の男ではなく、冒険者たちからである。
「今度の討伐作戦の恩賞が誰から出るか知ってるか?」
「ロクサーヌ家だろ? あそこの騎士団だけで解決できそうだがな?」
「何でも“風切りの太刀”が参加しないらしいからな。それで戦力不足らしいんだよ……。」
「あいつが? 騎士道の塊みたいなやつだろ? まぁ、他の用事でもあるんだろ?」
「当主になるらしいからな。忙しいんだろうな貴族様は……」
その時、目の前にダンと、力強く料理が置かれた。鼻を駆け抜けるハーブのような香りが注意を逸らした。
「ほら、“マークイーンの香草仕立て”だ。冷める前に食べろよ」
出された料理は“マークイーンの香草仕立て”。マークイーンとはパウンド領とデフィー領を隔てる川でよく採れる川魚である。淡白な身は大衆に好まれるソウルフードの一つである。
「あれ? マコトさん。“マークイーン”苦手でした?」
「いや、俺ほど“マークイーン”が好きな人間はいないだろ? さっさと食って散歩に戻ろうぜ」
「はい。いただきましょう!!」
その後、マコトたちは酒場を出て、街をぐるりと一周するとマコトは満足したのか、宿に戻って早めに一日を終えた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――決戦当日……。――夜。
街の帷が落ちる頃。
マコトは“ダイアリー”の親機を手に取り、“全ての子機”に連絡を着けた。少しのノイズが鳴り、通話が繋がった。
「じゃあ…始めるか……準備はいいな?」




