第42話『魔法工房』
42話です。前書きが以前からネタ切れ。
「起きてください。マコト様。“ヒルコ”に着きましたよ。」
「ん…んん゛、っ……」
リネットが体を揺さぶるが、マコトの寝起きは悪い。パーティの中では最も遅くに起き、最も遅くに頭が動き始める。ここ数日の疲れが一気に押し寄せたのか、狭い馬車の中でも熟睡するほどである。外には先に起きて頭が冴えてきたゲンマがマコトをのぞいている。
「あ〜。寝ぼけてますねマコトさん。こういうときはこうすればいいんですよ」
そう言うと、ゲンマはおもむろに馬車に乗り込み、マコトを跨ぐように立った。
「起きてくださーい! マコトさーん!!」
そのまま姿勢で飛び上がり、重力に任せるとマコトのお腹を踏みつけた。ゲンマ渾身のスタンプは熟睡で身体が緩みきっているマコトの腹に沈み込む。「ぐえ…っ…」と、えづきを上げて「…ころ…すぞ」とうわ言を言いながらヨロヨロと目を覚ました。その様子を見ていたリネットの表情は明らかに凍りついていた。
「よし! 起きましたね!!」
「…その起こし方は…ゲンマ様が考えたものですか……」
「えっ? これはユウリさんがやってたから真似してるだけですよ?」
「ユウリ様が…そんなことを……」
「いつものことですよ。僕がやるかユウリさんがやるかですもん。マコトさんの反応が面白いから早いもの順なんですよ。後、ユウリさんはもっと思いっきりやってます」
「誰の…寝起きが面白いだ…。それにユウリは軽いから痛くねえんだよ…。お前は重い…。」
マコトは目を擦りながら、鬱憤を晴らす。その目はまだ半目開きで今にも二度寝しそうである。リネットは荷物の中から水筒を取り出し、マコトに渡した。のどの渇きを潤して、身体を大きく伸ばした。そして3人はタガモさんが待っている店へと歩き始めた。
「これが“ヒルコ”か。見るからに発展してそうだな。発展度でいえば“デフィー”と対して変わらないんじゃないのか?」
「ええ。“ヒルコ”は別名“第二の首都”とも呼ばれている商人町です。人口は“デフィー”に劣りますが、集まる技術や商人の数はロンドにも引けを取りません」
「“第二の首都”な…。いろいろ見て回りたいところだが、タガモさんの店に行かないとな。ゲンマ…リネット。場所を知ってるか?」
「えっ!? 僕じゃないんですか?」
「はい。僭越ながら事前に調べさせてもらいました。先導いたします。」
リネットを先頭にして一行はタガモさんの店へと向かった。道中、ゲンマが道を聞かれなかったことを気にしていたが、確実にたどり着けないことを分かっていたため慰めなどはなかった。先頭しているリネットはどんどん細い道を進んでいく、賑やかな大通りとは対照的な入り組んだ小路をクネクネと進む。
路地裏の突き当たりにたどり着くと、リネットは「着きましたよ」と言い、二人に扉を開けるように促した。明らかに閑古鳥が鳴いていそうな店である。扉を開けると、そこらに魔法具が陳列されており、ゲンマが所持している“マーキン”などや“剣土重雷”などの攻撃魔法具も様々な種類が見受けられた。二人が見たこともない魔法具を物色をしていると奥の方から声が聞こえた。
「あー! よく来たのねん二人共!! タガモの魔法工房へようこそなのねん!!」
「おじゃましてますタガモさん。凄いですね見たこともない魔法具がいっぱいですね。」
「マコトさんもゲンマ君もここは初めてなのねん。取り敢えず、“ダイアリー”の親機とマコトさん用の子機を渡しておくのねん。」
「いいのか? 親機だけでも今回は十分だと思うが…」
「いいのねん。マコトさんも数少ないお得意様の一人なのねん。それに共同開発者からも許可は得ているのねん」
「共同開発者? タガモさん以外にも魔法具を作っている人間がいるのか?」
「いや。魔法具を作っているのは世界広けれど僕一人なのねん。今回の“ダイアリー”のアイデア提供者のことなのねん。名前は言えないけどマコトさんも知ってると思うのねん。」
――会ったことがある奴が共同開発者?? 思い当たる人物は……一人だけいるな……。呼び出し音の声が似ていると思ったが、ザンロック(あいつ)だったか。
マコトがそんなことを考えていると、ゲンマが大声を出しながら興奮していた。
「マコトさん!! すごいですよ!! 見たこともない魔法具がいっぱいです!!」
「そうだな。追加で何か買ってくか? “ダイアリー”と合いそうなものなら作戦に組み込めそうだしな」
「そうですね! じゃあ…どれに…します…? 何がいりますっけ?」
「良ければ僕が代わりに探すのねん」
「良いのか? そうだな……。例えば――と――の魔法具はあるか? 用途は陽動と拘束用だ。別に戦闘用の魔法具じゃなくてもいい。それができるやつが複数個あれば助かる」
「それならばいいものがあるのねん! 持ってくるから待っててなのねん」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――両手に魔法具を抱え、店を出る。代金は全部で任務3回分を使い果たす程度だった。かなり手痛い出費だが、“破棄複製”の権能で再利用できるので先行投資だと思えば痛くはない。
「それが“ダイアリー”ですか…? それに先ほどよりもずいぶん荷物が増えていますね? 何を買ったのですか?」
「内緒だ。俺たちの秘密の作戦だからな。ゲンマに聞いても意味がないぞ。詳しいことは説明してないからな」
「そうですよ。マコトさんは賢いので、僕に作戦を話すのは決まって事前なんですよ」
ゲンマは馬車に荷物を積んでいるマコトを手伝いながら、言った。2つに分けられた大きな袋は乱雑に置かれているが、それも“破棄複製”で直せる想定で置いている。マコトはつくづく便利な“権能”だと思った。
「…そうですか。それでは“ヒルコ”での準備は以上でよろしいでしょうか? 準備ができ次第“ヴァイシュラ”への馬車を飛ばしますので…」
「問題ない。今度こそ“ヴァイシュラ”へ行こうか。」




