第41話『荷物は持ったな』
「帰ってきたっていうのにもう行くのか? 少しはゆっくりしていってもいいだろ」
マルコはギルドに到着して早々、出発の準備をしているマコトとゲンマに問いかけた。
「ここで出来ることは少なそうだからな。それに、多分だが、外で待っているやつがいるからな」
マコトはギルドの街道に寄せられていた馬車を指さす。一般的に見ても、夜遅くに馬車が止まっていることはおかしい。その馬車からは人の気配などは感じなかったが、彼らには誰が乗ってきたものかは理解できた。
「マコトさん、持っていくものは必要最低限の武器類でいいんですよね??」
「ああ。“魔法具”は揃っているか? 少なくとも戦闘を行える装備を整えないとな。」
「ええ。“魔法具”は先日にタガモさんに来てもらって、戦闘用のチューニングと新規の商品をいくつか買わせてもらいましたから十分ですよ」
「来てもらった? まさか…“通信用の魔法具”で呼べるのか?」
“この世界で人を呼べる”? マコトはそのことを不思議に思った。電話などは見当たらなく、早馬を飛ばすことが最速の伝達手段ではないのか、と考えていたからである。
「はい。この“遠距離会話”の“魔法具”の“ダイアリー”で話しかけることができるんですよ。」
ゲンマは板状の“魔法具”を取り出し、マコトに見せつけた。どうやら、親機と子機が存在し、タガモさんが持ち歩いているのは親機で複数の子機と通話が可能なようだ。対して、子機は親機にのみ発信することが可能だそうだ。
マコトはその説明を聞いて、よくできた商売だなと、深く感心した。値段はというと、お得意様には無料で配布しているらしく、ゲンマ曰く、異国の地の最新技術を流用してウンタラカンタラらしいが、ゲンマがそれを理解していない。
「なるほどな。子機同士じゃ無理なのか。今回の作戦では使えそうにないな」
「使える? どうやってですか?」
「潜入した時の情報交換とか、別れた時の通信手段にでもなるかな、と思ってな。だけど、タガモさんの持っている親機じゃないと無理だからな……」
「…どうですかね?? 一度聞いてみたらどうですか? ほら、タガモさんってマコトさんに恩義を感じているところがありますし…頼んだらいけそうですよ」
そう言うと、ゲンマは既に“ダイアリー”からタガモさんに向かって呼び出しを行っていた。“ダイアリー”から聞こえる独特な呼び出し音は、何処かで聞いたことのある声だった。だが、それはタガモさんではない。その声を聞いたマコトはある“火薬商人”を想像したが、あり得ないので考えるのをやめた。
そんなこんなで、数秒後に“ダイアリー”からタガモさんの声が聞こえた。
「ゲンマ君どうしたのねん? こんな夜遅くに――」
「――あっ。タガモさんですか? ダイアリーの親機を貸してほしいんですけど? いいですか??」
「ホントに!! 急にどうしたのねん!? ダイアリーの親機を貸すなんて…流石に――」
「――マコトです。すみません、ゲンマが説明を端折ってしまって……詳しくは……なんですけど……」
マコトは“7貴族”と“ティーチ”に触れない程度に今の状況を説明した。正直に話すという手もあったが、“7貴族”のワードを出すだけで逆効果になると思い伏せていた。代わりに存在しない任務をでっち上げた。
「なるほど……つまりは、今度の任務で二つの場所で行動を行わないといけないから、貸してほしいのねん……まぁ……マコト君ならば、悪いようには使わないのねん。いいのねん。」
「いいんですか? ありがとうございます! それで明日には取りに行きたいのですが、今何処にいます?」
「今? 今は“デフィー領”の“商人町ヒルコ”にいるのねん。ここに工房があるから寄ってくれたらいいのねん」
「はい。ありがとうございます、後日、寄らせてもらいますね。失礼します」
マコトはペコペコと、相手に見えていないのにお辞儀をした後に通話を切ろうとしたが、切り方が分からなかったので静かに“ダイアリー”をゲンマに返した。
「やりましたね。これで“ダイアリー”を使った作戦も立てれますよ!!」
「ああ。やってみるもんだな。それじゃあ荷物は持ったな。行ってくるよマルコさん。」
「おう。しっかりとやれよ、今度は3人でここに来ればいいさ。行ってこい。」
マコトたちはギルドの木製の扉を開けて、外に出る。そこには案の定、馬車に腰掛けているリネットの姿があった。最後に会ったのは“大貴族会”の開演前である。
「えらく時間が掛かっていましたね。準備は万全でしょうか?」
「一つだけ取りに行きたいものがあるから、“ヒルコ”に寄ってほしい。後はお前らの手筈通りにやってくれればいいさ」
「ええ。最終的に“ヴァイシュラ”に向かっていただければいいのですから。それでは“ヒルコ”に向かいますのでお乗りください」
馬車の扉を開け、中に乗るように促す。見たところ何か細工をしたような跡もなく、ただの馬車である。
「――参ります。“ヒルコ”までは2時間程度なので、それまではお休みください。」
「ああ。そうさせてもらうよ、今日はいろいろあったからな。疲れたよ――」
――俺は深く、目を閉じた。




