第39話『話の外』
第39話です。
「…な…、なんだ貴様は!? 一体どこからっ――」
凶刃を受け止めたのは、どこからともなく現れた白刃だった。白刃は剣を突き返し、空いた胴へと重い蹴りを入れたのだ。
誰も刃がそこに現れるまで彼に気づかなかった。襲われていたユウリも彼女に何かしらの方法で近づいた襲撃者も、壇上から会場全体を見渡せたティーチでさえもだ。
「誰だ…!? 誰がどの道理で我らの邪魔を……」
「……俺は…――俺はアラキマコト!! 冒険者ギルドの冒険者にして――ユウリのパーティリーダーだ!! 仲間のユウリに手を出してみろ!! この場にいる全員を敵にしたとしても、俺が守ってみせる!!」
それは周囲の貴族からすれば“寸劇”はたまた“余興”のような状況に見えるだろう。実際に貴族の風体をしていた男が短剣を持って歩いていても、彼らは不自然に思っただろう。
誰もそれを声に出さない。あくまで“傍観者”でいようとするのだ。しかし、この状況で“啖呵”を切った青年に向ける目は熱くなっていた。
貴族たちは目の前で起きた出来事を理解できず、息を呑む。短剣を抜いた男も、それを受け止めた青年も、まるで舞台の一幕のように映っていた。
「そうか…ならば、貴様も我が神の身元へ送ってやろう!! 死ねぇ――い゛ぃ???」
「――死ぬのは貴様だ……よくも私の妹へ手を出そうとしたな……万死に…いや、死すら生ぬるい…」
襲撃者は頭の先から押されるかのように潰れ、襲撃者だったものは赤い床の染みとなった。
ティーチは手を下ろし、壇上からゆっくりと、笑みを浮かべたまま、大股でこちらへ歩み寄る。その表情はにこやかで笑顔を取り作っていたが、奥には憤怒が見え隠れしていた。
「……よくやったな…褒めて遣わす……見ない顔だが、貴殿の名は?」
あくまで初対面を演じるつもりということは、言葉以外にも態度や表情から感じ取れた。“貴族”たちの前では“7貴族”を通し抜くようだ。
「……アラキ・マコト…彼女のパーティリーダーだ」
「ほう、妹の? それはユウリを取り返しに来たと捉えてもいいのか?」
「…取り返しに来ても何も…ユウリは今も俺の仲間だ」
「ほう…。……つまり、お前はこの襲撃とは無関係だと言うのか?? こんな襲撃は単独ではなく、“7貴族”レベルの集団の力がなければ出来ない犯行に見えるがな…。」
「これは…俺じゃない。今の状況もさっきの襲撃も何もかもが予想外だ。むしろ、俺が聞きたいくらいだ」
「ならば、他の誰かが…――この絵を描いたと思っているのか?」
「そうだな。俺は襲撃したのが、“第三者”だと思っている。力を持った“第三者”だ。」
「なるほどな。それに関しては同感だ。良いことを聞いた。アラキマコト。
よし――この先は誰にも“聞かれる”わけにはいかないな。」
その時、周りの空気が一気に重くなるような気がした。それ以上に音が折れ曲がっているような、話し声が聞こえにくくなっているようだった。
「おい、何をした? 俺を逃さないつもりか??」
「いや、これから先の話はユウリにも聞かせられない。少なくとも、俺の描いている絵にはユウリの姿はないからな。」
先ほどとは違う。異様な気配が腹の底から湧き出てくるように感じ取れる。身体中に突き刺さる殺気がティーチの本心を代弁しているようだ。これより先は…言葉を選ばなくてはと、マコトは心の奥底から思った。
「…それはどういうことだ……。ユウリがいない!? ティーチ! お前は何がしたい!?」
「俺は常にユウリのことを考えている。ユウリの幸せは俺の幸せだ。だから…。俺の絵にユウリは必要ない。――今、この力場は長くは持たない。なので、単刀直入に命令する。――2日後にパウンド領の“ヴァイシュラ”の領主邸まで来い。これは“命令”だ。いいな。」
その瞬間、ティーチは周囲の力場を解いた。音が真っすぐ、世界が元に戻った事が分かる。
「2日後に褒章を出そう。名を覚えたアラキ・マコトだな。それではまた会おう。」
「な、おい…くそっ…まて……」
「ユウリ、“ヴァイシュラ”に帰ろうか。彼にお礼を言っておくのだぞ。――今でなくていい、2日後に褒章を出す際に会えるだろう。」
穏やかな声でユウリを手引きするティーチは、こちらを2度3度見た後に、従者を呼び出し書状を渡させた。その従者からは「必ず、信頼できる者しか居ない場所で開けること」と強く言いつけられた。
その後、“大貴族会”は流れで終了したのである。ゲンマとマルコさんが立ち尽くしていた俺を迎えに来るまでは、俺はティーチの意図を考えていた。が、“正解”に辿り着けることはなかった。
物事を企てることを「絵を画く(えをえがく)」や、関東の隠語で「絵図」と表現し、自身の思惑通りに事態を進める状況を表します。
絵を画く(えをえがく)自分の有利になるように陰謀を企てたり、筋書きを練ったりすること。
絵図を画く(えずをえがく)物事の計画やストーリーを組み立てること




