『第3話 アーム領へ』
3話ですね。
急に日本と言われたらあなたならなんて答えます?。
ギルドから出立した俺たちは国道沿いを走り、ダンカン領地へと向かう。馬車の振動で舗装された道から荒れた道への変化を察する。
俺は窓から見える異世界の景色を眺めていた。遠くにはドラゴンが飛んでいて一つの生態系を作っていた。馬も俺の知っている馬とは違い、目の後ろや体のいたるところに穴が空いていた。そこから体の熱を逃がしているようだ。
ユウリはというと、一時間ほどは上品に座っていたのだが、二時間ぐらいで飽きたのか、失敗した逆立ちのような体勢で馬車とともに揺れていた。
「まだ、つかないの〜、景色も全然面白くないし暇なんだけど〜よく飽きないわね。」
退屈なユウリはこちらに話を振ってきた。
「まあ、今のところ初めて見るものばかりだからな。ユウリはこの景色を何度も見てるのか?」
「当たり前でしょ。昔から会合とか貴族会につき合わされて連れ回されたから。子どものときは楽しかったけど面白くないわよこんな景色。」
「そうか。だったら質問タイムでもするか?お互い聞きたいことがあるだろ?な」
俺の提案にユウリは目の色を変えて、勢いよく起き上がった。
「いいわね。パーティーを組んだけどお互いのことは知らないわ。いい機会だし話しましょ!」
ユウリは鼻息荒くふんふんと私が質問をするとそんな雰囲気で構えている。
「私からね。じゃあ、マコトの住んでた日本ってどんなとこ?」
想像していない質問に頭を抱える。急に日本を説明しろと言われても難しいな。
「俺の故郷の日本は……そうだな。とても技術が発展していて……食べ物もうまいし、何よりも権能がない。」
「権能がないの!それはうらやましいわね。……あれ?でも、マコトは持ってるわよね。なんだっけ……“もこう”の権能?」
「ハハっ。俺のは“模倣”の権能だな。相手の名前を唱えながら触ると権能を模倣できるんだ。」
「強っ!。ーーってかいいの?私に権能の中身を教えて。」
「だって、パーティーだろ?俺が教えたいから教えただけだ。ユウリは答えなくてもいいからな。」
「なんでよ。それだったら私も教えるわ。私の権能は“高速化”。自身の体を軽くして動きを速くできるわ。」
なるほど。だからレイピアなのか。昨日言っていた蝶のように舞い、蜂のように刺すはとても合理的だ。
「いい権能だな。身体を軽くして動けるなんて日常使いが良さそうだな。」
「……でしょ!。それにしても私が言うのはなんだけど、マコトって人と話すときに萎縮とかしないわよね。マルコと話してるときも堅いけど普通だったし。7貴族と喋るとこうもっとカチコチになるのよ。」
「なぁ、前から思っていたんだが。その7貴族ってのは何なんだ?。偉いのは何となく分かっているんだが……。」
「そうよね。マコトは7貴族のことも知らないから当然よね。7貴族ってのは創国史に出てくるの一族の末裔のことを言うの。その一族は女神リデフィーに権能の力を戴いて悪魔を倒したのよ。それがこの国全体のお話。」
そういうことか。日本でいう天皇家みたいなものか。リデフィーから力を貰った末裔が、今も全体で領主をしているというわけか。
「なあ、7貴族がユウリのいーー」
その時、馬車が急に止まった。どうやら休憩のようだ。
「外に行きましょ!私こんな窮屈な空間にいるの疲れたわ。」
ユウリは荷物持ちが扉を開けると外に飛び出していった。荷物持ちがこちらに会釈をすると外へ案内される。
馬は路肩に止められて樽の水を飲みながら、その辺の草をはんでいる。
「ここからはアーム領とデフィー領の間の関所だ。今まではこの先の橋を使っていたが、老朽化の工事で通行止めなんだ。更に工事中に巨人が現れてな。下の渓谷しか今は通れねえんだ。だからよ、お嬢さんここから先はさっきよりも揺れるぞ。」
「ええー。上の橋は通れないの。」
「無理だな。この人数じゃ崩落の可能性だってある。いくら7貴族の頼みでも命まではかけられないな。」
「そう……。じゃあ仕方ないわね。」
「安心しろ。下の渓谷は橋がない時だけの迂回路だ。橋を超えれば楽な道になる。」
「ほんと!行くわよ!マコト。速くアーム領の関所を越えるのよ!」
「馬の休憩が終わったらな。それよりも巨人はそんなに危険なんですか。」
「危険も何も出会ったらおしまいだと思っておいたほうがいいな。俺たちの戦力じゃ全員食料になる。」
「ひええ……怖っ」
ユウリが後ろで怖がっていた。最初に馬がやられると思っているのか手を合わせていた。そんな文化もあるようだ。
馬の休憩が終わり、再度馬車に乗り込む。道はガタガタの岩肌になっているのが分かる。ユウリは微妙にだがお尻を浮かして衝撃から逃げていた。
「ふふ……マコト。あなたが聞きたいことは分かっているわよ。ズバリ!巨人の強さについてよね!」
「……よく分かったな。そのとおりだ。教えてくれないか?」
本当は別のことを聞こうとしていたが、今はいいだろう。
「巨人をはじめとするモンスターにはね等級が振り分けられているの。」
「等級?……例えば?」
「AからDまでに分かれているのだけど、さっき話題にあがった巨人はその階級で言ったらBランクなの。他には、さっき飛んでいたドラゴンはAランクね。外の馬はDランクよ。」
となると、冒険者ランクはそういことか。
「つまりは、俺たちはDランクにも満たないから出会ったら即死ってことだな。」
「そうそう。って、なんだ知ってるのよ。」
「話の流れから何となく。」
「マコトってやっぱり賢いわよね。まあ、その通りだわ。Aランクの冒険者はAランクのモンスターを倒せるレベル。Bランク冒険者は同様。私たちはランクなしだからそれには入らないわ。」
「だから、巨人を警戒するにはBランクの冒険者がいればいいわけだな。」
「そういうことよ。私たちの馬車にはいないけど……。」
傾斜が終わり、渓谷の下を走っているのが何となく分かった。ガタガタと音が鳴り、馬車は勢いよく渓谷下を駆けている。
その時だった。ズンーーと体の奥底に響くような重量感ある音が聞こえた。
それと同時に馬車の動きがゆっくりになる。後ろの扉が開き、荷物持ちが声をかけに来た。
「ユウリさん、マコトさん。すみませんが巨人が出ましたので走行を中止しています。」
「出たの!巨人が!」
「すみませんが、お静かにお願いします。巨人は聴覚が特に優れていて小さな音でも反応します。なので長話は良くないのです。」
「すみません……。」
怒られたユウリは萎縮していた、どうやら巨人が過ぎ去るまではここで待機らしい。
御者が落ち着きのない馬をなだめているがあまり効果はなさそうだ。
音だけが周りに響いているため、静寂のなかに緊張感が漂う。
その時だった。巨人の足音らしき音が早くなった。
「ーーなんで、私は音を出してないのに!」
「どうやら誰かが見つかったようですね。これはまずいことになりましたよ。」
閑静とした渓谷で足音だけがこちらに迫ってきていた。




