第37話『壇上へ』
37話です。
場面転換が難しい媒体ですね。小説って。
ティーチの呼びかけにより、会場の各所で歓談していた“7貴族”の領主たちが、ゆっくりと壇上へ向かい始めた。 一人、また一人と姿を現し、壇上には次第に七つの家の代表が集まろうとしている。
その中でもひときわ目を引いたのは、場の華やかさとは対照的な黒の礼装を纏う女性だった。“シャドウ家領主”――その足取りには一切の迷いがなく、呼びかけが終わるよりも早く壇上へと立っていた。それとは、対照的に他の領主たちはゆっくりと自身のペースで進んでいることが分かり、彼女だけが特段真面目な印象を受けた。
その後、フレア家やステラ家など続々と領主が集まり、残るは2名のみとなった。
その時、壇上に“7貴族”が揃うのを待っていたマコトに声がかかった。聞き覚えのある女性の声である。こちらを眺めながら不思議そうな表情をしていた。
「あれ?? 失礼だけど……どこかで会ったかしら? とても初対面には思えないわ」
彼女は“エピタフ家領主”ミヤビ・エピタフ。先のクラーケン騒動の当事者である。当然、壇上へと呼ばれているのだが、彼女の関心はこの何処かで見たことのある青年へと移っていた。
「ちょっと、顔をよく見えてもらってもいいかしら?」
ミヤビの顔が近づくなかで、マコトにこの状況を打開できる術がなかった。そこで気配を隠しているゲンマにも助けを求めることができず、マルコは既に壇上に上がっている。この場で“マコトの名”が出ることは作戦失敗に直結することは想像に容易い。
あと一歩で名を呼ばれる――そう思った。
「何してる! さっさと来い!!」
「――わったったっ!! 耳、引っ張らないで〜」
彼女の耳を引っ張り、壇上へと向かわせたのは“アーム家の領主”ダンカン・アームである。彼は「一番若いのが道草くうな」と言いながら、ミヤビを引きずっていった。
ダンカンは振り向きざまにこちらを見て、意味ありげに口角だけを上げた。
そして、二人が壇上に上がったことで“7貴族の領主”が出揃った。会場からは感嘆の声が上がり、彼らの言葉を待っていた。
会場全員の視線が壇上に集まるなかで、マコトの視線は壇上奥の窓際にあった。あそこで光が2回点滅することが開始の合図であることを事前に知らされていた。それと同時に光を落とす手筈である。
「……皆、集まったようだ。そろそろ始めようか」と、ティーチが声をかけたその瞬間。窓際で光源が――
点滅
点滅
2度の点滅の合図により、マコトが席を立つ。リネットから模倣した“気配消し”の権能を使いながら――
点滅
――失敗!? リネットが意味もなく、作戦を変更するわけがない。光源を点滅させる回数を間違えるわけがない。
マコトが“何か起きたのでは”と、思うよりも先に全体の光源がゆっくりと段階的に落ちて、暗転した。どよめきが広がり、来賓も異常が起きていることを察する。
そして、壇上の後ろにあるステンドグラスが割れた。悲鳴とともに襲撃者が侵入する。彼らは場を乱し、混乱を生み出す――
「は? 何だよ…これは!? 誰かが刺しやがった!!!」と、来賓の一人の悲鳴が上がった。
――悲鳴が聞こえるのは想定内だ、その想定だったからだ。だが、誰かが襲われる声が聞こえるのは想定していない、それは想定外の本物だった。
「ゲンマ!! 動くなよ!! 予定外だ!!」
「えっ!? あっはい!!」
そう言いながらも、彼の足は前進していた。この襲撃が予定内のものでも、予定外のものでも利用してやろうという魂胆であった。再度、解いていた“気配消し”の権能を使い、周囲に気取られずに席から離れていた。マコトの姿はゲンマにはすでに見えていなかったのだ。
一方、襲撃者たちが最も近いのは、“7貴族”の集まる壇上である。が、彼らはそこを避けるように通り抜けた。至極当然のことだが、“7貴族”に近づくのは“政治的に”も戦力的にも割に合わないのだろう。その凶刃の矛先は来賓に向かっていた。
「…これは、一体、何が!?」
「ぼさっとするな!! どう見ても襲撃だろ!! マルコの坊主!! 避難させろ!!」
「すでにやってる!! 暗所でやれるやつにはこっちに来るように見せているが、逃げる貴族の統率が取れていない」
ティーチが混乱するなかで、最古参のダンカンが周囲に指示を飛ばし、マルコが“権能”で誘導しているが、逃げる貴族にそれを追う襲撃者、狭い出口に押し込むようにしているため、騎士や警備がこちらに来れない状態であった。
混乱する会場に突然、一つの大きな光源が浮かび上がる。それは7貴族の“ステラ家の領主”の頭上にあった。神父のような彼が指を回すと、光源が伸びてゆき、会場全体を明るく照らした。それは距離があったマコトの目を晦ますほどの光である。
「この場で動けるのは私だけのようだな…どれ、私、フンケル・ステラがリデフィー様の名のもとに賊共を滅して見せよう」




