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女神から授かった権能“模倣”で異世界を生き抜く  作者: 近藤セカイ
第1部 第3章『パウンド編 ――大貴族会――』
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第34話『残るもの』

第34話です。


「約束通りだ。ロクサーヌの名で招待状を書こう。名は何とする? 流石に、“アラキ・マコト”と書くわけにはあるまいな?」

 カエサルが危惧していたのは、主催者であるティーチ本人にマコトの名が伝わることである。当然、主催者は帳簿から参加者の名を知ることができる。


「そのことにつきましては心配ありません。「マコト様のお名前では参加できないと考え、昨夜のうちに別名義を用意しておきました」

「いつの間にしてたんだ? ここから離れたとは思ってなかったが」

「昨日の夜から朝にかけて街の方へ少し、その際に事前に行っていた細かな手続きを済ませてきました」

 そう言えば、昨日の夜も朝の“勝負”の際にも姿を現していなかったと、マコトは思い返した。


「マコト様の代わりの名は“コウキ・コウダ”――約20年前に名を馳せた冒険者“ジン・コウダ”の名前を拝借しました。既に故人ですが、子をなしていたと聞きます。その子どもの設定です」

「コウダ……か」


 マコトはその名前の作りに驚いた。まるで、自身と同じ日本人の名前ではないか、と――しかし、マコトは自身が転生者であることは誰にも告げていなかった。故に、言葉にはしなかった。


「この辺りではあまり聞かない名だが、そのような冒険者がいたのか――それに、20年前の冒険者ということは、アーム領の国境線で起きた“桜ヶ峰戦役”に参戦していただろう」

「その戦役に私は詳しく知りませんが、当時の記録と照らし合わせ、矛盾が生じぬよう整えております。その辺りの辻褄合わせは既に終えております。マコト様もこちらの名前で問題ありませんね」


 リネットの声が右から左に流れ、マコトの頭にはさほど届いていないように見えた。今、マコトの頭の中には別の事が過っていたため、そんなことはどうでもよかった。


「んあ、ああその名前でいい――それでいいよ、そんなことよりも、その“ジン・コウダ”っていう冒険者はどんなやつだったんだ?」

「すみません。詳しい記録は残っておらず、出生すら記憶にはなく、あったのはギルド登録の際と婚約の際の記録のみでした。その数年後には“失踪”――“死亡”となっているので」

「そのことは今はいいだろ、マコト。名は“コウキ・コウダ”にしておく――立場は私の父の兄の子、つまりは“従兄弟”にしておく。それならば社交の場に慣れておくなどの名目で紛れることができるだろ。」


 そう言うと、カエサルは一つの書類を小綺麗な封筒に入れ、上から蝋で封をした。表には差出人の流暢に“カエサル・グリス・ロクサーヌ”と宛名には“デフィー中央貴族協会”と記した。


「“デフィー中央貴族協会”ってのは何なんだ? 貴族を取りまとめる団体か??」

「マコトがそれを知らぬのも無理はない。“デフィー中央貴族協会”とはその名の通り、首都デフィーに存在する“7貴族”とそれを支えた主要貴族が運営する団体だ。今回の“大貴族会”の準備から領土間の問題解決及び補助、“7貴族”の集会も彼らが開催していると言われている。私も誰が運営していて、どのように動いているかは知らないがな――この後はどうする? マコトさえ良ければ、当日まで泊めてやることもできるが」

「それなんだが、当日に合流でいいか?」

「構わないが、どうしてだ?」

「一度、デフィーに戻って、仲間と情報を共有したい。それに、リネットもデフィーに戻ったほうがいいって言ってるしな」

「そうか、ならば馬を貸そう。ロクサーヌの馬は駿馬だからな、一人一頭で走らせればデフィーまでは“1時間半”で着くだろう。」


 カエサルはそう言いながら、慣れた足取りで厩の方へと移動した。マコトは内心、デフィーまで歩がないといけない、のではと思っていたため、安堵していた。扉を開けると、草の乾いた匂いや動物特有の汗の香りのようなものが漂った。厩にいる馬はどれを選んでも、最速で送り届けてやる、という気概を感じられるほど力強かった。こちらを見ると、どの馬もオレを選べと言わんばかりだ。 


「助かるよ、いいのか? 馬は資産だろ? 俺たちに2頭も貸して、素人目の俺が見てもどれも名馬に見える。」

「どれも名馬か、ありがたい言葉だ。貸すよ――構わない、当日もそれを使ってここに来てくれればいい」

「そうだな、どの馬を選んでもいいのか?」

「好きなのを選んでいい。そこにいるのは誰の馬でもない。むしろ、誰かに乗られるのを今かと待っているのだからな」

「そうか……」


 マコトは馬を一頭一頭じっくりと眺めて、その能力を見極めようとした。が、素人がそんな事が分かるわけがなく、正直に言ってどの馬も同じように見えたことは口にしなかった。しかし、その中でも一頭だけ“惹かれる”と言えばいいのだろうか。明らかにこの馬だと思えたのは白い毛並みが際立つ美しい馬であった。「これだ…」、と口にすると、マコトはその馬の口の横にそっと触れた。すると、馬はブルルと、鼻息を立てて、マコトの手にスリスリと頬ずりをした。


「こいつがいい。この白い馬が気に入った」

「そうだな、彼女もマコトを偉く気に入っているようだ」

「女の子だったのか!? よろしくな」


 マコトが馬とじゃれ合う中で、リネットも隅の方で馬を一つ借りていた。茶色の毛並みと、額に可愛らしいプチ模様のある立派な駿馬だ。


「マコト様、私も馬を受け取りましたので、早速デフィーに向かいましょう。あちらで準備しなければならないことがいくつもあります」

「ああ、すぐに出ようか、すまないカエサル、俺たちは行くよ」

「ああ、馬は馬具をつけて表に回しておこう、その間に客間に戻って、荷物を取りに行けばいい」


 マコトはリネットと二人で客間に向かい、荷物を整えた。この2日間木剣しか握っていなかったが、今はこの刀がとても手になじんだ。少ない手荷物を身に着け、修行の間に過ごしたこのロクサーヌ邸に心から別れを告げた。

 表に出ると、先ほどの白毛の牝馬が立派な馬具をつけており、白毛と質素な色の馬具のコントラストが綺麗だった。馬具には馬が呼吸する際の穴が空いており、ここが異世界であることを再認識させた。


「では、マコト、また当日にここで会おう。この数日で君は“君の剣”を手に入れた。それは私から一本を取った剣なのだ、それを忘れるんじゃないぞ」

「ああ、俺の剣は忘れないよ。俺のことを修行してくれてありがとうな。それに招待状も至れり尽くせりだ。とてもこの恩は返せないな」

「恩などどうでいい、私が友として手伝いたかっただけだ。その心だけは受け取っておくよ」


 「また当日に」、そう言うと、マコトは手綱を引き、馬に合図を送った。何を隠そうこの男は普通に乗馬の経験があり、スポーツ競馬のようには無理だが、この程度の操縦は手慣れたものであった。ロクサーヌ家が誇る2頭の駿馬は広大な台地を駆け巡り、またたく間にロクサーヌ邸が見えなくなった。

 

 その目的地はデフィー、仲間の元へと帰還する第一歩であった。

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