第33話『“剣”』
第33話です。
試験期間に入ったので投稿間隔が少し変わります。
ご了承ください。
現在、修行開始から既に半刻が経っていた。修練場の中央では、マコトがロクサーヌ騎士団に囲まれていた。
一対一。時には二対一。
木剣が前方から打ち込まれるたびに受け、弾き、隙を見ては打ち返す。しかし、反撃のたびに次の一手へ移る動きがわずかに遅れ、その隙を別の騎士が逃さない。
その一部始終を、演習場の端からカエサルは静かに見つめていた。
「……やはり、剣の腕は悪くない。だが、その剣では猛攻を防ぎ切ることはできないだろう……」
やはり、カエサルの言ったとおりに、今のマコトの剣の型では訓練された騎士たちの剣戟に少し遅れて反応しているように見えた。
少しばかり、動くのが遅いか?? 相手の動きに対応するには何かが足りないような気もする。騎士が使う型はカエサルが使っているものと同じだろう。それが分かるぐらいには全体的な熟練度が高い。
その時、「“一を極めろ”」、ハウルの言葉が頭をよぎった。
…ならば、一度だけ、動きを“考えない”を試してみてもいいのかもしれない。
マコトは剣を握る力を緩めた。そして、騎士の剣は吸い込まれるように腹に向かい――
受けない。
打たれる。
「あ゛だっ!!」
――そして、木剣は打ち込まれた。
「止め、一度動きを止めろ――マコトはこっちに来てくれ」
マコトは打たれた腹部を押さえ込みながら、ヨロヨロとカエサルの方へと向かった。
「今のは何だ? 君らしくない、それに受ける気があったように見えなかった」
「…俺の考える剣の動かし方が間違っているのかと思って、何も“考えず”に動いた。それだけだ」
マコトの言葉を聞き、カエサルは頭を抱え、深くため息をついた。
「いいか、何も考えないのは違う。君に足りないのは頭や腕などの初歩的な問題ではない――君は剣の使い方が間違っているんだ、君に適した武器は“剣”だろうが、君の動きは“剣”に適していない」
「…俺の“剣”…」
「そう、誰かに習った“剣”ではない――誰の“剣”でもない、君の“剣”だ」
「……よし、分かった。始めてくれカエサル――俺の“剣”を実践で試したい」
「…よし、ではやってみようか。さぁ、ここからが本番だ。君たちも容赦なく本気でかかってやってくれ」
カエサルが激励をかけると、「おお!!」と言う声がそろって響いた。そして、騎士たちはマコトに木剣を向けて、始まりの合図を待っている。
「始め――」
四方から木剣が迫る。一本を受ければ二本目、二本目を払えば三本目が肩口を狙う。
何度も打ち、打たれ、そして、騎士たちの対応が明確に変わった頃には一刻が経っていた。
先ほどとは違い、一対一や一対二ではなく、一対多で向かってくる。しかし、それは統率の取れていない突撃ではなく、計画された連携である。
一方、マコトの“考え”も先ほどと違い、“剣”の動かし方を意識していた。頭の中にある適した動き――つまりは今までの積み重ねの応用の動きである既存の動きよりも、その場で構築した自分が最も受けやすい動きをするようにしていた。
そう、それはティーチに勝つ為にマルコに言われた言葉と似ていたのだ。
「自分が得意な土俵にもってこい」
その言葉が、マコトの脳内で反芻されていた。
何度も打ち、打ち込まれた、反らし、打ち、“剣”は打たれれば打たれるほど強くなる―そして、その瞬間、積み重ねた技術が、ようやく一つの『剣術』になった。
「よし、一度やめ、マコト――それが君の“剣術”だ。ここからの君は一段と強くなるはずだ。そして、忘れるな、今の“剣”を――」
「ああ、続きをやろう、カエサル、今ならもっとできそうだ」
「そうだな。ここから先は今のに内容を一つだけ加えようと思う」
「…内容って?」
「そろそろ準備ができたそうだ、始めようか」
「だから、何を加えるんだよ!」
再び、騎士たちが斬りかかる。が、今のマコトはそれを難なくいなし、斬り返すことができた。それは、この修行が確実に彼を成長させていることを物語っていた。
カエサルは何を加えたんだ? さっきまでと同じでひたすら右往左往から騎士たちが斬りかかってくるだけじゃないか。それに、騎士の何人かは“権能”を使ってるな。これが内容が変化したところか――?
その時、産毛が逆立つような、そんな感覚が――ぬるり、と現れた木製の小刀はまるで暗殺者の得物のようだ。
「…惜しい…後、少しでしたが」
「リネット!? お前も参加するのか?」
「ええ、カエサル様から頼まれ、修行の過程の一つとなります。そうですね、胸を借りるつもりでやらせていただきます」
瞬きをした覚えはない。が、マコトは一瞬たりともリネットからは目を離していなかった。しかし、その時には既に目の前からは消えていた。
分かっていたが、えげつないな“気配消し”の“権能”。目を離したつもりはなかったんだがな、気づけば消えていた。それに、リネットに気を取られていれば、騎士たちへの警戒が薄まる。想像以上に厄介な相手だな。
騎士の中には剣術に“権能”を取り入れたもの、“権能”が剣術の業になっているものもいた。彼らの相手をしているうちにマコトの中にも明確な“権能”の使用像が見えてきた。
そして、日が落ちる頃には、マコトの“剣”は騎士たちにも劣らぬほどになっていた。“実戦”に匹敵するほどの“実践”を経験した。
「マコト、今日は終わりだ。どうだった? 修行前と今とで違いは分かったか?」
「…ああ、俺の“剣”がよく分かったよ。型に囚われていたというか、“考え”が固かったというか…まあ、“剣”を自由に振ってなかったな」
「そうだな。君の“剣”は固く、融通の利かないようなものだったな――だが、今の君の“剣”は違う、自由で何ものにも囚われないそんな“剣”だ。」
「そうか、カエサルが言うのなら俺の“剣”は確実に成長してたんだな」
マコトはくしゃりと笑った、そして、木剣を力強く振った。空気を切る鈍い音が鳴り、その“剣”を見て、カエサルもにやりと笑った。
「なんで笑うんだよ、おかしいか?」
「いや、まったくもって見違えたなと思い、敵に塩を送ってしまったなと思ってな」
「…明日の“勝負”は手を抜かないで真剣に来てくれよな」
「フフ…誰に物を言ってるんだ? 元から手を抜くつもりもない、今の君を完膚なきまでに負かしてあげるよ」
「言ったな…じゃあ、俺は先に寝させてもらうわ、おやすみ」
「ああ、おやすみ、マコト」
そして、二日目の朝、最後の“勝負”のチャンスがやってきた。




