第32話『不敗の騎士』
第32話です。
どこかの阿呆は6月が31日まであると思ってのでしょうね。投稿が遅れてすみませんでした。
「その条件とは、“権能”を使わず、剣だけで私から“一本”を取ることだ。これは私からではなく、“ロクサーヌ家”が推薦する人間にふさわしい素養と言えるだろう。友人ではなく、神聖デフィー公国の国境線を守護してきた“ロクサーヌ家”として試させてもらおう――この条件を飲めるか?」
カエサルが提案したのは、個人からではなく、あくまで“ロクサーヌ家”、いや、――貴族としての提案であった。その提案にマコトは二つ返事で答えた。
「――それでいいなら、俺が断るわけがない。条件を飲むよ。リネット、これで間に合うか? それとも、この条件だと難しそうか?」
「……僭越ながら、マコト様の剣は冒険の間ずっと拝見しておりました。しかし、お相手が“風切りの太刀”――カエサル様となれば……」
「…“勝てない”…か?」
「…はい――そうですね。剣のみになると難しいかと思います。」
「正直に言ってくれてありがとうな。分かってる。カエサルの凄さは俺も知っている。でも、“勝てない”ことを理由に逃げるわけにもいかない」
「フフ…やはり、君は最初にあった頃から面白いと思っていた。“勝負”は明日から始めようか。それよりも、何故、“大貴族会”の招待状が必要なのか教えてくれないか」
俺はこれまでの冒険の顛末を、この件が起きた要因を、ティーチと一戦交えたことも全て話した。
「ハハ、君は本当におかしなやつだな。褒め言葉だよ、いい意味で頭がいかれている。巨人の足元に飛び出したときには、“狂人”だと思ったよ。」
「私もあの時はヒヤリとしました。さすがに死なれるとユウリ様が困りますので――」
「二人して何だ?? 人のことをイカれた奴みたいに言って――、てか、リネットは本当に一緒にいたんだよな。」
「ええ、常にユウリ様の近くにいましたよ。ですので、マコト様やゲンマ様のことを常に見ていたわけでありませんが」
「ふーん…、じゃあ、明日の“勝負”は真剣に頼むよ」
「ああ、言われなくてもそのつもりだ。“カエサル・グリス・ロクサーヌ”の威信をかけた試合だと思ってるよ」
翌朝、ロクサーヌ邸――大勢の騎士が取り囲む中で、その“勝負”は開始した。お互い練習用の木剣を持ち、向かい合って数分は剣戟を交わす。
――とは誰も思わなかっただろう。
始まりの声から、一息もせずに“勝負”は終わってしまった。
もし、相手がただの騎士ならば、勝負になったと言えるかもしれない。しかし、マコトが挑んだのは“風切りの太刀”――“カエサル・グリス・ロクサーヌ”。彼は“騎士最強”であった。
「立てるか?? すまない、あまりにも剣が機械的な動きをしていたため、早めに切らせてもらった。」
「…容赦ないな……、少しは希望を持たせてくれてもいいんじゃないか??」
「それではお互いのためにならないだろ? それとも、“手を抜いた”私に勝って手に入れたかったか? 約束通り、今日はここで終わりにしよう」
「……そうだな、甘い発言だったよ。今日はしまいだ。」
この“勝負”は一日一回との決まりだ。そうじゃなければ何度もがむしゃらに挑めばいいという考えに至ってしまう。それでは、真剣勝負では使えない。だから、カエサルは一日一回の縛りを作った。
また、昨日の夜にリネットから「2日以内にこの“勝負”を終わらせてください」と言われた、どうやら招待状を受理の期限がそこまでらしいのだ。
「私としても2日以内に君を勝たせたい――が、“勝たせる”のは騎士として義に反する。勝利とは己が力で勝ち取るものだ。なので、2日以内に君ではなく、君の剣を“勝てる”ようにさせよう」
「じゃあ約束通り、俺の剣を鍛えるんだよな」
「ああ、君ではなく、君の剣を鍛えよう。今の一太刀で、君の弱点は理解した。それを直そうじゃないか、幸い、ここには人も武器も場所も、鍛えるにはもってこいの環境だ」
そう言うと、周囲を取り囲んでいた大勢の騎士が木剣を持ち、集まってきた。
「君の肉体は既に仕上がっている。“一流”と言ってもいいだろう。しかし、君の剣の振り方は所謂“模造刀”だ。そこを鍛えたい。それで、君には今から我が家が誇る“ロクサーヌ騎士団”とひたすら打ち合ってもらう。余計なことは考えなくていい、ただ剣を受けろ、剣を打て。」
「それだけか? もっとアドバイスとかはないのか?」
「…君にアドバイスは不要だろ。……私が合図をすれば騎士たちが斬りかかる」
カエサルは騎士たちに「手加減はするな」や「君たちの修練である」などと声をかけ、演習場の縁に立った。
「では、始めようか」




