第31話『それも貴族なのだから』
31話ですか。
「“7貴族”じゃないというと、どういうことですか?」
「何も、“7貴族”じゃなくていいんだよ。“大貴族会”に来るのは、『貴族』なんだからよ。」
知り合いに『貴族』なんていたかなあ。冒険を思い返すと、いろんなヤツがいたが……。
「なんだ、お前ら『貴族』の知り合いはいねえのか? ほら、商人とかの『新興貴族』、最近はそっちの奴らも増えてきたぞ」
商人で、『新興貴族』……。
その時、一人、金にがめつくて、火薬商人として『新興貴族』になった奴の顔が思い浮かんだ。が、あれに借りを作るのは癪だ。
それに、「仕方ねえな!! 俺が手を貸してやるなら5万デフィーは要るぜ!!」みたいな声が想像できたので、頭の隅に放っておこう。
ザンロックか……。
「…いないな。知り合いの『新興貴族』は知らないな。」
「マコト様? 巨人退――」
「――そんな奴いたっけな!? 俺は知らないな。」
「そうか…。知り合いにはいないときたか。ゲンマはどうだ??」
「いないです」
即答である。
「他に“大貴族会”に来るのはどういう奴らだ?? 貴族だけの集まりなのか??」
「んあ、確か、毎年来てんのは、“7貴族”に貴族共、その辺の諸侯に、後は有力な騎士ぐらいだな。」
有力な騎士ときたか……。それならば――
「カエサ――、“ロクサーヌ家”は“大貴族会”に来るのか??」
「ああ、来るぞ。あそこは昔からの常連だな。諸侯やその辺の貴族になら口をきけるぐらいの力を持っている。が、そいつらと知り合いか??」
「ああ、巨人退治の時に共闘してな、知り合い以上の関係であるとは思っている。カエサルという若い騎士に貸しも借りもある仲になったからな。」
「カエサルか。“風切りの太刀”だったな。“ロクサーヌ家”の跡継ぎだ。もしも、“ロクサーヌ家”の力を借りれたとすれば、“大貴族会”の招待状はクリアできるかもしれないな。」
微かな希望がつながって、一筋の光が見えた。ユウリには届かない手が届くかもしれないのだ。
「…ならば、俺がカエサルに頼みに行くよ。直接、俺がやりたいことを正面から言うことにする。あいつは真っ直ぐな男だからな。」
「ならば、そっちは任せた。お前の口で騎士様を口説いてこい。俺はここで“大貴族会”の準備をしながら、ついでに、ゲンマを鍛えてやるよ。」
「えっ!? 僕ですか!? 完全に蚊帳の外でしたよね!!」
「当たり前だろ。最低限の力がなかったらやれることもやれないだろう。それに少しでも勝率を上げてやるって言ってんだよ。」
「じゃ、頑張れよゲンマ。」
「マコトさん!? マコトさーん!!! マコトさー」
マコトとリネットはそそくさと、ギルドを出た。ギルドの扉を開けると、昼の日差しが差し込んだ。そして、閉める。すると、ゲンマの悲壮な叫び声は扉で遮られてしまった。
「ん? リネットも付いてきてくれるのか?? それとも、監視の続きか?」
「…マコト様は“ロクサーヌ家”の場所を知っているのですか??」
「……そういえば…知らないな。案内を頼んでいいか?」
「かしこまりました。それでは、少しばかり歩きますのでついてきてください。」
そう言うと、リネットはツカツカと、足早に歩き始めた。
競歩のような早歩きで、脇目も振らず進んでいく。俺も若干、早歩きでついていくしかなかった。
「…リネットは“ロクサーヌ”家に訪ねたことがあるのか??」
「いえ、ございません。私のような、専属のメイドが主君のもとを離れ、そのような場所に行くことはありません。が、地理的な場所は存じておりますので、ご安心を。」
「そうか、さっきの話の続きだが、リネット。お前の立場は今どこにあるんだ??」
「と、言いますと?」
「責任の所在だ。今の行動の責任が、ティーチにあるのか、ユウリにあるのか、それとも――」
「――そういう意味ならば、私です。この行動も私個人の身勝手な行動に過ぎません。何か不思議なことでもありましたか??」
「いや、何でもない。そういうことならば、その善意を使わせてもらおう、と思ってな。俺とお前の共通の目標が“ユウリ”でいいんだな。」
「ええ、私の第1行動原理は“ユウリ”様ですから。」
「……俺の“権能”は“模倣”だ。対象に触れた後に、名前と権能名を詠唱もしくは黙唱することで、その“権能”を“模倣”することができる」
リネットはその場でピタリと足を止めた。更に、その作られた無表情が初めて崩れたようだ。
「…マコト様!? 今なんと??」
「俺の権能とその詳細だ。俺だけが知っているのは不公平だからな。それに、同じ目的で行動をともにするならば仲間だからな。“ロクサーヌ家”へ案内してくれるんだろ? 早く行こうぜ。」
「…はい、かしこまりました。」
その後、王都デフィーの外へ出て、広い高原へと出た。更に、そこから歩き、真上にあった太陽が、橙色になり、傾き始めた頃に“ロクサーヌ家”に着いたのだ。
純白の屋敷に、夕日のコントラストが一層に映えていた。
「着きました。ここが“ロクサーヌ家”です。…こんな時間に、やはり、王都を出る前に馬車を借りるべきでしたね。」
「そうだな。…思ったよりも遠かったな。」
「とにかく、マコト様、屋敷に入れてもらいましょう。」
「そうだな。あそこが正門か?? 取り敢えずは話を通さないとだな。」
一面、地平線まで続く何もない台地。その中央に城塞のように建っているのが"ロクサーヌ邸"だった。敵を隠す森も、奇襲を許す丘もない。ただ広大な平地だけが続いている。
「カエサル様に会いたい!? 許可以前に、我々は何も聞かされていない。何者か分からぬものを合わせるわけにもいかぬのだ。次からは身分証に取り次ぎ許可証を持ち歩くのだな。」
その“ロクサーヌ邸”の塀の隅っこに、二つの人影がポツンと突っ立っていた。
「そうだよな。普通は取り次ぎが必要だよな。物事を軽く考えすぎだな……。」
「…私が文の一つでも早馬で飛ばしておけば。……今日は宿のある場所まで戻るとしましょうか…。」
その時、カラカラと車輪の回る音が遠方から聞こえた。こんなにも広いので、遠くからでも来る者が目立ってしまうのだ。門番も先ほどよりもさらに姿勢を正し、何か自身よりも立場が上のものが戻ってきているようだった。
近づいてくるものの輪郭が徐々に明らかになるとともに、同様に、それもこちらを認識している。御者がこちらを見るなり、声を荒げながら、剣を抜いた。
「止まれ!! そこにいるのは何者だ!! もしや、賊徒や間者ではないだろうな。名を名乗れ!!」
馬をその場で留め、こちらに近づいてくる。その時だった。屋形の扉が開き、淡い緑の髪をした人物が降りてきたのだ。
「やめ、その者たちは賊徒や間者の類ではない。私の友人だ、手荒な真似はしないでくれ。…マコト、そこで何をしているのだ?」
「カエサル!! ちょうどよかった。お前に会いに来たんだ。」
「何?? …こんな場所で立ち話はなんだ。私の屋敷に招待しよう。何、取り次ぎなどは不要だ。客人を案内してくれ。私も後ほど客間に向かう。」
兵士のような風体をした人物が「かしこまりました」と答えると、俺たちをそのまま屋敷のなかに入れてくれた。
中には、甲冑や絵画など西洋風の豪邸と呼べるようなものだった。俺たちはそのまま2階にある客間に案内された。しばらくすると、カエサルが客間に入り、空いていた上座に「すまないな」と言いながら座った。
「それで、こんな遠くまで来てどうしたんだ? マコト」
「ああ、こっちも色々立て込んでいてな、単刀直入に言われてもらおう。“大貴族会の招待状を書いてほしい”」
「…なるほど、事情などは後ほど聞くとしよう。君のような人間は冗談半分や私欲ではそういうことは言わないだろう。――答えは“書こう”。だが、条件がある。それができれば、『貴族』である、“ロクサーヌ公爵家”の名を君のために使おうじゃないか。」




