第29話『賢いやり方』
29話です。
「なぁ、ギルド規則の説明用紙あるか?? 新人用のやつ、1枚くれよ」
マルコは受付のカウンターに前のめりになり、受付嬢に用紙を貰おうとしている。受付嬢は慣れた様子でため息をつきながら、分けられた紙束からまとめられた1枚をマルコに渡す。
「サンキューな。…えーと、確か引き抜き防止の条項がどっかに……」
「2枚目の裏のページですよ。ギルド長。」
「おう、そうそう。これだな。…覗くぐらいならこっちに来いよ」
マルコはこちらを見て、早く来いと手招きをしている。病室を出ると、ギルドホールのテーブルに腰掛けて待っていた。
「座れよ、病人。ギルド長が教えてやるからよ」
俺たちはテーブルを囲むように座り、中央に置かれた用紙を見る。
「ギルド規則なんてあったんだな。俺は聞かされてないぞ」
「嘘だろ?? ゲンマ!? お前は聞いたことあるよな」
「僕が聞いたのはだいぶ前ですよ…。ギルド登録したときに受付嬢の人に説明されましたし……」
「…俺のときは確か…受付嬢の人から任務の説明を受けるときに…マルコが割り込んだよな」
マルコは天井を見ながら、「あれ〜…そうだったっけな〜??」とうわ言のように言っている。
「最初の任務とかの諸々の説明を受けるときに、割り込んだよな。俺が説明したいって――」
「――あ〜!! 確かにそうだったな。すまんすまん。あの時は俺もユウリがパーティを組んだことが嬉しくてついな…」
「それでその条項ってのは何だ?」
マルコは紙を指でなぞりながら、その条文を探している。そして、「これだ」と言い、俺たちが読みやすいように向きを整えた。
その文には、“引き抜き及び追放”と書かれていた。
「冒険者ってのは単純に言えば、優秀な奴ほど出世する稼業だ。だから、金のあるやつ、権力のあるやつ、知識のあるやつ……優秀な冒険者を欲しがる連中はいくらでもいる。マコト、お前も引っ張りだこの人材だろうな。」
「しかし、それをできないようにする規則が存在する。それが――」
「――“パーティ引き抜き防止の規則”だ!!」
「“パーティ引き抜き防止の規則”?? なんですか!? それ??」
「お前は知ってるはずだろゲンマ。1回適応されてるわけだし…」
「はへ??」
ゲンマはマヌケな声を出して、こっちをちらりと見た。僕ってそんなに優秀でしたっけ??みたいな感じでこちらを見られても困る。俺もこれの詳細については何も知らないのだから。
「と言っても、お前のケースは今回のユウリのケースとは真逆だがな」
「というと――??」
「――パーティを抜ける際、もしくは抜けさせる際には越えなければならない障壁がある。それは過半数のパーティメンバーの同意だ。過半数のメンバーということは、お前らの場合はユウリを除いた2人が「いいよ」と言えば抜けれる、逆に2人が「抜けろ」と言えば問答無用で抜けさせられる。」
「…そういえば…僕って2つ目のパーティーですね…ここ」
「…お前の場合は方向音痴が祟って抜けさせられたんだろ?? このパーティに入るときにはソロの冒険者だったからな。この規則は追放制の方だがな…今回使うのは――」
そう。逆だ。
「――ゲンマの逆、つまりはユウリは俺たちの了承なしでパーティを抜けれない理由だよな」
「……そういうことだマコト。賢いやつは説明を省けるから楽だぜ。」
マルコは高笑いをしながら、俺を褒めてきた。上機嫌のマルコの後ろには受付嬢がすでに立っていた。それはえらくニコニコとしていた。
「そのギルド長の楽で冒険者たちが困るわけですよね。」
「だよな!! 気をつけるよ。お前らも他人に説明するときは面倒くさがんじゃねえぞ!!」
「お前が言うな」とその場にいる者が満場一致で思っただろうが、誰も声には出さなかった。
「ともかく、取り返し方は教えてやった。まだ、ユウリはお前らの仲間だ!! 力じゃ勝てねえのは当たり前だ。あいつは“軍神”ティーチ・パウンドだ。だがな、弱点はある」
「それは“7貴族”であること、“強い”こと、“ユウリが好き”なことだ。勝てない勝負をするよりも、勝てる勝負に持ち込むのが大切なんだよ。こっちの土俵でやってやろうぜ!!」
完全に俺達の間で士気が高まったのを感じた。力で勝てなければ知恵で、知恵で勝てなければ根性で、根性で勝てなければ勝てることを探せばいい。
「あのぅ…肝心のユウリさんは何処にいるんですか?? 取り返し方が分かっても、場所が分からなければ無理ですねよ…」
全員の視線がゲンマ、そして、マルコに向かった。この中で唯一“7貴族”と繋がりがあるのだ。この男なら――いや、悔しそうな顔をしてるからダメそうだ。
「そりゃあ……知ってるわねないな……。俺の管轄内なら分かるが、ティーチのことだ。抜け目なしに自分の領土に軟禁してるだろうな。」
「じゃあ、乗り込むしかないんですか?? 流石に3人じゃ無理ですよぉ!!」
「待て!! 3人に俺を入れてねえか!? さっきも言ったろ、「俺は仕事以外で出れない」って」
「じゃあ、まずはユウリの情報から――」
――後ろっ!?。気配がそこになかったかのように、まるで忍者のように現れた。本当にいつからいたのか分からない。
「マコト様ですね。お探ししていました。」
「…あんたは誰だ?? どうして俺の名前を?? どこかであったことがあったか??」
黒いフリルに純白の生地、ゴスロリ姿の人物だった。 女……いや、その声は中性的で、男とも女とも判別がつかない。
「いえ、初対面です。……こちらだけ名前を知っているのは不公平ですね。私の名はリネット。どうか、リネットとお呼びください。」
まるで忠誠を誓っている騎士のように膝をついた彼女もとい彼は俺の言葉を待っているかのようだった。
「あんた…いや、リネットはユウリの居場所を知ってるのか??」
長い沈黙の後に、彼女…だと断定しておこう。彼女は口を開いた。
「ええ……知っております。何を隠そう。私、リネット・フットマンはユウリ様、いえ、フットマン家はパウンド家に従える者なのですから…」
前作だと、終盤に入りかけでしたが、こっちはまだまだ続きますよ。




