第24話『パウンド』
第24話ですね。
ユウリへ
『お前も18度目の誕生日が来るだろう』
『大人の貴族になるための“貴族会”に出席してもらう』
『これはパウンド領主の俺だけではない、家族や皆んなの総意だ』
『いずれ、迎えをよこす、待っていてくれ――最愛の妹へ――』
ティーチ・パウンド
手紙の内容はごく普通で貴族の成人の催しがあることの連絡である。
それはユウリにとっては、死刑宣告のようなものであった。紙にしわができるほどに力が入っている。
「……」
「ええ!? もう“ロンド”から出るんですか!! まだ海鮮焼きそばしか楽しめてないのに!?」
「仕方ないだろ、ユウリが王都に今すぐに戻りたいと言ったからな」
クラーケン討伐後にゲンマも、一足先に彼も宿に戻ろうとしていたが、途中でクラーケンが竜槍にぶつかった際の轟音に気づいたまでは良かったが、後ろに振り向き、後ろで起きたと思ったのか逆走していった。
「クラーケン討伐祝いの宴会も今夜にあるんですよ!! ユウリさん、1日だけでも滞在しましょうよ」
「だめよ、今すぐに“ロンド”から脱出してギルドに戻らないといけない」
「なあ、ユウリ理由を教えてくれないか? ゲンマも何もなしでは納得してくれない」
この状況を解決するには、“ゲンマ”を納得させるよりも、マコトに理解させるほうが早いだろう。
ユウリは考えた末に、後者を選んだ。
「…お兄ちゃんが来るの、…領主の」
ユウリの深刻そうな声と顔は、この話の重要性を物語っていた。その雰囲気はマコトに本気だと思わせるほどだった。
「――7貴族絡みの話か……」
ユウリは静かに頷いた。
マコトは数秒考えた後に、口を開く。
「ゲンマ、今日は飲み込んでくれ。今すぐに王都に戻ろう。海鮮や食事はまた今度にしてくれないか?」
「マ、マコトさんまで…――そうですね。リーダーの決定には従いますよ。そのかわり、三人でまた食べに行きますよ、――“約束”です」
「いいわよ、約束する」
ゲンマは「やったー」と年相応ではない態度を取っていたが、この状況がすぐに収まったので喜ばせておこう。
その間に、旅立つ準備をしなくては、馬車の手配に、宿の支払い、それにミヤビさんにも声をかけなくてはならない。
「ええっ? もう出かけるの!? 宴会もあるし、褒章の授与とかもあるのに!?」
「すみません、お呼ばれしている催しに参加しないのは、不敬であることは承知しています。しかし、どうしても旅立たなければいけない理由ができてしまって……」
「……ユウリちゃん関係? この場にいないから…もしかしてと思って…」
マコトが口をつぐむのを見て、ミヤビは察する。
「やっぱり、そうなのね」
「俺も詳細はよく知らないのですが、ユウリがあそこまで言うには理由があるはずなので、そちらを優先しました」
「いいわよ、また今度来てくれた時にお食事も褒章も渡せばいいわ。二人によろしく伝えといて」
「はい。お世話になりました。また来ますね。」
「ええ、いってらっしゃい」
その後、宿の前で待機させていたゲンマを拾って、宿の代金を支払った。
すると、レイチェルが外から戻ってきたようだ。
「マコトちゃん、宿の代金を支払ってるっことはもう出かける感じ?」
「ああ、用事ができてな。今から王都まで戻るんだが、レイチェルも乗っていくか?」
「いいよいいよ、俺ちゃんはこの後も水質調査の補佐や地層の調査があるからね」
「そうか、世話になったな。嫌なやつだったが同時に尊敬できるやつだったよ。お前は」
「なになに? マコトちゃんってそういうこと言うタイプの人間だったの?」
「いや。普通は言わないからありがたく思えよな。」
「ふーん。まぁ、ありがたく受けとってあげるよ。じゃあね、マコトちゃんとゲンマくん。ユウリちゃんによろしくね。」
「ああ、じゃあなレイチェル。」
そうして、“ロンド”でやるべきことを済ませて、先に馬車の手配をしているユウリのところへと向かう。
「ユウリ、馬車は借りれたか? 俺たちはもう出発できるぞ」
「今、手配してもらってるところ。丁度、流通がもとに戻っていて、馬車が出払っているところが多いらしいのよ」
「それで、どれぐらい待つんだ?」
「すぐよすぐ。馬を休憩させているだけらしいから」
「――王都に戻って何するんですか?」
「“ロンド”に居ることがなぜかバレてる節があったからギルドに匿ってもらうのよ」
「誰にですか?」
「おい、ゲンマ、そんなツカツカと聞くなよ。てか、ゲンマは知らないのか?」
「何の話です?」
ゲンマは不思議そうな顔をして、マコトを見る。この男は賢いのかバカなのかよく分からない。
「…ユウリが7貴族だってことだよ」
――ヒュッ、マヌケな音がした。ゲンマの背筋がピンと伸び、ユウリを見た。
「ユウリさんって……あの、7貴族だったんですか……ちなみに……どこです?」
「…パウンド家よ…」
ユウリの名字を知り、さらに驚愕するゲンマは椅子から転げ落ちた。
「パウンド家って言ったら“軍神”と名高いティーチ・パウンドじゃないですか!? 噂に聞きますが凄いんですよ!!」
「そんなに有名なのか?」
「はい! 隣国との戦争のときは単騎で乗り込んで終結させた逸話は有名すぎて、その国で神格化されるレベルです」
「へえー…見たことは」
「ないですよ。こんな庶民が“7貴族”の領主に会うことなんて、この先200%ありえませんよ」
「いやいや、ダンカンさんとミヤビさんに会ってんだろ」
「あーそういえば…」
ユウリが立ち上がり、厩舎の人間との話が終わったようだ。こちらを見て、こいこいと手招きをしてそそくさと馬車に乗り込んだ。
よっぽど、早く王都に帰りたいのだろう。それほどまでにお兄さんは怖い人なのだろうか……。
いつも移動中、元気に話しているユウリが今日は静かだった。頬杖をつきながら、どこかとの思いにふけているようだった。
お兄さんが来ると聞いただけて、逃げるように“ロンド”を出た。
俺はユウリが何から逃げているのかを知らない……。
前から目立ちたくなかったことも、ギルドで匿うという話も気になる……。
聞くしかないか……
「……ユウリは、お兄さんが苦手なのか……?」
「驚いた……マコトってそういう時に聞いてくるんだ……」
「ごめん…。言いたくないなら話さなくても……」
「いいよ、話してあげる。4日後の私の――」
その時、馬車が急ブレーキをした。
徐々に速度を緩めて、路肩に寄せているようだ。誰かが道を通るので譲るかのように。
御者が声をかけてくる。
「すみません。外に出てくれませんか……? 不敬にならないようにしないと……」
「? 何が起きてるんですか…」
「いいから早くしてください。私の首が飛ぶかもしれないんですよ…!」
仕方なく、俺たちは馬車から降りた。そこまでしなくてはならない相手なのか?
王族やそういう類いの人間だろうか。
外に出て、その人を見てみると、ユウリの顔色が一変したのが分かった。
「何で……居場所がバレてるのよ…!?」
「元気そうだな、ユウリ。お兄ちゃんが迎えに来たよ……。さぁこっちに来なさい」
6月22日に以下の部分を訂正しました。
ユウリのセリフの「3日後の私の――」→「4日後の私の――」になりました。
褒章の話が出ましたが、この世界の褒章はとってーも凄いです。
現代で言えば、事前に爆破テロを解決したレベルじゃないと貰えません。
“桜ガ嶺”の時は事故として処理されたため褒章はなかったのですが、今回は根源から解決したので褒章ものですね。
これだけで、ギルドのランクが自動でワンランクアップします。




