第23話『従える者』
23話です。
第一部は次の章で終わりのつもりです。
1部は序章を含めた4つの章で構成されてます。
ゴウ・ダは狡猾な悪魔であった。クラーケンの幼体を用いて、“ロンド”を襲撃した。
自ら事件を起こし、強襲することも考えたが、クラーケンの幼体を使うことにより、自然災害を交えて、正体を透明化させることにより発見を今まで遅らせた。
その際に表立って行動している人物を記憶した。海底ダンジョンに赴かせたのも、どんなやつかを調べるためである。
誰が強いのか、誰が中心にいるのか、誰が従えているのか、どれだけの人数を従えるのか、支配するべき存在を――
自身の“権能”に圧倒的な自信があった。
権能“操縦管”は刺した対象の神経を占領し、身体の操作権を奪う。
刺さればどんな敵でも操作ができた、あの大きなクラーケンや、自身よりも強いあの老剣士でもだ。
失敗など彼にはなかった。それは自身を過信せずに、相手の情報を集めて、実行に移すからである。
今、この場で相手に与えることができる最大の最善手を実行してきた。
端的に言おう、彼の作戦は成功した。
最速で港から領主邸まで駆け抜け、天井に穴を空け、油断している者に向けて、管を伸ばす。
その管はミヤビ・エピタフの首に突き刺さった。
数十秒後には側近が集まり、あの愚かな剣士と老剣士が来たが、既に時は遅かった。
その時点で、肉体のコントロールはごう、だに渡り、今まではできなかった“権能”の操作まで行えたのだ。
「ミヤビ…、私の…娘が……」
老剣士は両手を地面につけて、己の無力さを呪っていた。
「ミヤビさんをよくも!!」
愚かな剣士は自身に向かってきたが、ぼくには勝てない、何故ならこの場で一番強いのは、この悪魔であり、領主である者だからだ。
領主が歌えば、たちまち、愚かな剣士は口から血を吐いた。何が起きたか分かっていないようだ。
続けて歌えば、その愚かな剣士も老剣士も周りにいる雑魚も全身から血を吹き出して、死んでいった。
この、領主を使って、次はもっと群れを率いるものを襲えばいいのだ。
どうやら、この領主の“権能”は歌に関するもののようだ。
“███”
この“権能”が何と言うのか記憶を見ても分からないが、使い勝手のいい“権能”だ。
ボクはたまらず笑い出してしまった。
悪魔として生きてから、こんなに笑ったのは初めてだろう。
「ボクが、この街で一番強い――」
「――本当にそうかしら?」
何だ? この領主が喋ったのか? いや、そんなわけはない。今もこうして、ボクの操作管が刺さっている。だから、動けるはずがない。
それに、ボクが負けるは――
「――随分と、自分に都合のいい理想を見ているのね」
また、こえが した、 おか しい、
ぼ、くの、けん のうか、ら――
「――だ〜から、この部屋に入った時点で、あなたは私の“権能”に、私の舞台のうえに立っていたの――私の詩はどうだったかしら? 今の曲は“理想の詩”よ」
「――な、に? ど、う――」
「あなたに喋る権利は与えていないし、私の喋りを邪魔する権利も与えていないわ」
ミヤビはいつもとは違う高圧的な態度で、ごう、だに近づく。
負けじとごう、だは不可視の操作管をミヤビの死角から放った。
「次の曲ね――」
だが、ミヤビが声を震わせた。
「聴いて…――“狂気的な調教師”――」
音はミヤビを中心に波のように広がっていく。そして、操作管に音が触れた。
すっり、すっりと操作管に切傷が入っていく、音の中央に近づくにつれて、傷は増え、そして細切れになった。
「私が“理想の詩”を聴いて、動けないあなたに攻撃しなかった理由は――攻撃できないではなく、――攻撃しなくてもいいからよ」
ごう、だはミヤビの話を聞くしかない。それ以外の行動ができなくなっていた。
「――私の権能“夢想の歌”は、私の詩や音をこの世の全ての現象に変換させる、その際に詩について教えるのが条件」
ごう、だは聴かないということもできない。この“権能”の突破方法はただ一つ、詩を聴かないことである。
しかし、耳、鼓膜、人間と酷似した生体を持つ悪魔にはその術にたどり着くまでにはいかなかった。
「もちろん、耳のない生物には効かない。クラーケンは聞く耳を持たないのよね。」
ごう、だに近づき、喉元に短刀を突き刺す。短刀にはリデフィー聖教会による聖痕が刻まれており、悪魔の動きを封じる効果が組み込まれている。
「でも、あなたは動けないし、喋れないのよ。この“権能”は範囲を自分で変えられないのよね。音が響く範囲で効果が発動する。だから、普段は私、“歌わない”のよね。」
「…聴いてくれてありがとう、久しぶりに歌えて楽しかったわ、鎮魂歌よ――“海底の墓標”――」
音はごう、だの身体内に響いた。
臓器、血中、骨に響いた音が海水に変換される。それにより、肺を始めとした臓器は水没し、血中の塩分濃度が上昇、骨の隙間に海水が満ちていく。
つまり、――溺死――である。
ごう、だの身体が――ぼしゃっと、落ちた水風船のような音を出して倒れた。
従える者として、上だったのはミヤビ・エピタフであった。
幕が下り、ミヤビは部屋という舞台から出ていく。
この歌姫はこの先も歌うことはないのだろう。歌うことが、“戦争”を呼ぶことを誰よりも知っているのだから。
――第一部2章『歌わない歌姫』――閉幕――
――時は遡り、クラーケン討伐後
ユウリは一足先に宿に戻っていた。何やら王都経由で書簡が届いたそうだ。
宛名はユウリ・パウンド
彼女の名前だ、ユウリは送り主の名前に驚愕したその名前は――
――ティーチ・パウンド
イカには耳がなくて、平衡胞とか言う器官で感じてるそうな。
でも、聴覚よりも視覚や触覚が発達している生物なので、詩は聴けないし効かない判断になりました。




