第18話『改めて』
18話ですが――。
――喰らえっ!!“大爆発(自爆の全体攻撃)”
エピタフ領の港町ロンドで起きている地震の正体が“クラーケンの幼体”であると突き止めたマコト一行はミヤビに言われ、早めの休憩を与えられた。
マコトは早々に宿の自室に戻り、改めてシャワーなどの用事を済まして、ベットに寝転んだ。
そして、静かに目を閉じる。
心の中で今日、ロンドに来てからのことを考える。
今日一日で何度死にかけたか。
ギルマン、クラーケン。
知識の少ない地震の調査、大した目的のない冒険。
このままで本当にあっているのだろうか。
これでは、死ぬ前と同じで…何も自分でやってないな…そう言えば俺は一度死んでいたな。
実感はないけど。
ユウリはミヤビさんの仕事を手伝ってから何かが変わったような気もする。
戦闘の際も動きが柔らかく、別人のようだった。
ゲンマも強力な魔法具を扱ってくれる頼れる仲間だ。手綱の握り方も分かったが。
本当に…疲れるな。
成り行きでパーティを組んで、成り行きでリーダーになって、成り行きで……
「……俺の人生って成り行きばっかだな……」
思い詰めて、思わず声が出た。
「あっ、マコトさん寝てたわけじゃないんですね……失礼しますね……」
ゲンマはそろりそろりと机に置いていた自分の金袋を持って、部屋を出た。
俺を起こさないように静かに動いてくれていたのだろうが、逆に気まずい感じになってしまったな。
明日になれば、クラーケンを狩るために街全体が動くのだろう。
宿に戻っている時も、街の人々がバタバタと動いていたな。
この街の人間は自分の街を守るという広大な“目的”がある。
俺はそれに便乗しているだけに過ぎない。
「それで、何が不満なのですか?アラキマコト」
頭の中で声が響く、鼓膜を直接揺らされているかのようだ。
この感覚も随分と久しいのか。
目を開いて、周囲に聞き耳を立てる。
まあ、頭の中での会話でいいか。
周りに聞かれて、頭がおかしいとは思われたくないからな。
「リデフィー……呼んでないが、何の用だ?」
「おや?冷たいのですね。
思い悩んでいる者には真摯に対応するのは“女神”として当然だと思ったのですが。」
「そうだな。すまなかった。俺が意地悪だったよ。それで不満って?…俺はそんな事を微塵も感じてないが…」
「いえ、頭の中を読めば分かります。
人間の概念や考え方は分かりませんが、あなたの知識を借りれば分かります。
あなたは、いわゆる、“空虚”というものでしょうか?
始めて会った際から心と頭の中の大半を占めている概念ですよ。」
“空虚”だと、そう言われるとそんなものなかと思うが……。
勝手に心や脳内を観られるのはムカッとする。
「……頭の中が読めるのか……」
「当然です。“女神”ですから」
「……気持ち悪いから、今度からはやめてくれ」
「…分かりました。便利ですが、仕方ありませんね。」
「それで、その根拠は何だ?俺が抱えている自身の問題は“目的の喪失”だ。」
「そう、きましたか。
…あなたは“目的”が欲しいのですね。
そして、様々なことをしているのに、“目的”が得られた気がしないと……」
「――」
「なぜなら、あなたは最初から選んでないのですから。
……いえ、正確には最低限の選択肢を周囲に与えられ、それを選んだ気持ちになっているだけですかね。」
「俺が選んでないだと…俺は今も選んで――」
「――では、改めて、アラキマコトという人間に対して言いましょうか。
あなたの人生を読んできましたが、あなたは親に、友達に、大人に、先生に、自分以外に言われて、勉強、スポーツ、習い事、集団行動、趣味、該当する何かをしてきましたね。」
「っ――」
「それがその“目的”の欠如ですよ。あなたは選択をしてきたつもりで生きてきました。
目的とは選んだものだけに得られるものです。
ですが、あなたは、経験値だけはあるが、それを使う先もこれからすることも無いのに――」
「――やめてくれ!!もういい……」
「……そうですか。それではこの話は終わりにしましょう。」
最悪だ。
自分の事をこんなカタチで知りたくなかった。自分の脳内で自分を客観視させられた。
クソッ、なんだよ、この気持ち悪さは――
そんな事、俺だって分かってるよ。生きている時に何をしたいかなんて誰にも分かるわけないだろ。
普通に生きていたら、したいことなんて大したことないだろ。
やってみたらと甘い言葉を言われたら、やってみるしかないだろ。
やってみたら、外から見た時よりも、大したことはないのが世界だろ。
それなのに、何で、
俺をそんな目で見るんだよ。
何で俺を止める。
俺を見る。
俺に聞く。
俺と話す。
俺を連れてく。
俺を戻す。
あ、そうか……。
俺には“自分”がないんだ。
あるのは自分以外の何かで、それを構成しているのは自分じゃない。
自分以外の人間が作ってきた何かなんだ。
俺は“アラキマコト”だ。
「……フヒッ――」
誰かが作ったような何もない人間のアラキマコトだ。
「――ハハッ――」
改めて、俺は“アラキマコト”以外にはなれないんだ。
「――フフフ……ハハッ…!アハハッ――!アッハッハ――」
その時、部屋の扉が外れると思うぐらいに勢いよく開いた。
「何よ!うるさいわね!!隣の部屋まで笑い声が聞こえているわよ!何がそんなにおもろしろいのよ!!」
「――ハハッ……」
振り向くと、そこには案の定ユウリが扉の前に立っていた。
「って、マコト、何で、泣いてるの?」
「…えっ…あっ、泣いてるのか?俺は…」
頬に触れると、ほのかに湿っていた。
下を見ると、視界が滲んで目から水がこぼれ落ちる。
シーツにじわっとシミが広がった。
「ちょっ、どうしたの!?どこか痛い?それとも変なものでも食べた!?待ってなさい!医者を――」
「待ってくれ……」
「何よ、我慢してるのなら、関係なしに行くわよ。」
「その……ユウリは家を出た時、自分で出ることを選んだのか……その“目的”を持って……」
「何よそれ……言わなくちゃだめ?」
「――」
ユウリは険しい顔をしながら、次の言葉が出るまでに長い時間を有した。
「……私が家を出たのは、私の選択でもある…けど、メイドのリネットと将来について話したから…かも…」
「――つまり、ユウリは一人で選択してないのか?」
「選択?もしかして、何かで悩んで泣いてたの!?」
「――」
「そうなのね……。
これがマコトの助けになるか分からないけど、言うだけ言ってみるわ。
いい、私は“自由”を夢見て、家から出た。けど、それは悩んだ私の背中を押してくれた人のおかげだと思うの。
リネットにマルコ、ギルドの皆んな。それにあなたも、私の背中を押して、歩かせてくれてる。」
「でも、俺はリーダーだし、皆んなの前にいないと…」
「一人で歩いている人間なんていないわ!。
私は一人の“目的”で生きてない。
私を形作っているのは、家とギルドとパーティメンバーだけよ。
あなたが選択に悩んだら、一緒に悩む。
目的を見失ったら一緒に見つけてあげる。
それが、パーティで仲間でしょ?」
ユウリの言葉に何かを動かされた気がした。
「――ふふっ…そうだよな。何悩んでたんだろな。俺……。
ありがとうな、ユウリ。
安心してくれ、俺はもう悩んでない。答えは見つけれたからな。」
「何よ、調子いいわね。どうせなら外に歩かない?街の様子を観たいの。」
「……いいなそれ。じゃあ、行こうか。」
立ち上がり、自分の金袋に手を伸ばす。
ん、 これって?
「すみませーーんっ!マコトさんの金袋を間違って持ってっちゃいました!!あれ!?ユウリさん何してるんですか?」
「げ、ゲンマ……今は来ない方がいいわよ…」
「えっ?なんですって?マコトさーん起きてます??
えっ?泣いてる!!ユウリさんがマコトさんを泣かせた!!」
「なんでそうなるのよ!!私が慰めてやったのよ!!」
「嘘だーっ!マコトさん!
辛かったら僕に言ってくださいよ!僕の方が“一応”年上なんですから!」
「――ハハッ…やっぱり、お前らはいいな。3人で行こうか。じっくりと散歩したい気分だ。」
「いいですね。それらしきことをしてなかったんで行きましょう!」
「あー……もう、いいわよ。3人で行くわよ。」
俺は小さな選択をして、部屋を出た。
危ねぇ、危うくバットエンドだぜ。




