第14話『海底ダンジョン』
14話です。
ダンジョン内ですることは絶対に真似しないでくださいよ。
調査三日目
俺たちは海底ダンジョンに面している砂浜で待機していた。
前日の推測により候補として挙がったのは海底ダンジョンと地下下水道である。
その調査を任されたのはマコト、ユウリ、ゲンマ、レイチェルの4名とミヤビが主導する捜索隊である。
マコトたちは海底ダンジョンの調査と確認。地下下水道は広く危険なためミヤビたちが赴く。
単独先行で地下下水道に迷い込んだゲンマはこっぴどく叱られていた。
「なあ、ここに海底ダンジョンがあるのか?」
「今は満潮だけど、あと1時間もすれば干潮になって潮が引いていくから入り口が見えるはずだよ。」
レイチェルも同行するのには理由があり、実際に地下30メートル下の何かを味見することで、何か分かるかもしれないからだ。
「ねえ、これ私たちもいる?」
「もちろんだ。俺とレイチェルだけでは戦闘力がでんで足りない。だからお前らパーティの力も借りたいんだ。」
「もう、しょうがないわね〜。」
「見せてあげますかっ!魔法使いの真髄をっ」
ゲンマは昨日から調子がいいが、ユウリは特に調子が良いように見えるいい傾向だ。ミヤビさんとの仕事で何か変わったのかな。
ミヤビさんたちの地下下水道調査隊も同様に下水道内の潮が引いてからの調査になっているため開始時刻は同じだ。
「お前ら、準備はいいな。これから俺たちもこの海底ダンジョンの調査に入る。事前情報では干潮時には水位が下がり、2層と3層の間までは歩けるようになるらしい。更にお前らにこれを渡しておく。」
マコトは剣の魔法具を全員に一振りずつ渡す。
「これは?」
「“マーキン”の魔法具だ。ないと思うが、もしも、単独行動をとってしまった場合のために持っておいてくれ。使っていいのは再使用ができる俺とゲンマだけだ。他の二人が迷子になっても本当の緊急時以外は絶対に使わないでくれ、2回目が使えなくなる。」
「魔法具ね〜。俺ちゃんは詳しくないけどマコトちゃんが言うなら持っておけばいいでしょ。」
「ゲンマ以外がダンジョン内で迷うことはないと思うけどね。一応持っておくわ。」
「じゃあ、行くぞ。4時間もすればまた潮が上がり始める。短期決戦で下層まで調査をしながら突き抜けるぞ。」
「「「了解」よ」です」
潮が引いていき、湿った砂を4人が踏みしめる。じゃりじゃりと水分を含んだ砂が音を立てる。
更に歩くと石畳でできた床になり、そこから下に行ける階段がある。ここが海底ダンジョンの入り口である。
「1層での注意点はあるか?ユウリ」
「えーとね、確かギルマンだっけ。魚人の出来損ないで魚人からも嫌われている奴が生息してるわ。」
「あいつらはエラ呼吸ではなく肺呼吸なので陸でも生息できますが、皮膚が乾燥に弱いため水場からは離れません。」
「そこの調査もしたいけど、ギルマンを倒すか避けるかの一長一短だね。」
「それはこちらで取捨選択していこう。雑魚相手に時間を取るわけにもいかないし、下層のものを味見したほうがいいだろうしな。じゃあ入るか。」
海底ダンジョン内は水が所々残っていてさっきまでは沈んでいたことがわかる。
更にその辺にはサンゴの死骸や食べかけの魚など潮の満ち引きに取り残された生物の後が残っていた。
水の反響音が遠くから聞こえたり、妙に温度が下がっているため緊張感が漂っている。
「寒いですね。厚着してくればよかったですよ。」
「どうせこのあとに俺たち二人は潜るだろ?そのためにこの水陸両用スーツみたいな防具を着てるんだろ。」
「私も泳げるけど、二人は酸素供給の魔法具を自分で破壊できるから再使用できるのよね。」
「そうなんですよ。タガモさんの新商品の“エアボン”は口に咥えるだけで詠唱をできるんですって!すごいですよね。」
「それで空気を供給できるの?本当に?」
「眉唾だが、タガモさんが作ったものなら信頼はできるだろ。」
「タガモさんね。王都に戻ったら調べてみようかな。」
そのまま、何も大したことは起きずに、たまに周囲の調査をし、一層を1時間弱で突破した。
2層は空気が変わり、壁の色や作りがかなり変わっていた。
まるで製作者の意匠が現れているようだった。1層よりも遥かに湿っぽく、生物の気配を明らかに感じられた。
「どうだ?レイチェル。この辺の石や水からは何か感じるか?」
口に水と砂利を入れている、レイチェルにマコトは問いかけた。
「ん~~……。ここら辺には特にそれらしきものはないけど……近くにギルマンがいるんじゃない?口の中に角質があるみたいだしさ。」
「なるほど、注意していこう。二人も常に、アタッ……」
後ろを見ながら歩いていたら、曲がり角で誰かにぶつかってコケた。
まったく、誰だ?俺の前にいるのは……
俺は視線を上に上げる。
そこには人形の生物がいた。皮膚は湿っていてふやけている。
足や手には水かきが備わっていることが分かる。
こいつは!
「やべ……」
「あ゛びどだ」
水中で会話をするためか、声帯が特殊で人の言語だが言語ではない感じがした。
「マコト!そいつギルマン!」
まじかよ!。こいつがギルマンか!出遅れたっていうか、反応して遅れた。しかも、こっちがコケてて不利な状況だ。どうする――?
「ユウリ!頼む!」
「言われなくても分かってるわよ!!」
ユウリのレイピアはギルマンの顔のギリギリで止まった。
レイピアの先端をどうやらつかんだようだ。
力は拮抗しており、剣先を掴んで離さない。ユウリも剣を抜くことができないようだ。
生臭い体臭が周囲に漂う。そして、滴る保湿液がレイピアを伝う。
「どんな動体視力してんだよ!」
俺は地面に手を触れて、心のなかで唱えた。
(権能解放“模倣” 対象 ダンカン・アーム 地歴武器)
そして、手の先にある地面を縦に伸ばした。
地形を伸ばしたものを武器と認識することで地形変化を武器として使いこなせっ!
「あ゛ ぐう゛っ」
猛スピードで伸びた地面はギルマンの顎に直撃した。
「よしっ!命中!!脳震盪で倒れろ!!」
「あ゛ぐゔぅ……ゆ゛る゛さ゛ん゛」
耐えんのかよ。今のはいい当たりだろ。そこは倒れとけよ――
「あ゛え゛ええ゛っ……」
――その時、こちらを睨んだギルマンの脳をユウリのレイピアが貫いたのだ。
ギルマンは目から血を流して、そのまま仰向けに倒れた。
倒れた際に生臭い体液が周りに飛び散り悪臭を漂わせた。
「大丈夫ですか!二人とも!お怪我は!」
「俺は大丈夫だ。少しコケただけだ。」
「私も平気。完全に無傷よ。」
「咄嗟の戦闘に参加できなくてすみませんね。詠唱やらで準備がかかって……ここは改善点ですね……」
「いいんだ。お前の武器はその魔法具だし、火力は俺たちの中では随一だろ。俺ら二人が前衛をやるから、魔法使いらしく後ろから援護射撃してくれよ。」
「はいっ!任せてくださいよ!どんな敵でも“剣土重雷”や“紙面楚火”でどんな敵もやっつけてみせますよ!」
「その意気で頼むよ。お前はこのパーティーで唯一のCランクだからな。」
「俺ちゃんはBランクだけどね。」
「あんたじゃない座ってろ。」
マコトにやんわりと怒られたレイチェルはしゅんとしている。
「とにかく、ギルマンの強さはわかったし、極力戦闘は避けよう。2体以上いた場合はこちらが必ず倒せる場合以外は避けたほうがいい。それに時間も少なくなってきた。調査の時間も兼ねて……あと30分以内に2層を突破しよう。」
その後、ギルマンとの戦闘が2度あったが、片方は奇襲で“剣土重雷”を当てて、戦闘不能にし、片方は俺が“地歴武器”の“模倣”で足止めをしたところをユウリがトドメを刺して、なんとか勝利したところだ。
「これで2層も終わりだな。次は3層だ。3層は特殊で降りたところに4層の入り口があるが、そこは常に浸水している。4層に入る前にここの調査と探索方法についておさらいをしておこう。」
ここで一度、装備を整え、水中での戦闘を行う前の下準備を行う。
「レイチェルはここで調査をしていてくれ。ユウリはその護衛。俺たち二人はできるだけ深く潜り、下にあるものをここに持ち寄る。それで行こう。」
「マコトさんは泳げるんですか?」
「水泳は昔、少しだけ……後はスキューバもやったことがあるから。その経験を活かせば何とかなるだろ。」
「へー……スキューバとかはよく知らないんですが、マコトさんの故郷のスポーツですか?」
「まあ……そんなところだな……水中のサインは覚えてるな。」
「はい!もうバッチリ昨日のうちに覚えさせられましたからね。」
「よしっ行くぞ!」
着衣だが水中での動きは悪くない。このスーツのおかげか、かなり動きやすい。“エアボン”も問題なく作動している。ゲンマの呼吸にも問題ないようだし、更に深くに潜ってみるか。
俺はゲンマに下に潜るサインを出した。
すると、ゲンマは後方注意のサインを出してきた。
後方注意?何かいるのか?
後ろを見ると、水中を猛スピードで泳ぐ物陰が来ている。
あれは……ギルマンだ。
水中での速度は陸の数倍だろう。両手両足についた水かきで水を押し出しながらこちらに接近している。
水中で戦うのは絶対に無理だ。
浮上するぞ!ゲンマ!
そのサインを出すと、ゲンマは浮上していく、俺もついで浮上する。
俺たちは大急ぎで潜った穴から3層に戻った。
「はぁはぁ……」
「おかえり、早かったわね。何かあったの?」
「ギルマンが……いた……。100%調査できない……」
「あれは……無理ですよ……」
幸い、ギルマンは俺たちを追いかけてこないようだ。水中に来た人間を必ず殺せるように待っているのだろうか……。
「そうだよね……。水中ではどんな達人でも魚人に勝てないってよく言うしね……。どうしようか?」
何個か案は思い浮かぶが、それを実行するにはいくつか問題がある……。だが、ここは背に腹は代えられない……。一度相談してみるか。
「俺の案があるんだが……いいか?」
「何だい?どんな案があるんだい?」
「倫理的にも……安全性的にもアウトな行動なんだが……海中に電気を流すのはどうだ?」
「……それのどこがいけないのよ。そもそも電気でどうにかなるの?」
「海水に電気はよく通るよ。マコトちゃんが危惧しているのは塩素系のガスだろうね。海水を電気分解した際には塩素系ガスが発生するからそれで中のギルマンを倒せても俺ちゃんたちの捜索が止まるからだろ?」
「へぇ~……やっぱ賢いんですね。」
「まるっきし分からないわ。」
「電気はゲンマの“剣土重雷”を使えば何とかなるが、塩素系ガスが発生したあとの処理方法が思いつかなくてな……」
「それならこれを使えばいいんじゃない?」
レイチェルは白い塊をマコトに差し出した。
「これは?」
「そこら辺に落ちてたサンゴや貝の死骸だね。これは石灰だからアルカリ性の性質を保持しているよ。」
「そうか……!。塩素系ガスで発生するのは酸性のガス。だから、アルカリ性の何かで中和するのか!」
「それに、安全性に関しては専門家の俺ちゃんがいるからマコトちゃんが危惧しているようなことは決して起きないよ。それにこの規模なら換気と中和で処理できるよ」
「よし……やってみようか。ゲンマとユウリはその穴からできるだけ離れてくれ。ゲンマ、“エアボン”の余りがもう一つだけあっただろ?それをレイチェルに渡してくれ。」
ゲンマはレイチェルに“エアボン”の魔法具を渡した。
「これを口にくわえればいいの?それだけ?」
「それだけでできていた。鼻を塞いでおこう。とりあえず粘膜を保護しておけばいいだろう。」
「そうだね。アルカリ性の棒を作るのはさっきの権能で?」
「そうだ。借りてもいいか?」
「いいよ。もう何個かは“味見”した後だし」
そう言いながら、マコトはレイチェルからサンゴや貝の死骸を受け取った。
そして、それを“地歴武器”で槍上の武器へと変形させて、中和棒に適した形へと変形させた。
また、余った石灰を粉状にした物も作っておいた。
「よし、始めるぞ。」
マコトは穴から“剣土重雷”の魔法具を6つ全て落とした。
そして、楔となる剣を海面に突き刺す。
「猛る雷鳴よ。楔は降り立った。その御身を見さらせ!――“剣土重雷”――」
電気が海中に浮かんでいる剣と剣を繋ぎながら周囲に細かい放電を起こしている。
海水がぶくぶくと空気を立てていて、塩素と水素に分かれていることが推測できる。
匂いがしてきた時点で毒ガスが漏れていることになるので、放電をした後に、“地歴武器”で周囲の地形を変形させて蓋をした。
そして、10分後。見るまでもなく中は全滅しているだろう。
「ユウリとゲンマは絶対に近づくなよ。俺とレイチェルで確認をするから。」
そう言いながら、潜水のためのゴーグルを目につけて、鼻に栓をした。
口には“エアボン”で完全に粘膜を防御した状態で蓋を解除する。
内部の圧力が変化し、空気が漏れ出す。
マコトはサンゴの槍を投げ落とし、更に石灰の粉を撒いた。
すると、石灰と塩素ガスの中和反応により海水が熱を持ち始めた。
ぶくぶくと温度が高まり、中和が進んでいることが目で見て分かるだろう。
「よし、もう外してもいいだろう。レイチェル大丈夫そうか?」
「全然、いいよ。中は全滅、海水も元の色に戻ったし、満潮になる前に下の調査に――」
その時、身覚えのある揺れを感じた。――ゴゴゴ――とつよい揺れが近くを通ったようにも感じる。
そして、それは3層と4層を繋ぐ穴から出てきたのだ。
長い脚が1本、2本、3本と穴から生えてくる。
脚というよりもそれは触手と呼んだほうがいいのだろうか。俺の知っている生物だとイカだ。
「これは……クラーケンですか!」
「大海の主 クラーケン!?船を沈めると噂のAランクモンスターがここに来るの!?」
「ユウリいけるか!」
「問題ないわよ!今の私はすこぶる調子がいいんだから!!」
「ハハッ……期待してるぞ!」
電気分解とかのあれは中学生の頃の理科の教科書の監修を受けています。




