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白と黒の特異点〜互いの家族を殺した2人が出会うまで〜  作者: 福岡へむ
第五章 革命の光
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59 計画(白)

ーー約20年前ーー


 東軍の基地内、中央塔の会議室ではとある人物たちによる会談が行われていた。


「2人とも、今日は集まってくれて感謝する。」


 丸いテーブルを囲んで座る2人に対して皇帝がそう告げた。


「いえ、私もちょうど近くにいたので寄っただけです。」


 そう答えたのは40歳近い風貌の男で、その立ち振る舞いには気品を感じられる。


「それで?()()()は…」


「すみません、昨日ベッドに入られましたので、今日はお休みになっております。代理として私が話を聞かせていただきます。」


 そう言って頭を下げるのは、美しいドレスを見に纏った神山雷葉だ。


「全くあの人は…だが、能天気な彼女より雷葉の方がよほどしっかりしている。彼女が起きたら今日の事を伝えておいてくれ。」


「かしこまりました、陛下。」


 そんな会話を部屋の隅で聞いている男がいた。その男の名はニールズ、彼はここ東軍の将軍として部屋の警備をしていた。


(陛下が態々こんなところにいらっしゃるとは…それに陛下とやけに親しげなこの2人は…)


「前置きはよろしい、早速本題を教えていただけますかな?」


 40代の男は手元のお茶を飲みながらそう告げた。その態度は皇帝と臣下という立場ではなく、おおよそ対等な立場であると思われた。


()()()()、たまには良いではないか。常に平常心を崩さず、ゆとりを持てと教えたのは貴殿ではないか。」


「そうでございましたね、昔の事で忘れておりました。」


「貴殿が忘れる事などあるはずもあるまい。しかし、暇ではないのは余も同じ。早速本題に入ろう。ジーガスよ、()()()が生まれてから今日で何年だ?」


「95年と7月…それが何か?」


 それに対してジーガスと呼ばれた男が即答した。


「分からぬか?あと5年で何が起きるのかを。」


「…まさか…次の『特異点』が!!」


 ジーガスは驚きの声を上げ、立ち上がった。、


「そうだ…あと5年で新たな『特異点』が産まれる。彼らを野放しにすれば…我らの命すら危うい。早急に対策を取らねばな。」


 それを聞いた瞬間、ニールズにも衝撃が走る。


(陛下の御命が!!どう言う事だ!?『特異点』とは一体!?)


「あら、『特異点』とは何ですか?初めて聞きましたわ。」


 ニールズの声が出る前に雷葉がそう質問する。


「雷葉は知らないのか。『特異点』とは100年に一度産まれてくる世界のバグだ。東西に1人ずつ誕生し、1人で世界を震撼させる力を有している可能性を持つ者たちの事を指す。」


「1人で世界を!?そんな人間がこの世に…はっ!まさか、お母様は!!」


「その通り。あの人は100年前の黒の『特異点』だ。あの人の異常さを見れば納得出来るだろう。」


「えぇ、確かに。お母様がその気になれば全世界の人間を皆殺しにする事も可能ですから。」


 その言葉にニールズは恐怖を覚える。


(何を言っている!?1人で世界中の人間を皆殺しに出来るだと!?そんな人間が今も生きているというのか!!しかも、そんなバケモノがもうすぐ産まれてくるとは!これは由々しき事態だ…)


「しかし、真に恐るべきは…()()()の様なタイプです。もし仮にあの方と同等の頭脳を待った人間が今現世に立てば、たちまち大陸を支配されてしまうでしょう。それだけは何としても防がなくては…」


「ああ、先ずはとにかく情報を集め、我らの味方に引き込まねばならん。東は慎吾に任せてある。西は我々で捜索すべきだろう。」


「そうですな、しかし最も可能性が高く重要なのは…」


「『灰の街』だな。」


 その言葉に雷葉は驚きを見せる。


「おや?それは一体どう言う事なのでしょうか?」


「簡単な話だ、『特異点』とは『灰人』の中から選ばれるのだ。『灰人』が無能力なのは『特異点』の力でバランスが取れている為だと一説には言われている。『灰の街』はそのために作られた拠点であり、全世界の『灰人』を集めている。5年後から入居してくる者達は全て高待遇で迎え入れ、将来への布石とせよ。金は帝国から出す。」


「かしこまりました、私の責任の元しっかりとやらせていただきます。」


「『特異点』の能力がハッキリするのは個人差がある。()()の様に生まれた時から特別な存在もいれば、成人してから覚醒するタイプもいる。注意深く観察してくれ。」


「かしこまりました。それでは諸々の調査を……」


「……」


 それより後の話は何も頭に入ってこなかった。ニールズはその後、自身の部屋で1人思案に耽る。


「ふぅ……」


(その『特異点』とやらを私が最初に見つけ出し、陛下に献上すれば陛下もお喜びになられるはず…そうすれば私は更に陛下に……いや、しかし陛下よりも先に見つける事が私に出来るだろうか…使えるリソース、行動範囲、そして何より『灰の街』に行かれれば私に介入する余地はない。ならばどうすべきか…『灰の街』をどうにか…それとも白と黒による性行為を禁止し、母数を減らして…いや、そんなことを大々的に行っては陛下の不況を買う。それだけは避けねばならん。うーむ…どうしたものか……)


「ん?」


 その時、ニールズは手元の資料に目がいく。その資料には数週間後に控えた極道との停戦協定の会談の事が書かれていた。


「ふんっ、前の将軍(お花畑ジジイ)が同意したという極道との会談か…確か前の将軍(あの男)は極道との間に子供がいたんだったな、本当に気持ち悪い趣味の男だ。いや、しかしそんな変態どもの子供から『特異点』が現れると言うのなら案外悪くない……はっ!!」


 その瞬間、ニールズに天啓が訪れる。


(そうだ!!態々他人を探さずとも私の手でその『特異点』とやらを生み出せばよいのだ!!1年で産まれる『灰人』の数などせいぜい100人前後、私自身が100人生み出せば、およそ二分の一の確率で私の手元に『特異点』は現れるはず!!行けるぞ!!これなら私は更に上へ!!)


 その日、ニールズの悪魔の計画が始まったのだ。


 ニールズが最初に向かったのは帝国の東軍に存在する捕虜や囚人の収容施設だった。ニールズを出迎えたのはその施設の看守長だった。


「お久しぶりでございます、将軍閣下。」


「看守長、少し話がある。誰にも聞かれない部屋へ案内しろ。」


「かしこまりました、コチラヘどうぞ。」


 2人はとある会議室に入った。そしてニールズは自身の計画について語りだす。


「実はな、囚人を使って交配実験をしたいと思っていてな。そうだな…出来れば死刑囚の男女、それもどちらかは東の人間にしてくれ。その2人に子供を孕ませ、その子供を詳しく調べるという実験をしたい。」


「はぁ…それはつまり『灰人』について解明する実験という事ですかな?」


「その通りだ。」


 それを聞いた看守長は顎に手を当てて困り果てた表情をした。


「…閣下、大変申し訳ありませんがそれは出来ません。」


「なぜだ?」


「はい、陛下より賜りしこの施設でのルールで、囚人たちを使った非人道的な実験を行う事が禁じられているのです。死刑囚といえど、交配実験といった人権を無視する様な行為は帝国法にも触れます。ですから…」


「そんな事は100も承知だ。だからこそこうやって直接頼みに来ているのだ。それに私は知っているのだぞ、貴様が東の人間を使って好き放題している事は。」


 それを聞いた看守長は冷汗を流す。


「いやぁ…やはり知られていましたか…閣下には敵いませんなぁ……ですが、私が遊んでいるのは東の女(おもちゃ)のみ、西の人間(帝国臣民)には老若男女問わず、一切の手出しをしていません。いくら死刑囚とて、西の人間(彼ら)は我々と同じく陛下の庇護を受ける存在。陛下の許可なく彼らをどうこうすることなど言語道断でございます。そしてそれは閣下と言えども同様でございます。東の人間ならともかく、西の人間を弄ぶ事に関しましては、私のプライドに賭けて阻止させていただきます。」


 看守長はそう言い放った。それを聞いてニールズはため息をつきながら諦めたような表情を示した。


「なるほどな、貴様の覚悟と誇りは伝わった。くだらん事を聞いて悪かったな。」


「いえいえ、私の我儘を聞いてくださり感謝いたします。…代わりと言っては何ですが…閣下も試しに()()()()をやってみませんか?ちょうど閣下に献上しようと上玉を用意していたのですよ。」


「いや、私はそんな事は…」


 看守長がそう言って携帯で合図すると、部屋の扉が開いて2人の看守と1人の女が入って来る。女は手足を拘束され、ボロ布一枚を羽織っているだけでかなり衰弱している様子だった。左右に控えた看守たちが女を乱暴に押した。


「うぅ!」


 バランスが取れず地面に倒れる女を無視して2人の看守は部屋を出て行った。


「閣下、今日のおもちゃはこの女です。この女は、東の港町に潜伏していた共和国(東に存在する国)のスパイです。既に死刑が確定しており、何をしても大丈夫でございます。」


「はぁはぁ…貴様らぁ……ぐっ!!」


 倒れながら2人を睨みつける女の頭を看守長が踏みつけた。


「閣下に対して何たる口の聞き方!!貴様、今ここで殺してやろうか!!」


「ぐぅっ!」


 苦痛の声を上げる女を見てニールズは看守長の肩を掴む。


「まぁ待て。そんなに強く踏んでは死んでしまうだろうが。」


「…閣下、申し訳ありません。」


 看守長はそう言って足を上げた。そしてニールズは倒れた女に近寄ってしゃがんだ。


「大丈夫ですか、お嬢さん。立てますか?」


 ニールズは優しい顔でそう告げた。


「…貴方は…」


「私はここで1番偉い人です。私が来たからにはもう安心です、さぁ立ってください。家族の元へ帰りましょう。」


「…そんな…スパイである私は死刑だって…」


「えぇ、ですが私の権力を持ってすれば貴女を解放する事など容易い。ささ、お早くここを脱出しましょう。早く家族に会いたいでしょう。」


「閣下!それはいけません!!この女のせいで何人の帝国臣民が死んだと!!」


「それはお互い様だろう。我々もこの方の大事な人を殺しているはずだ。それに、この私に逆らうのかね?」


「…うう……」


 看守長は苦虫を噛み潰した様な顔をした。それを見て女の顔に正気が戻る。


「…なんてお優しい…ありがとうございます!!ありがとうございます!!」


 女は涙を流しながら何度も頭を下げてニールズに感謝を告げた。ニールズも笑顔のまま女の肩に手を置いて答える。


「感謝なんて勿体無い、では行きましょう。貴女の()()()()()()まで、私が連れて行って差し上げます。」


「はい!本当にありがとうございます!!これで大切な家族にも会えます!!ありがとうございま……え?」


 そう言って頭を下げた女の腹には剣が突き刺さっていた。


「ゴフッ!!…な、何を…」


 女が血を吐きながら見つめる先には、剣を突き刺した張本人であるニールズがいた。


「束の間の幸せは楽しめましたか?私が陛下の敵である貴女の様なスパイ(ドブネズミ)を生かすわけないでしょうが。苦しみながら死になさい。」


 そう言ってニールズは剣を捻り、女に致命傷を与えた。


「ゴブッ!…そんな……わ…たし……おかあ…さん………」


 そのまま女は地面に倒れ、絶命した。それを見て看守長がニヤニヤ笑いながら近づいてくる。


「いやぁ、ヒヤヒヤしましたよ。まさか本当に逃してしまうのではないかとね。……閣下?」


 看守長がニールズの方を見ると、ニールズは見たこともない様な笑みを浮かべていた。


「はっはっは!!これは何と愉快な事か!!死を確信した人間に生の希望を甘え、それをぶち壊して更に地獄へ突き落とすこの快感!!あの最期の絶望した表情!!素晴らしい!!素晴らしいぞ!!はっはっは!!」


 先ほどまでのニールズとの変わり様に、看守長は若干引いていた。


「そ、それはようございました閣下。閣下を満足させられたようで、この女も本望でございましょう。よろしければ別の人間もご用意いたしますが?」


「良いことを考えたぞ、看守長!!帝国臣民(西の人間)を無理矢理使うのがダメなら、私自身が実験対象になれば良いのだ!!東の女を私が直接孕ませ、子供を産ませる!!その後、先ほどの様に始末する!!そうすれば私の計画は完璧に遂行できる!!はっはっは!!一石三鳥の計画ではないか!!なぁ!」


「なるほど、計画…とやらは詳しく知りませんが、閣下の望みが叶うのであれば私は是非とも協力させていただきます。」


「はっはっは!!」


 この日から本格的にニールズの計画が始まった。



 そうしてニールズは収容されていた東の女に接触し、無理矢理に子供を孕ませた。そして看守長の監視の元、子供を確保し、ニールズが回収する。そして、証拠隠滅の為に母親は始末する。これが一連の流れだった。この数年で既に10人以上の子供がニールズの元へと送られていた。


 女のレパートリーを増やすために、ニールズは約束していた極道との会談にて、極道たちの飲料に薬を盛り、その女極道を拘束し、監禁したりもした。しかしその女が子供を産んだ後のとある日に収容施設が襲撃を受け、その女が何者かに殺害され、子供も奪われるという事件があったが、ニールズにとっては実験サンプルの10数分の1が失われただけに過ぎず、特に感じる事は無かった。

 しかし、その襲撃で協力者であった看守長が死に、捕虜だった女たちを極道に奪われてしまった為、計画は中断せざるを得なかった。それに約束の100年はすでに過ぎており、これ以上の行為は無駄だと判断したニールズは、収容施設から回収した妊娠した女全てに子供を産ませ、始末した事で計画を完遂させたのだ。

 この悪魔の計画によって産まされた子供の数は24人、死亡した母親は22人であり、そのほとんどをニールズが直接手にかけていたという。



ーー数年後ーー


 ニールズは不快に感じていた。それは自身の手元にいる子供たちから目的の『特異点(対象)』らしき人物が一向に現れないからである。


「クソッ…これだけいてもダメだったのか…それともまだ分からないだけなのか…」


 そう呟くニールズの背後にはバルガムが立っていた。


「すみません、父上。我々が不甲斐ないばかりに…」


「全くその通りだ、皆ただの灰人(無能)ばかり。お前とナヴァナとマレンはまだそこそこ使えるが、他のヤツらは使えない雑魚ばかりだ。その癖に養うのには金がかかる、どうしたものか……いっそのこと全員始末してしまうか。」


 その言葉に焦ったバルガムは必死に説得する。


「ち、父上!!兄弟たちはまだ覚醒していないだけかもしれません!!いいえ、きっと『特異点』とやらに違いありません!!何しろ偉大なる父上の血を引く者たちですから!!」


「…まぁそうだな。可能性が少しでもあるうちは生かしておくか…しかしお前、やけに兄弟たちを庇うんだな。なぜそこまでする?」


「…俺はみんなの兄ですから。兄弟たちを守るのは当然ですよ。」


「そのくだらん価値観、誰に教わったのやら…まぁ好きにしろ。ナヴァナとマレン(お前たち3人)は少しは私の役に立っている。お前が使える内は兄弟の事はどうしようが自由にさせてやるし、金は出してやる。これからも私の役に立て。」


「…はい。俺が兄弟たちの分までやってみせますよ。」


 バルガムの決意などニールズには興味すらなかった。

次回 ドブカス死す デュエルスタンバイ!

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