57 無能(白)
第3回戦 リシェルvsマレン
リシェルとマレンが睨み合う。先に仕掛けたのはリシェルだ。懐の拳銃を抜き、マレンを撃つ。
キィイイイイーンンン!!!
「うぅ!!」
しかし撃つ直前、リシェルは再び頭が割れるような気分に襲われる。それにより銃弾の起動はズレ、地面に着弾する。
「早撃ちは貴女の専売特許じゃない。」
マレンも拳銃を抜き、速射する。リシェルも咄嗟に横へ回避するが、銃弾が左肩を掠めた。
「やっぱり貴女は弱い。早く諦めて投降して。そうすれば命だけは助けてあげる。」
「ふん、誰が投降なんかするもんですか。勝負はこれからよ、超音波女!!」
リシェルはそう言って閃光弾のピンを抜き、マレンに向かって投擲した。しかしマレンは顔色一つ変えない。
「無駄、それは私には効かない。」
そう言ってマレンは足元に転がる閃光弾に対して後ろを向いた。
「今よ!!」
その瞬間、リシェルは再び引き金を引く。実は閃光弾は偽物で、マレンの注意を逸らす為の物だった。
「それも無駄。」
リシェルの放った銃弾はマレンの心臓を正確に捉えていた。しかしマレンは後ろを向いたまま、身体を半身にし、ギリギリで銃弾を回避して見せたのだ。
「うそ!?…うぅ!!」
キィイイイン!!
再び頭を割るような音が響き渡る。リシェルは耳を抑えて膝をつく。
「貴女は弱い、でも油断ならない。だから、ずっとこうしておく。私の声は聞こえてないと思うけど、早めに降参する事を勧める。」
マレンの能力は【音】である。自身の身体から自在な音を放つ事で敵を攻撃したり、イルカやコウモリのようにエコーロケーションを行える。目で見えていなくとも、周囲の様子を把握できるのだ。先ほどの銃弾もそれによって回避していた。
「チッ!仕方ないわね!!」
リシェルは自分の服の袖を引きちぎった。そして形を軽く整えてから自身の耳へ突っ込んだのだ。
「う…まだだいぶ不快ね…でも軽減は出来たわ。これで戦える!」
「私と戦う人は皆んなそうする。でも、そんな物で私の攻撃を防げるとでも!」
ギィイイイン!!!
「うぅ!!」
マレンは再び超音波を発した。リシェルが耳を塞ごうと両手を使った。しかしマレンは超音波と共に自身も突っ込んでいた。反応が遅れたリシェルは簡単に懐を取られる。
「刺す。」
マレンが懐から取り出したのはナイフ程の大きさの細い針。それをリシェルの腹目掛けて差し込む。しかし、リシェルはギリギリでマレンの手を掴み取った。
「うぐっ!!はぁ!!」
針の攻撃は止めた、しかし耳から手を離した事でマレンの音波攻撃をモロに喰らう。服で少しは軽減出来ているが、この至近距離で喰らえば大ダメージは避けられない。頭が割れるような頭痛を受け続けるリシェルはマレンの手首を掴みながら膝をついた。
「うぅう!!!」
「このまま終わらせる。」
マレンは空いた左手をリシェルの方へ向け、能力の出力を上げる。
「うがぁああ!!」
リシェルは更なる不快感に発狂する。咄嗟に耳を塞ごうとマレンの手を離そうとするが、マレンは逆にリシェルの手を掴んでいた。
「離さない。このまま発狂しながら死んで。」
(頭が割れる!!このままじゃ意識が!!何か手は……はっ!!こうなったらアレをやるしか…)
「…ぐっ!!」
リシェルは奥歯に仕込んだスイッチを起動させる。その瞬間、リシェルのポケットから黒い球が落ちる。それを見たマレンは焦りの表情を浮かべる。
「これは、爆弾!!自爆特攻か!!」
マレンは距離を取ろうとバックステップを踏もうとするが、何かに止められる。
「はぁはぁ…逃がさないわよ…」
今度はリシェルがマレンの腕を掴んでいたのだ。
「舐めないでよ!!」
「なに!?カハッ!!」
マレンは合気道の要領でリシェルを地面に叩き付けた。リシェルはその衝撃で腕を離した。マレンは急いで逃げるが、ギリギリで間に合わない。
ドドオォーン!!!
2人の間で爆弾が起爆した。2人はその爆風で吹き飛ばされる。
「グゥ!!」
リシェルは5メートル近く吹き飛ばされ、壁に激突する。マレンも宙を舞い、地面に叩き付けられた。先ほどの爆弾は爆風に特化したタイプで破片は殆ど出ない。それにより至近距離の2人が死ぬことは無かったが、ダメージを受けた。
「イタタ…身体を庇った左腕はもうダメね…それに肋も数本…アッチは…」
膝をつくリシェルがマレンの方を見ると、マレンは既に立ち上がっていた。
「爆風とは即ち衝撃波。つまり逆からも同じ衝撃波をぶつければ相殺出来る。」
マレンは爆発の直後、全身から衝撃波を放って威力を軽減させていた。それによって少し飛ばされる程度ですみ、怪我は地面に落ちた時についた擦り傷程度だった。
「…全く…世の中不平等よね…私はまともに喰らって、相手は軽傷。本当に嫌になるわ。」
リシェルはそう言いながら立ち上がる。左腕は肘付近から明後日の方へ曲がっており、全身から少量の血が流れている。
キィイイイン!!
マレンの超音波が再び始まる。リシェルは耳を塞ごうとするが、左手が使えないためあまり効果はなかった。その時、マレンはマシンガンを取り出していた。
「死んで。」
マレンは満身創痍のリシェルへ向けてマシンガンを乱射した。
「くっ!!」
ドドドドガガガ!!!
放たれる銃弾に対してリシェルはサイドに全力で走りながら避ける。
「うぅ!!」
しかしその内の一発がリシェルの右足の太ももに当たる。リシェルは苦痛に顔を歪めるが、足を止めれば死ぬと、何とか建物の影に入り込む事に成功した。
「ぃっ!!…はぁはぁ…足をやられた…これは本格的にマズイわね…」
撃たれた足をキツく縛って止血し、座りながら状況を分析する。
(私は片手と片足をやられて相手はほぼ無傷。遠距離は圧倒的に不利だし、近距離でもまともには戦えない。どうやっても勝ち目はないみたいね…ここまでかしら…)
リシェルは諦めたように尻餅をつき、武器を地面に落とした。
(私にしては頑張った方かしら。ある程度時間も稼いだし…ヴァルス、皆んな、後は…)
そうして意識を手放そうとしたリシェルだが、際で踏みとどまる。
(後は任せる?誰に任せるっていうのよ。皆んな死ぬ気で戦っているの、なのに…何勝手に諦めてるのよ、私。こんな体たらくでヴァルスの隣に立てるとでも思っているの?ヴァルスはどれだけ死にかけても最後まで諦めなかった。なら私も最後まで!!)
その瞬間、リシェルの足元へ手榴弾が転がってきた。それを見てリシェルは物陰から飛び出した。
「うぉおお!!」
それを見てマレンも驚愕する。
「足を打たれてもまだ動ける…意味不明…」
ドォオオン!!
手榴弾は起爆したが、動き出していたリシェルは破片を少し背中に受ける程度で済んだ。逆にリシェルの勢いを背中から押す形となった。
ギィインンン!!
再びマレンの音波攻撃が放たれ、リシェルはバランスを崩す。しかしリシェルはニヤリと笑った。
「やってやるわよ!!見てなさい!!」
そしてリシェルは思い切り自分の耳へ手のひらを打ちつけた。
パァァアアン!!
パァァアン!!
「!?貴女、何を!?」
その突然の自傷行為にマレンも驚愕する。耳から血を流したリシェルはそれを無視するように話し始める。
「うへへ…これで音波攻撃は効かない。ここからが本番よ!!」
なんとリシェルは自分で自分の鼓膜を破壊したのだ。それにより音波攻撃を無理矢理に無力化した。
「なるほど…その手があったか…でもだから何?貴女は死にかけ、私はほぼ無傷、状況は何も変わらない。」
「何言ってるのか分からないけど、見下してるのだけは分かったわ。見てなさい、これからお姉ちゃん直伝の闘いを見せてあげる!!」
そう言ってリシェルはマレンへ突進する。マレンも迎撃すべくマシンガンを構える。しかしリシェルの懐から閃光弾が落ちる。
「クッ!!また!!」
マレンはその特性を即座に理解し、目を覆った。そして直ぐに閃光弾が起爆する。背中越しだったリシェルは光を受けず、鼓膜を失っているため音も影響が無い。対してマレンは強烈な光で視界を失っていた。
「やぁあ!!」
リシェルは小刀を抜き、マレンに斬りかかる。しかしマレンはエコーによってリシェルの動きを把握していたため、皮一枚で回避する。
「フゥ!!」
リシェルは口に含んでいた針を吹き放った。
「イタッ!!」
含み針はマレンの肩に命中する。マレンの使うエコーは音の反射を利用しているため、針の様な細い物は検知しにくい。その特性をつき、攻撃を命中させたのだ。
「この!!」
マレンは肩の針を抜いてリシェルに投擲する。しかしリシェルは簡単にかわし、再び小刀で横薙ぎを放つ。
「はぁっ!」
マレンはバックステップで回避する。しかしリシェルの口角が上がる。
「それはもう見たわ!!」
リシェルは振りながら小刀を手放して投げつけたのだ。
「うぅ!!」
それはマレンも想定外であり避けられない。咄嗟に腕でガードしたが、その腕に小刀が突き刺さる。
「ここよ!」
再び隙ができたマレンに対してリシェルは銃を取り出して速射した。
「ぐぅっ!!」
しかし平衡感覚のズレたリシェルの狙いは胸から足元へとズレ、マレンの太腿へ着弾する。
「これでおあいこね!!」
「いい加減にしろぉ!!」
キィイイイン!!!!
怒りの表情を見せるマレンが超音波を放つが、鼓膜が機能していないリシェルには効果がない。
「無駄よ!!」
リシェルは懐からナイフを抜き、再び斬りかかる。しかしマレンは何故か動かない。目を瞑り、集中力を高めている。それを隙と見たリシェルはマレンへ斬りかかった。
「とったわ!!」
リシェルのナイフはマレンの胸を捉えた。
ギィイイイン!
袈裟に切り下ろされた完璧な一刀だったが、リシェルは手応えに違和感を感じた。
「…まさか!鎖帷子!?」
切り裂かれたマレンの服の中から鎖帷子が姿を現した。それによってリシェルのナイフは途中で止まっていた。
「!?」
そしてナイフを持つリシェルの腕は既にマレンに掴まれており、リシェルの力では振り払うことが出来なかった。
「よくもやってくれた…でもこれで終わり!!」
怒りの表情を浮かべるマレンは掴んだ右手の能力を発動させる。
ブゥゥウウ!!!
その瞬間、マレンの手から激しい衝撃波がリシェルの体内へ送り込まれる。
「グゥウ!!」
マレンの衝撃波は音攻撃の応用技で、敵の全身を強く刺激し、強烈な痛みを与え、平衡感覚を奪う。遠距離では威力が分散して、大したダメージにはならないが、直接触れている場合に最大のダメージを発揮する。
「ぐぅあああ!!」
全身をシェイクされ、激痛に顔を歪めるリシェルは叫びながらも手を放させようと暴れ回る。しかし、マレンは離さないどころかリシェルに抱き付くようにして全身を密着させた。
「脳みそまでグチャグチャにしてあげる。」
「ぎぃいい!!」
それにより更に威力を増した衝撃波攻撃によってリシェルは更なる激痛を与えられる。
「これで終わり!!」
「ぐぁあああ!!!……ぁぁ……」
絶叫するリシェルは暴れて何とか抜け出そうとした。しかし、マレンを引き剥がす事が出来ず、遂にリシェルは全身の力が抜けてしまった。それを受けてマレンはリシェルを放し、地面に落とした。力なく地面に倒れるリシェルを見てマレンは落としていた銃を拾って構えた。
「無能力にしてはまぁまぁ強かった。それじゃ…さよなら……!?」
マレンがトドメを刺そうとしたその時、倒れたリシェルの腕が小さく動く。
「……ま…まだよ…まだ……私は!!」
リシェルは全身が震えながらもゆっくりと立ち上がった。その光景にマレンは驚愕する。
「うそ…あれで気絶しないなんて…どんな精神力…」
「はぁはぁ…お姉ちゃん特製の気付薬が役に立ったわね…」
そう告げるリシェルの足元には小さな巾着が落ちていた。その気付薬は強烈な臭いによって意識を無理矢理つなぐモノであり、倒れる直前に地面に落としており、ギリギリで意識を繋いでいた。しかしリシェルは完全な満身創痍であり、目は半開きで両腕は力無く、足はガクガクと震えていた。時折り倒れそうになっては膝をついて立ち上がるほどに深いダメージを負っていたのだ。
「なんで…何でそこまで頑張るの…貴女は弱いのに…選ばれた人間じゃないのに…」
「……はぁはぁ………」
マレンの声が聞こえていないリシェルはゆっくりとマレンへ近づいてくる。しかしその常軌を逸した精神力にマレンは恐怖を覚え、気圧されていた。
「こ…来ないで!!こっちへ来ないで!!」
マレンは咄嗟に銃を撃つが、リシェルは倒れるようにしてしゃがんで回避した。
「……はぁあああ!!!」
そしてその勢いのままリシェルは最後の全身全霊のパンチを放った。それは無防備だったマレンの顔面へ直撃した。
「ぐっ!!」
マレンは殴られた衝撃で、その場で地面に倒れる。それに続いてリシェルも覆い被さるように地面に倒れた。
「っ!?この!!離れろ!!…って、貴女…もう…」
「……」
マレンの腹の上に倒れるリシェルは既に気を失っていた。それを見たマレンは持っていた銃をリシェルのこめかみに突きつける。
「…はぁはぁ…これで終わ…………」
引鉄に指がかかるが、マレンは撃つことを躊躇した。そして小さく笑みを見せ、持っていた銃をその場に捨てた。
「……あそこまでの姿を見せられたらもう撃てない…この勝負は貴女の勝ち。」
無能力者でも、肉体の限界を越えて最後に一撃を加えたリシェルを見てマレンは自身の敗北を認めた。そして起き上がり、リシェルの頭を自身の膝の上に乗せる。
「…その強さ…私にも欲しかった…そうすればお姉ちゃんお兄ちゃんと逃げ出して……いつか私も…」
そうしてリシェルの頭を優しく撫でるマレンは空を見上げて呟いた。
マレン 18歳 帝国宰相「ニールズ」の娘であり、直属の護衛
自属性 音
様々な種類の音や衝撃波を全身から放つ事が出来る。
聴力はコウモリ並みで、エコーロケーションが使える。
西の人間(白)である宰相と東の人間(黒)である母親の間に生まれた、黒の少女。その性質上、父親を含めた西の人間達には忌み嫌われ続け、普段は目隠しに手錠をつけられるという奴隷のような生活を送っている。唯一の拠り所である兄妹たちを助ける為に父親に従っている。




