BA 氷(黒)
第二回戦 道草vsレムナ
「くぅ!!」
「…この辺でいいかな…」
かなり遠くまで飛ばされた道草は地面に転がる。そしてレムナもそれを見ながら剣を構える。
「ふぅ…やってくれましたね…こんなところまで連れて行かれるとは…」
「…安心して欲しい。ここに罠とかは無い。2人きりで戦いたかっただけ。」
「貴女を見ればそれは分かります。しかし…貴女は一体何者ですか?」
「…あれ?紹介してなかった?…私はレムナ・カミヤマ、『帝国十傑』の1人。」
その紹介を聞いても道草は平然としている。
「なるほど、やはりそうでしたか。しかし、貴女のそのカミヤマという名前、東側の人間のような名前ですな。」
「うん…私のお母さんは東の人間…白として生まれた私は西側ではこう名乗っている。」
「そうですか…貴女のお母上もさぞ悲しんでいる事でしょうな。自身の娘が敵として侵略してくるのですからな。」
「お母さんはもういない…それに今のお母様は戦争に興味が無い。だから、お母様を悲しませる事はない。安心して。」
「ふむ…複雑な家庭環境なのですな。しかし、残念ですが今の母上とやらは悲しませてしまう事になるでしょう。もうすぐ貴女は死ぬのですから。」
そう言って道草は両手を構えて殺気を爆発させる。
「お母様は私が死んでも悲しまない。それに死ぬのは貴方、ここで私に殺される。」
それに応えるようにレムナも殺気を爆発させた。
「いざ!!はぁあ!!」
先制攻撃を仕掛けたのは道草だ。地面に波動を込めて視界を覆い尽くす程の巨大な氷を生成し、レムナへ向かわせる。
「ん。」
レムナは自身の剣を無尽に振るって、それらの氷を一蹴した。
「この程度?…私の見当違い…!?」
追撃を加えようと砕いた氷の上を走り出したレムナだが、その足が止まる。
「既に舞台は完成していますぞ。」
レムナの足には氷がへばりついており、地面に縫い付けられるような形になっていた。レムナがこれに気付かなかったのは、道草の舞台の存在を失念していたからである。舞台を発動させるには地面に方陣を描いた後に地面に波動を込める必要がある。そのプロセスを見ていないレムナは舞台の発動を阻止すれば良いと思っていたわけだが、道草はレムナに蹴り飛ばされて地面を転がっている間に既に舞台を完成させていたのだ。
「…う…動かない…ふん。」
レムナは咄嗟に剣で自分の足の氷を切り付けて砕いた。しかし道草もその一瞬の隙を見逃さない。
「…あ…」
砕いた氷がそのすぐそこから新たに生成される。今度は足元だけでなく全身へ氷が伸びていく。
「…仕方ない…シュタッ!」
氷が全身へ這い上る中、レムナは咄嗟に来ていた鎧を脱ぎ捨てて脱出した。
「良い判断ですね、ですがそれは一度きりの回避手段、それに鎧も靴も失った貴女がこの氷地獄で戦えますかな?」
鎧を脱ぎ捨てたレムナは薄い服一枚で立っていた。更に固められたブーツも脱ぎ捨てた事で裸足だった。
「問題ない…少し肌寒いけど、良いハンデ。それに今度は油断しない。」
レムナがそう告げるとレムナの雰囲気が変わった。
「強がりも大概にした方が良いですぞ。この舞台の中では私が圧倒的に有利、貴方には何もさせません。」
道草がそう言って手をかざすと、レムナの元へ氷の礫が射出された。
「…ん。」
その瞬間、レムナが高速で腕を振ると、空中に浮いていた氷の礫が全て砕かれた。
「何!?」
道草はその一瞬の出来事に戦慄する。何故なら、レムナは一歩も動いていないのに10メートル近く遠くにある氷までも破壊したからだ。さらに驚愕すべき事に、レムナの手に握られていたはずの剣がどこにもなかったのだ。
「今のは一体…いやそれよりも…剣はどこに…」
「…ここ。見えるものなら見てみるといい。」
レムナはそう言って自身の右手を前に出した。しかし、どう見てもそこには何も握られておらず、レムナの手のひらだけが見えていた。それを受けて道草は一つの結論を出した。
「なるほど…貴女の能力は剣の透明化ですね?」
「…正解…それともう一つ…当てれるかな。」
レムナはその場で右手を道草に向けて適当に振った。レムナと道草の距離は10メートル以上あり、本来であれば剣での攻撃を受けるはずがない。しかし、道草の警戒心が彼の身体を突き動かした。
「うぉお!!」
道草は自身の左側に氷の壁を出現させる。そしてその瞬間、氷の壁に激しい亀裂が入る。しかし道草も波動をこめる事で氷の強度を上げる。それによってギリギリでその何かが道草の身体を貫くことは無かった。
「ふぅ…危なかった…」
「…見えてないのに良い勘だね…」
レムナはそう言って少し笑った。道草はレムナの姿を見てそのカラクリに気付く。
「なるほど…貴女の能力は、剣の【透明化】、それと【斬撃を飛ばす能力】…いえ、氷の亀裂と貴女の動きから考えて【剣を伸ばす能力】といったところでしょうか。」
「…へぇ…あの一回でそこまで分かるんだ…」
レムナがそう言って右手を前に出すと、その手の中に突然剣が現れる。しかもその剣の形状は鞭のようにしなっており、地面でとぐろを巻いていた。
「…私は器属性、能力は剣の【透明化】と【形状変化】。シンプルでしょ。」
「ええ、それ故に厄介。流石は『十傑』と言っておきましょうか。」
「貴方を殺して私は更に強くなる。」
「何故、そこまでして強さを求めるのですか?」
「…うーん…何となく?…楽しいから?…それ以外にやる事がないから、とかかな。あと、お母様やお姉様が褒めてくれるから。」
「なるほど、そうですか。まぁ互いに細かい事情はあれど、今は殺し合いの時間です。では続きを。」
「…行く!」
「はぁ!」
レムナは再び剣を透明化させて振った。それと同時に道草は粉状にした氷を周囲にばら撒いた。レムナの一撃は道草の周囲に配置された氷を悉く粉砕し、道草本人へ迫る。
「ふんっ!」
自身に迫る見えない剣を道草は回避した。そしてそれと同時に氷の礫を放つ。
「…しゅ…」
レムナは右腕を振り回してそれらを全て撃ち落とした。適当に振り回しているようで自身の剣の軌道が完璧に計算されたその剣捌きは圧巻だった。
「ふぅ…遠距離の撃ち合いは互角…これじゃあ決着が着かないか…やっぱり近接戦しかない…」
そう言ったレムナは獣のような前傾姿勢を取る。
「…はっ!」
そしてレムナは強烈な踏み込みで道草の元へと突っ込んだ。もちろん道草も迎撃する為に大量の氷を放った。しかしレムナはそれらを全て回避しながら道草の元へと走る。
「やりますね、ならこれはいかがですか!?」
道草が再び地面に波動を込めると、レムナの走る道が凍り始める。
「…シュシュシュ…」
しかしレムナは足を止める事は無かった。自身の足に氷が絡みつく前に高速で足を上げて止められることを回避した。裸足となったレムナは感覚が研ぎ澄まされ、それを可能としたのだ。
「むぅ!」
それによってレムナは道草と剣の間合いまで近づく事に成功した。
「…シュシュシュシュ…」
レムナは道草の周りを撹乱するように動き回った。そして背後に回り込んだ一瞬、透明化した右手の剣を強烈な速度で振り抜いた。
「くっ!!はぁあ!!」
道草はその強烈な殺気を感じとり、咄嗟に背後に氷の壁を作った。しかし、氷の壁ではレムナの剣は止まらない。壁が破壊され、透明な刃が道草へ迫る。
「うぉお!!」
しかし再び道草はギリギリでしゃがむ事で斬撃を回避した。
「…それはもう見た。」
その瞬間、レムナは道草の目の前にいた。道草がしゃがんで回避する事を予測し、距離を詰めていたのだ。
「…やぁ!」
レムナは凄まじい横蹴りを放つ。反応が遅れた道草はそれに反応できない。
「グハァ!」
側頭部をまともに蹴り抜かれ、横に吹き飛ばされる。しかしそれでもレムナの追撃は止まらない。
「これで終わり…」
地面を滑り転がる道草へ再び剣を振るう。しかし道草はそれを見ていた。
「それはやらせませんぞ!!」
地面を上手い具合に滑っていた道草はレムナに向かって氷の礫を放つ。
「…これは避けられない…」
攻撃体勢に入っていたレムナはそれを回避する事が出来ない。
ズサっズサっ!!
氷の礫はレムナの右耳を抉り、左腕に突き刺さる。しかしそれでもレムナの攻撃は止まらない。
「いた…でも貰った。」
「グゥッ!!」
レムナの放った斬撃は道草を正確に捉える。ギリギリで身体を捻った道草だが、少し間に合わなかった。
ボトッ!
頭部を庇った道草の左腕が、肘のところから切り落とされた。
「ぐぁああ!!」
激痛で声を上げる道草だが、すぐに冷静さを取り戻す。
「うがあぁ!!」
激しく出血する左腕を氷によって固める。それによって出血は止まり、意識を繋いだ。
「ハァ!…はぁはぁ…油断しました…」
そう言って息を切らしながらレムナを見つめる道草だが、レムナも無傷では無い。左腕には氷の刃が突き刺さり、右耳は抉り飛ばされ、足の裏は氷でズタズタになっている。
「よいしょ…少し浅かった…次は外さない。」
しかしレムナは表情1つ変えずに左腕の氷を抜いて投げ捨てた。
「はぁはぁ…随分と平気そうですね…痩せ我慢も大概にしては?」
「我慢なんかしてない…私は昔から痛みに強い…だから身体が動かなくなるまで戦える。…それじゃあ次、行く。」
レムナは再び右手を振るって道草を攻撃する。道草も横に避けて回避しながら氷で攻撃を仕掛けた。
レムナはそれらを容易に打ち壊しながら、そのまま二撃目を放つ。その攻撃は道草の首筋に正確に向かっていた。全てを理解した道草は目を閉じて集中状態に入る。
「とった。」
「はぁああ……はぁ!!」
スッ…
道草は文字通り首の皮一枚を斬らせて、高速で頭を振り、首を落とされるのを防いだ。
「っ!?…完全に斬ったと思ったのに…」
「田淵の兄貴直伝の回避術ですぞ!!はぁあ!!」
その瞬間、道草は両手を地面につき能力を発動させる。すると、レムナの周囲から大量の氷の礫が生成される。レムナは先ほどの勝利を確信した一撃により一瞬だけ足が止まり、既に両足を地面に凍らされていた。
「……足が動かない…」
「これで終わりですぞ!!はぁあ!!」
そうしてそれらの大量の氷がレムナを襲う。それらはレムナの全方位から迫り来る氷の礫であり、360°逃げ場は無い。
「ふぅ……はぁあ!!」
レムナは右手を強引に振り回す。鞭状にしなるレムナの剣は全方位の氷を次々と砕き、氷の破片が宙に舞う。
「まだまだぁ!!」
しかし道草も攻撃をやめない。自身の全力を出して更に全方位攻撃を強める。更にはその場に立ち尽くすレムナの足を凍らせて動きを鈍らせる。
「…シュゥ…」
レムナは集中状態に入り、更に全ての氷を迎撃し続けた。足は凍らされ、裸足である指先は壊死し始めている。左腕に空いた穴からは鮮血が舞い、耳を失って平衡感覚も鈍っている。それでもレムナは剣を振り続け、道草の攻撃を受け続けた。
「はぁはぁ…うぉおお!」
道草にとってこの攻撃は賭けだった。いくら道草とてこの攻撃は激しく波動を消費する。先ほどまで使わなかったのはそれを考慮してのことだ。全方位からの集中砲火、持続時間はおよそ2分間、これを耐え抜かれれば道草の波動は底をつき敗北は濃厚となる。
「ここで決めますぞ!!」
どちらが先に力尽きるか、チキンレースが始まった。
「…シュシュ‥」
始まって約1分、天秤が傾き始める。最初は全ての攻撃を受け切っていたレムナだが、ここに来て攻撃を喰らい始めた。足が全く使えないが故に背後を見る事が出来ず、後ろは耳だよりであるにも関わらず、先ほど右耳は失っている。更に道草の舞台内では気温が氷点下10℃を下回る。それにより運動能力の低下も起きており、既に殆ど壊死した足先だけでなく指先も紫になり始めてきている。それによって背後からの攻撃への対処が出来なくなってきているのだ。
グサッ!! ドン!!
背後からの氷の礫がレムナの背中に突き刺さり、砕かれた破片が後頭部にぶつかる。地面には血溜まりができ、凍傷によって指の末端は紫色に染まる。しかし、レムナは無表情のまま剣を振り続ける。
それを見て道草の顔にも焦りが浮かぶ。
(マズイ!!あと少しで波動が切れる!!速く決着をつけねば!!)
道草はここを勝負と読み切り、出力を上げた。気温は更に下がり、氷の礫の重さと速さが上がる。レムナの足元の氷は腰下まで侵食し、さらに動きを制限した。
「…シュシュシュ…」
それでもレムナは倒れない。全身に突き刺さる氷によって血を撒き散らしながらも剣を振り続けた。
そして数十秒後、ついにその時は来た。
「は!!」
地面を覆っていた舞台が解除され、気温が元に戻る。周囲を覆っていた氷が全て水へと変わり元の広場に戻る。遂に道草の波動が底をついたのだ。その瞬間、一切の躊躇なくレムナは道草の方向へ突進した。
「…ようやく終わった…貴方もこれで終わり!!」
地面に膝をつく道草の正面についたレムナはトドメを刺すべく剣を振り上げる。
「チィ!!」
道草はその上段からの攻撃を避ける為に右側へ身体をずらす事でレムナの攻撃をギリギリで回避した。
「なんてね。」
しかしレムナはここまで読み切っていた。トドメを刺すべく全力で放った一撃はフェイクだった。剣は直前で止まり、袈裟斬りに変わる。
「なに!?」
道草が避ける方向まで完全に予測していたレムナの袈裟斬りを体勢の悪い道草が回避する事は不可能だった。
「これで終わり。」
レムナの袈裟斬りが無慈悲に振り下ろされた。
ガギイィイン!!
「!?」
レムナは己の剣の手応えに驚愕した。何故ならそれは人間を切った感触ではなく、先程までと同様、氷を切った感覚だったからだ。
「はぁはぁ…私は結構器用でしてな、こんな事も出来ますぞ。」
レムナの剣が捉えたのは道草の切られた左腕から生えた氷の腕だった。
「まさか…波動を残して」
道草は最後に少しだけ波動を残していた。それによって左腕を複製し、攻撃を受け止めたのだ。また、道草の身体に直接触れている氷は特に高い強度を持つため、レムナの剣は腕の半分近くで止まった。
「捕まえましたぞ!!ふんっ!!」
「う!!」
氷に剣を絡め取られたレムナは道草に無理矢理引き寄せられる。
「これでも喰らうといいですぞ!!」
引き寄せられたレムナに対して、道草は思い切り頭突きをかました。あまりの勢いに、レムナの額が弾ける。
「……うぅ!」
そしてレムナが一瞬怯んだその瞬間、道草はレムナの首を掴む。
「これで終わりですぞ!!」
次の瞬間、道草は残ったすべての波動を使い、レムナの全身を凍らせる。
「…ぁ…ぅ…………」
レムナの全身は一瞬で凍りついた。最後に出鱈目な出力で凍らせたせいで、2メートル近い巨大な氷塊が出来てしまった。レムナはその中に閉じ込められた。
「………」
レムナの入った氷塊は少しだけ動いたかと思ったが、しばらくしたら一切動かなくなった。
「はぁはぁ…」
道草は透明な中にいるレムナの様子を確認する。
「…殺すのはやりすぎましたかな…いいえ、ここで彼女を生かせば仲間たちに被害が出た可能性もあります。」
レムナは既に死んでいた。中では酸素などもちろん存在せず、急激に体温が下がった事で絶命したのだ。
バタッ!!
それを確認して安心した道草も地面に倒れる。
「…か…勝ちましたが、何とも不様な…これでは女神にも顔向け出来ませんぞ…」
敵襲を警戒して自身を氷で覆い、目を瞑る。
「女神、南、伊東殿、百合殿、皆んな…ご武運を。」
道草はその場で意識を手放して眠ってしまった。
道草の勝利
レムナは死んでますが、道草は死んでいません。




