AZ 拳(黒)
第一戦 シュリスvs南
「まぁこの辺でいいだろう。」
「そうだな。」
シュリスと南は周りに何も無い広場で向かい合った。
「さて…話す事も特にねぇし、早速やるか?」
「…分かった。なら行くぞ!!」
そして南はシュリスへ突進した。南が最初に放ったのはシンプルな右ストレート。南が最も自信のある自然な一撃だった。
「おらぁ!!」
「いいねぇ!!若いの!!」
それに応えるようにシュリスも左腕を振り上げて渾身のストレートを放った。
ガキィイイ!!
2つの拳が激しくぶつかり、金属音にも近い音を響かせる。
「ふん!軽いな!」
「ぐぅ!!」
ぶつかった2人の拳は片方が弾き飛ばされる。押し負けたのは南だ。右腕ごと身体も弾き飛ばされた南は3メートルほど吹き飛んだ。
「へぇ…今のでそんだけしか飛ばねぇのか…それにダメージもかなり薄い。お前、ディフェンス型だな?」
「イッテテ…何てパワーだ…。そう言うアンタはパワー型だろ?」
「ああ、その通りだ。にしても残念だったな、お前じゃ俺に勝てねぇよ。」
「何だと?」
「力属性には相性関係がある。
パワー型はディフェンス型の防御を貫いてダメージを与えられるから有利、
ディフェンス型はスピード型の攻撃を殆ど喰らわないから有利、
スピード型はパワー型の攻撃が当たらないから有利。
まぁ有名な話だが、俺とお前にも当てはまる。更に言えば地力でも俺が上、相性でも実力でもお前に勝ち目はないって事だ。」
それを聞いて南は自分の拳を見つめる。激しくぶつかった拳には鈍い痛みが残り、皮も少しめくれて血が出ていた。
「…確かに、まともに打ち合ったら俺が競り負けるだろう。だが、姉貴にああ言った手前、簡単に負けるわけにはいかないんだよ!!」
南はそう言って再びシュリスへ突っ込む。しかし今度は相手の攻撃を見るために攻撃を仕掛けない。
「なるほどな。」
(隻腕であるシュリスが使える腕は左腕だけ、攻撃パターンは絞られる。左腕の攻撃さえ読み切ればカウンターを取れる。パワー型の防御力は高くない、ならば俺の攻撃は十分に通用するはず!さぁ、来い!!)
南はシュリスの左腕に注視する。しかし、それを見たシュリスは不敵に笑う。
「ならこれはどうだ。」
シュリスは左腕を真上に上げた。南は咄嗟に横に回避する。
「ごぅ!!」
しかし、南が回避した直後にシュリスの右足が跳ね上がった。それは回避終わりの南の脇腹を正確に捉え、南はまたもや吹き飛ばされる。
「やっぱ甘いな、左腕だけに集中しすぎると…っ!」
シュリスは自身の右足に痛みを感じる。そして、それをよく見ると右足に六角が突き刺さっていた。
「前言撤回だ…ちゃんと考えてたようだな。」
シュリスは顔色ひとつ変えずに六角を抜いた。
「くっ!…肋が数本折れたな…このままじゃ…」
飛ばされた南は蹴られた脇腹を抑えながら立ち上がる。防御力に定評のある南だが、攻撃に特化したシュリスの蹴りをまともに喰らえばダメージは避けられない。
「肋数本で済んでる時点でマシだ、力属性じゃ無いヤツなら肺まで潰れてる。」
「はぁはぁ…やはり格上…どうにか策を巡らせないと…」
次の瞬間、シュリスが南に向かって飛び出した。呼応するように南も迎撃体制を取る。
「今度はコッチの番だ!!うぉらあ!!」
シュリスは走ってきた勢いのまま、上段から拳を振り上げた。
(この一撃を受けるのはマズい!!一度回避してカウンターを!)
「はっ!」
南はシュリスの拳をバックステップによって回避した。
「それは読んでるぜ!!」
シュリスは回避された左手の拳をそのまま地面に叩きつけた。すると、地面のアスファルトが激しく砕け散って煙が舞う。
「チッ!目眩しか!!」
南は煙から離れる為に更に後ろに下がる。しかしその瞬間、煙の中から細い物体が飛んでくる。高速で向かって来るその物体に南は反応が遅れる。
「グゥッ!!」
その物体は南の脇腹に突き刺さった。南は咄嗟に確認すると、それは先ほどシュリスに突き刺していた六角だった。
「お返しだ。貰っとけ。」
煙の中からシュリスが歩いてくる。
「ふん!」
南は痛みを我慢しながら六角を抜く。しかし、刺さっていた脇腹からは血が流れる。
「うーん…筋は悪くないんだがな。流石に経験不足過ぎるな、俺たち力属性の戦いには環境を利用するのは必須だぞ。」
「…はぁはぁ…アンタは俺の教師かよ。環境なんて卑怯な事せずに正々堂々とかかって来いよ。」
「悪いな、俺はお前ら極道ほどの高尚な思想は持ってねぇ。これが俺たちの正々堂々なんだよ!!」
次の瞬間、再びシュリスが南に突進する。
「ほいっ。」
シュリスは走りながら左手を軽く振った。
「なに!?」
シュリスの手の中からは砕けたアスファルトの小さな破片が大量握られていた。それを接敵する直前に南の顔面に向けて投げつけたのだ。飛び道具を全く予想していなかった南はそれらを腕で顔を守った。
「クッ!!」
「顔抑えてたら腹がガラ空きだぜ!!」
「チィ!!」
南は目を閉じ、顔に波動を込めて守った上で腕をクロスさせて腹をガードした。しかし、それを読んでいたシュリスはニヤリと笑う。
「正直者は早死にするぜ。おらぁ!」
シュリスは振り上げた拳を振る事無く、左足を跳ね上げた。目を閉じた南にはそれが見えておらず、シュリスの左足がまともに入る。
「あぅっ!!」
左足が当たったのは南の金的だった。不様な声を出した南はあまりの衝撃に地面を転がる。
「ぐぁあ!!」
尋常では無い痛みが全身をめぐる。大声を出し、地面を転がらざるを得ないほどの衝撃だった。
「うわ、痛そ。」
シュリスは他人事のようにそれを眺めていた。
「ぐぅうう!!」
「おらよ!!」
悶え続ける南だったが、痺れを切らしたシュリスは転がる南を思い切り蹴り飛ばした。
「グハァ!!」
背中を強く蹴られ、10メートル近く遠くまで蹴り飛ばされ、壁に激突した南はそのまま地面に倒れる。
「はぁはぁ…グゥ!!」
何とかして立ち上がろうとするが、激しい痛みによって腕に力が入らない。
「まだ生きてんのか…流石にタフなんだな。それで?そろそろ降参するか?今降参するなら特別にこのまま生かしてやってもいいぜ。」
「はぁはぁ…誰が…」
「よく考えろよ、お前が降参しないのならこのままお前が気絶するまで殴り続ける。そしてお前を人質にして、さっきのヤツらの所まで連れて行く。そうすればアイツらも終わりだな。」
それを聞いた南の目に再び火が灯る。
「グゥ!!俺はまだ…負けてねぇぞ!!アンタをここでぶっ倒せば全部解決だろうが!!」
そうして南はボロボロの身体を無理矢理起き上がらせた。それを見てシュリスも口角を上げる。
「いい気合いだ!若いの!お前の名前を教えてくれ!!」
「俺は南純平だ!!」
「俺はシュリス・メルデン!!気に入ったぞ純平!!死ぬまで殴り合おう!!行くぞ!!」
そうして息を合わせたように2人は同時に飛び出した。そして、拳と拳がぶつかり合う。
「うぉおお!!」
「はぁああ!!」
拮抗しているように見えるが、やはりシュリスの方がやや押している。片手しか無いものの足技を多用するシュリスの変則的な動きに南が対応できていないのだ。南の攻撃は全ていなされ、シュリスの攻撃は南を少しずつ削る。このままいけば確実に南が負けるという状況だった。
(このまま殴り合っても勝てない!!やはり最後はあれしか!!)
「そこだ!」
ダメージによって一瞬怯んだ南の隙を逃さなかったシュリスは南の顔面を思い切り打ち抜いた。
「ゴフッ!」
あまりにも鮮やかな一撃で、南も頬を腫らしながら吐血する。そして、よろよろと後ろに下がって膝をついた。
「お前は良くやった!これで終わりだ!!」
シュリスは膝をつく南へ再び拳を高く振り上げた。
「…今だ!喰らえ!!」
シュリスの拳が南の顔面を捉える瞬間、南は能力を発動させる。それは完璧なタイミングで使う事で敵の攻撃を反射する能力だ。
「なにぃ!!ゴフッ!!」
シュリスは顔面に自分の攻撃を喰らって吹き飛ばされた。そのあまりの威力にシュリスは地面に倒れる。そして南はそれを逃さない。
「うぉおお!!」
倒れたシュリスへ追撃を加えようと拳を振り上げた。
「…舐めるなぁ!」
その瞬間、倒れて白目を剥いていたシュリスが急に叫んだ。そして倒れたまま、回し蹴りの要領で南の脇腹を蹴り抜いた。
「ぐぅぅ!!」
それは先ほども蹴られた場所であり、折れた肋が内臓へダメージを与える。南は激しく吐血し、一瞬怯んだ。
「おらぁ!!」
その隙を逃さないシュリスは再び一回転して回し蹴りを放つ。
「うぅ!」
南は咄嗟に腕を入れて脇腹を守る。しかし、その威力は十分で、南は横方向に弾き飛ばされる。
「ぺっ!!まさか隠し玉があったとはな!!驚いたぜ!!」
シュリスはそう言って南を見る。南は満身創痍で膝に手をつき、今にも倒れそうだった。
「お前は良くやったよ。だが、これで本当に終わりだ!!」
立ち上がったシュリスは左の拳を南へと放った。
「今だぁ!!」
南は再び完璧なタイミングで能力を発動させようとした。
「それはもう見たんだよぉ!!」
先ほどの攻撃、南の顔面に当たったはずのダメージが自分へ跳ね返された。あの時、シュリスは最後の手加減として南を殺さないように少しだけセーブして殴っていたのだ。それによって意識を繋いだシュリスは今度は目一杯に力を抜いて攻撃を放った。南が土壇場で再び反射を使うと予測して。
ぽすっ。
「残念だったな。仕組みさえ分っちまえばどうと言う事も…っ!?」
その瞬間、シュリスは戦慄した。軽く当てたはずの自信の拳の感触が全く来なかったからだ。手を抜いたとは言え、少しの感触はあるはずだったが、それが全く無かった。
「まさかテメェ!!能力を使ってないのか!」
「うぉおお!!」
南はシュリスがまともに攻撃して来ないことに賭けて能力を使わなかった。それどころか、防御に関して一切の能力を解いており、最後の一撃に全てを集中させていた。
(クソッ!コイツ、俺が手を抜く事に全振りしやがった!!俺がもし全力で殴っていたら顔ごと爆散しかねないっていうのに!!ヤベェ!!この攻撃は避けられねぇ!!)
南のカウンターの拳が、体勢の悪いシュリスの顔面に迫る。
「チィ!!クソッがぁ!!」
ドガッ!!!!
南の渾身の一撃がシュリスの顎を打ち抜いた。
「グハァ!!……」
シュリスは顎を打ち抜かれ、よろよろと後退りした後、地面に倒れた。
そして南は再び吐血しながら地面に膝をついた。
「カハッ!…はぁはぁ…」
痛みで立ち上がれない南は膝をついたままシュリスの方を見た。
「………」
シュリスは先ほどの顎への一撃で意識を失っており、地面に大の字に倒れていた。
「はぁはぁ…やった…のか…」
南は這いずりながらシュリスへ近づき、意識を確認した。
「気絶してる…はぁはぁ…勝った…勝ったぞ!!うぉおおお!!」
シュリスに勝利した南の咆哮が響き渡った。
南の辛勝
シュリスが両腕なら確実に負けてました。
ただの殴り合いを文字で書くの難しいですね。




