第三十六話 深淵の探求者 その2
ほんのちょっとだけ消した1文が第32話にありますが、特に影響はありません。
あと色々と誤字、誤表記を修正しました。
およそ5時間の拘束時間。
そこで行われた深淵の一助とやらは、要するに取り調べだった。とは言っても、そんな物騒なものでもなく、彼——ディップことディプース・シンエーンがよく知らない、又は全く知らない、僕達が持つ情報を研究のために伝えていっただけだった。
グレッドさんによるとこんなでも情報の漏洩などは絶対にしない信頼のおける友人だ、とのことなので、思い切って一切合切を打ち明けておいた。流石に前世の知りうること全部とかは不可能なので先に断っておいたけど。
「ふぃぃ、疲れたぁ。」
「キュイィ…」「……。」
結構な間観察された上、意思疎通がある程度可能とあり、色々質問攻めに遭ってしまったホーリィとイレルフも気が滅入っているようだ。
「興味深いお話でした!特に、死霊魔法についての勘違いを正せたことが特に有益だったと思います!」
「うむ、役立ったならば何よりだ。」
「ディップの熱量に追いついていくとは、クレレはすごいな…。」
一方、疲れ果てている自分達やグレッドさんとは対照的に、クレレさんは尊敬の眼差しをディップさんに向けている。
言っている通り、どうやら死霊魔法に対する勘違い、それもかなり大きなものがあったらしい。
具体的に言うと、まず、無限の軍隊はほぼ作れないとのことだ。死霊魔法での不死者の生成とは、そもそも死者との契約のようなものであるらしい。
死者側が力を貸してもいいと思えば、術師側が彼らの力を借りる、つまりは配下にすることができる。
そして、思考誘導というのも、詐欺まがいのことをするのではなく、怒りや恨みで狂いきった不死者をなだめるのに使うらしい。自分的にはそれが一番助かるから良い報告である。
あとは、あまり知られてはいないが、普通不死者にも、人よりかなり弱いとはいえ意志があるらしい。まあ基本的に生者を恨んでいて襲ってくるので、倒すことが推奨されるようだ。…襲ってこなかったら意思疎通を図ってみるかな。
死霊術師は、死者、不死者との意思疎通や、彼らの成仏も手伝えるそうだ。僧侶や呪術師のような感じなのだろうか?
では、勘違いの原因となった話は一体何だったのか?という話だが…
「お、やっと出てきたね。」
「お疲れ様でした、アーティさん。」
「お土産、ある。」
「アンタらが拘束されてる間に、アタイらが肉やら野菜やら買ってきたんだよ。」
「おお、気が利くじゃねぇか!」
「ほう、では、我が家の庭を使うと良い。調理器具も提供しようぞ。」
どうやら今夜はバーベキューらしい。
「!!??なんだこれ!めっちゃうめえ!」
「ハーブや塩とも違うけど、すごく美味しいね!」
「コメ、これ、すごく良い。肉と、このタレに合う…!」
「うむ!アーティから話は聞いていたが、やはり体験するのが一番だな!常識を完全に外れておるわ。」
なんやかんやで男四人衆ががっついてるのは、我が国が誇る「焼肉のタレ」をつけた肉と、チャシュさんが言っている通り、米である。肉、野菜は『紅蓮』が買ってきてくれたのを、バーベキューグリルはディップさんが用意してくれたのを用いました。
「こんな盛大に故障をふって肉を焼けることがあるとはね…。」
「このタレ、お野菜にも合うんですね!」
「ほんと、アーティさんはすごいですねぇ。」
「うむ、これでこそご主人というものなのですよ!」
「いやいや、すごいのは大元のタレを作った企業様だよ。」
口ではこう言っているが、僕のスキルで皆を喜ばせられているのは嬉しいことだね。
しかし、今重要なのは「焼肉のタレ」でも米でもないのだ。
「ディップさん、例の件、『紅蓮』の皆さんにも説明していただけますか?」
「例の件?」「?」
「ああ、承った。では、皆の衆。死霊魔法とは何か説明できるかね?」
「死霊魔法?そりゃあれだろ?」
「死体、操る?」
「不死者の軍隊を作り出す、などでしょうか?」
「アタイ的には、恐ろしいことができる魔法、という認識だね。」
「なるほど、世間一般に言われるものとは相違ないな。しかし!間違いである!」
「えっ!?」「違うのですか?」
「死霊魔法というのは、死者との交信を図る魔法である。例えば話を聞いたり、助力を願うことが可能なのだ。不死者の使役というのも、死者側との合意が取れたときの契約のようなものなのだよ。」
「では、クレレが言っていた、低位のものなら使役でき、思考誘導ができるという話は?」
「事実できたのですが、どうやらそれは私が吟遊屍人であり、グレッドさんの主だから、というのが大きかったようです。思考誘導は、そもそも暴走を鎮めるのに多少役立つ、というもののようですよ。」
「なるほどな、納得だよ。」
「まだ話は終わっておらんぞ。お主ら、勘違いをしておったろう?しかし、それには根拠がなにかしらあるはずであるな?」
「確かに…。」「アタイたちも人から聞いたことだからねえ。」
「その根拠とは、もう一つの魔法にあるのだ__
__その魔法の名は『古代死霊魔法』
__使用できる者がほとんどいない、遥か昔に使用を禁じられた危険な魔法
__すなわち、禁術である。




