地上組、新たな戦いー2
上空よりきらきらと日の光を反射する錐が振りおろされ、地面が紙のようにぶすぶすと穴を開けられ、蜂の巣を呈していく。
リズミカルに、しかし規則性のない読めない動きで、両手両足計二十本の錐の指の雨が降る。時折鋭い針の髪の固まりも降り注ぐ。
剣闘士は最初こそは、足をぎこちなく動かして攻撃を避けていたが、すぐにタイミングでも掴んだらしい。見事な足さばきで逃げながらも、迫り来る攻撃を大剣で受け流し始めていた。
針が豪雨のように降ってくる――それをひと振りりでなぐ。
錐のような指が剣闘士の肉体を穴だらけにしようと飛来する――それを返す勢いで弾く。
かきん、かんかんと金属と金属が弾きあう甲高い音が剣闘士の耳に届く。
同時に、相手側の込められた力が、弾きあうごとに大剣を通じて剣闘士に伝わる。
その力は、剣闘士が大剣を危うく落としかけるほどに強い痺れを、剣闘士に確かにダメージとして与えて、そして蓄積していく。
ニンゲンの中では確かに最高戦力に数えられる剣闘士ではあるが、いまはただただ未知の相手を前に苦戦していた。
相手の攻撃に慣れ、攻撃を受け流すことはできても、次に繋がる行動が――反撃の体勢に移れない。
剣闘士が必死に攻撃を受け流している間、狩人はピネットと次元の違う戦いを繰り広げていた。
目で追えきれぬ速度で、狩人は両手にもつ果物ナイフでピネットのすべての攻撃を受け流し、さらに隙あれば果物ナイフを投擲し、瞬時にまたどこからか果物ナイフを手にして再び受け流し、隙あれば――それをひたすら繰り返していた。
しかも、立ち位置を変えながら戦う剣闘士は正反対に、立っている場所を全く動かずにいたのだ。
ピネットがどれだけ鋭い一撃を放とうとも、地面とともに突き抜こうと全力をもってしても、狩人は微動だにしないのだ。
その戦いは、剣闘士が見れば「勉強になる!」とばかりに手に汗握って食い入ること間違いない、レベルの高いものだった。
ただ、今は気を失うエのつく世界の扉を全開にした盗賊が見ていたとしたら、きっと……きっと……、……いや必ず、手に汗握って幸福の世界へ旅立って、「俺っち最高です!」とか呟きながら恍惚としながら気を失ったことだろう。
まあ、とにかく。そんな高度な戦いを繰り広げているというに、狩人はいつも通りににこにこと腹黒く笑みを浮かべ、対するピネットは無表情を崩さずに淡々としていた。
「おやおや、そんなに飛ばしたら禿げますよ」
狩人は盗賊が聞いたら悦に入りそうな毒舌を吐いた。その笑みはだんだんと深く、黒くなっていく。
けれどもピネットは表情を固定したままぴくりとも反応しない。ただ攻撃を繰り出すだけだ。
「つれませんねぇ」
狩人はさらっとからかいの混じる冗談を吐いたが、やはりピネットはさらっと無視。その無視っぷりは盗賊が歓喜の雄叫びをあげそうな無視っぷりだった。
ピネットは、攻撃を繰り出せども繰り出せども受け流されて避けられて、逆にその合間に合間に攻撃を繰り出してくる狩人に、少しずつ驚嘆を覚え始めていた。
ピネットは強い。ピネットと戦えば、同じモンスター族であろうが魔物であろうが、戦って数分ももたない輩ばかりだった。それはニンゲンもしかり、だった。
たまに数分もったとしても、それはピネットの攻撃を受け流すばかりに終始し、結局はスタミナ切れ等で油断し、ピネットの刃の前に倒れ伏す。
ちょうど今対戦しているニンゲンのうちひとりがその例だ。おそらくあと数分もしないうちにスタミナ切れするだろう。
そのスタミナ切れするかしないかの輩が現れることは珍しいというに、今回それはニンゲンだった。ニンゲンは弱いから、そのことじたい輪をかけて珍しい。
……なのに、この中年のニンゲンはどうだ。
全く微動だにしないし、どれだけ強く攻撃をしても軽く受け流すうえに反撃さえしてくるのだ。
ピネットは、己が主と仰ぐエウアーラ・ユリディークと、ミノタウロス族の族長ゲオルダンデウス以外のものには一度も負けたことがない。
ニンゲンにいたっては、一度も負けたことがないし、今まで戦った中でもニンゲンで一番強かったのは先代の魔女王であるし、そもそも先代の魔女王は規格外だ。そして、先代の魔女王より他のものは数分のみ、受け流すだけに終わった。
ピネットは今、中年の規格外しか眼中になかった。もうひとりのニンゲンはそのへんを飛ぶ煩わしい虫のようだった。適当に相手をしていれば、勝手に自滅するだろうと、そう高を括っていた。
「……ぴーちゃん、油断は禁物なんだけどねぇ?」
彼らの戦いを水面越しに観戦していたエウアーラ・ユリディークは、予想外の戦いに高揚しながらも、ピネットの様子に溜め息を吐いていた。




