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地上組、新たな戦い―1


「さぁ……来たようですよ」


 狩人は笑みを浮かべた。微笑んだ、という笑みではなかった。好戦的な笑みで、見た相手を挑発する――嘲笑だった。

 狩人と剣闘士ふたりを大きな影が覆い隠す。

 剣闘士は無意識に構えながら上空を見上げた。純粋な対魔物戦でいうならば――規格外の魔女や神官、狩人を除いて――ニンゲンの中ではわりと上位にランクインする剣闘士は、影の持ち主を視界に入れて絶句した。

 剣闘士は職種的に、たくさんの種類の魔物を見てきた。大小も様々であったし、見た目も様々であった。しかし、それはあくまでも「魔物」であることに彼は気づいていない。

 ニンゲンは、誤解している。ニンゲンの多くは、魔物とモンスター族をごっちゃにし、「人外」というひとつの枠に無理やり突っ込んでいるだけだ。

 その誤解から、昔にはニンゲンとモンスター族間で大きな争いが生じた。先代魔女王である魔女が、夫より同族を選んだあの戦いである。

 モンスター族は、魔物を使役する。タリーアがアステリアのダンジョン内に放したり、エウアーラ・ユリディークが自宅の庭でもある死の島内に放したりするのがその例だ。

 もとより、ニンゲンがたくさん発生させる負の感情から生まれる魔物を監視し、支配下において暴れないように見張る、それがモンスター族の役割だ。

 今ニンゲン二名を覆う影の持ち主はモンスター族、魔物を監視する側である。もっといえば、エウアーラ・ユリディークが支配下に置く魔物たちを、エウアーラ・ユリディークの留守中に監視する役目を担うのが、影の持ち主の役目だ。

 影の持ち主は、代理である雇われ主の護衛もこなしつつ、いま魔物の監視以外にあらたに別の仕事を増やされて、とにかく頭に来ていた。


「でかい……!」


 剣闘士は、影の持ち主の大きさと迫力に、危うく腰を抜かしかけていた。

 対し狩人はより深い笑みを浮かべている。だんだんさらに深くなる。


「あんたたちか、不法侵入は」


 影の持ち主は剣闘士の反応をさらりと無視し、狩人の挑発もさらりと無視し、淡々と答えた。


「ほう、“空翔る乙女”ですか!」


 狩人もまた、さらりと影の持ち主の発言を無視した。見事な狸っぷりである。

 剣闘士ただ一人が、影の持ち主の正体に、背に流れる冷や汗をひっそりと感じていた。

 ――空翔る乙女。それは大きな大きな金属の七枚の刃の羽を背から生やした、別名刃を背負う乙女と呼ばれる存在だ。

 ただ、乙女といって連想する見た目では決してない。

 シルエットはニンゲンの若い年齢の娘、つまり乙女。けれど――


「……どうやって剣を交えたら……」


 小さくも剃刀のように鋭い刃が鱗状に並ぶ肌を持ち、鳥のような鍵爪の足に、鎌のようなものが手首からはえ、五本の指はまるで錐。髪は決して風になびかない針で、まるでたわしのような頭部は針を飛ばして攻撃するのだという。

 大きな鎖でできたワンピースを着込んだだけの、全長五メートルの全身武器のモンスターであった。

 誰が乙女と呼び始めたんだ、と剣闘士は心中で顔も知らぬ誰かを罵った。心の底から純粋に初めて罵ったかもしれない。記念すべき剣闘士の初・罵り相手はすべてが不明の相手だった。この年齢まで罵り経験が無いとは、なんとも――絶滅危惧種的なピュアメンである。


「許可なき侵入者は、排除あるのみ」


 空翔る乙女は、全身全ての刃先矛先剣先をニンゲンの侵入者二名(身を捩って倒れている変態は除く)に向けた。



 ――ぴーちゃん(ピネット)vs狩人、剣闘士の戦いの幕があがった。



 ちなみに死の島内で、エウアーラ・ユリディークを除いた魔物・モンスターひっくるめて一番強いのはぴーちゃんである。規格外、X、SS、Sのランク(魔物・モンスター共通)の規格外ランクのぴーちゃんに、果たして同じく(いろんな意味で)規格外の狩人と、(いろんな意味で)普通の剣闘士は勝てるのか。


「あはは、面白いねぇ!」


 ――その答えは、神と呼ばれるエウアーラ・ユリディークさえ知らない。


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