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ホームセンターへの買い出しにいこう



『えー、皆さん。たくさんのスパチャ、本当にありがとうございます!合計で五万円……いや、これ本当に貰っていいんですか!?ブラック企業時代の俺の手取りの四分の一ですよ!?』


S級ダンジョンの奥深くで、高坂紬はスマホの画面に向かって深々と頭を下げていた。 投げ銭というシステムを初めて体験した高坂は、画面の向こうの視聴者たちの優しさに本気で感動していた。


『せっかく頂いた大切なお金です。これは有意義に使わせてもらいます!さっき屋根の材料を探すって言いましたけど、やっぱり素人が変な石を積むと崩れて危ないですからね。麓のホームセンターで、ちゃんとしたトタン板と木材用の防腐剤を買ってこようと思います!』


高坂の宣言に、コメント欄は【えらい】【実用性重視で草】【お気をつけてー】と温かい言葉で溢れた。


『玲奈さんたち、ちょっと買い出しに行ってくるんで、ポチと一緒に留守番お願いしていいですか?お昼ご馳走になったし、ついでに皆さんの分の差し入れも買ってきますから』


高坂が振り返ると、丸太(※数千億円相当のS級素材)の上に正座していた氷室玲奈たち三人のS級攻略者は、弾かれたように立ち上がった。


「なっ……主(マスター)が自ら下界へ赴かれるなど!ここは我々が……っ!」


『いやいや、俺の車(軽バン)じゃないとトタン板とか積めないんで。すぐ戻りますから、ゆっくり休んでてくださいね』


そう言って、高坂は愛用の激安軽バンに乗り込み、エンジンをふかした。 氷室たちは車の排気ガスすら神聖なお香のように胸いっぱいに吸い込み、「御武運を……!」と涙ながらに見送っている。


◆ ◆ ◆


一方、その頃のインターネット上では、高坂の配信に対する「ある疑惑」が急速に広まり始めていた。


最初は『クオリティの異常に高いCG配信』や『コスプレイヤーのコント番組』として面白がられていたこのチャンネルだが、特定班と呼ばれるネットユーザーたちの検証により、風向きが変わりつつあったのだ。


【おい、背景の山の稜線、ガチで西多摩の第4区画じゃねーか?】


【さっきニュースでやってたぞ。JSAが西多摩一帯を「前例のない超緊急事態」として半径十キロ圏内を完全封鎖したらしい】


【え、じゃあこの配信……ガチの封鎖エリアの中からやってんの!?】


【嘘だろwS級ダンジョンが出たとか噂になってる場所に、ジャージの素人が家建ててるってこと!?】


【氷室玲奈の所属する冠位室も厚木から緊急出動したって報道あったぞ。あのコスプレイヤー、マジで本人じゃねえの!?】


本来であれば、S級ダンジョンの出現と国家最高戦力の敗北(?)という事実は、日本中をパニックに陥れる大事件である。 しかし、画面の中の高坂があまりにも呑気にネギを植え、クマを撫で、スパチャに感謝しているため、悲壮感や恐怖が完全に麻痺してしまっていた。


現代の若者やネット民を中心に、事態は「恐ろしい災害」としてではなく、「前代未聞のリアルタイム・エンターテインメント」として消費され始めたのだ。


【JSAが死ぬ気で封鎖してるエリアでネギ育ててて草】


【最強の氷室ネキを農家のおばちゃん扱いする男www】


【歴史の教科書に乗るレベルの放送事故だろこれ】


【やべえ、面白すぎる。もっとスパチャしてS級ダンジョンをリフォームさせようぜ!】 


パニックになるどころか、ネットの「おもちゃ」として完全にバズり散らかした高坂の配信は、同接(同時接続者数)十万人を軽々と突破し、SNSのトレンドを完全に独占してしまった。


◆ ◆ ◆


そんなネットのお祭り騒ぎなど露知らず。 JSA本部の戦略指令室では、防衛局長の葛城が文字通り髪を掻きむしっていた。


「バカなバカなバカなッ!なぜ国民は逃げない!?なぜS級ダンジョンをテーマパークか何かだと勘違いしているんだ!!」


「きょ、局長!SNSのトレンド1位が『#S級ネギマ汁』、2位が『#氷室農園』になっています!国民は完全にこれを『JSA公認の極秘エンタメ企画』だと思い込んでいる節があります!」


「ふざけるな!そんな命知らずな企画があるか!!」


葛城が血を吐くような叫び声を上げた直後、現場の自衛隊から緊急通信が入った。


『こちら前線封鎖部隊!目標地点より、車両が接近中!繰り返す、ダンジョン内部より車両が接近中!車体は……シルバーの軽バン!運転席には、ジャージ姿の青年が確認できます!!』


「な、なんだと……!?あいつ、本当にホームセンターに向かってきているのか!?」


西多摩の麓には現在、S級魔獣のスタンピードを防ぐため、自衛隊の戦車部隊とJSAのエリート攻略者数十名からなる『絶対防衛線』が敷かれていた。何重にも張り巡らされた魔法結界と、対戦車ミサイルがズラリと並ぶ物々しい状態である。


「局長!どうしますか!?攻撃しますか!?」


「バカ野郎、絶対に手を出すな!!奴はS級魔獣をペットにし、氷室たちを服従させる奴だぞ!もし機嫌を損ねて反撃されれば、防衛線ごと東京が消し飛ぶわ!!結界を解け!道を空けろぉぉぉっ!!」


◆ ◆ ◆


ブロロロロロ……。


高坂の乗る軽バンが、山道を下って麓の幹線道路に差し掛かった。 すると、道路の真ん中に戦車が数台停まっており、迷彩服や重装備の鎧を着た大勢の人々が、なぜか道の両脇に綺麗に整列して道を空けていた。


『おや?視聴者さん、見てくださいよ。なんか道路が封鎖されてますね。映画の撮影かな?戦車まであって本格的ですねー』


高坂はスマホをダッシュボードに固定したまま、感心したように周囲を見渡した。 そして、すれ違いざまに窓を少し開け、道を空けて直立不動で敬礼しているJSAの重武装隊員に向かって、ペコッと頭を下げた。


「あのー、お疲れ様です!撮影の邪魔してすみません、すぐ通り抜けますんで!」


「ハッ!お、お気をつけて行ってらっしゃいませぇぇぇッ!!」


JSAの隊員は、全身から脂汗を噴き出しながら、声が裏返るほどの全力で最敬礼を返した。 ただの軽バンが放つ排気音すら、彼らには『死のカウントダウン』に聞こえていたのだ。


『いやー、最近の映画のスタッフさんは礼儀正しいですね。俺も昔、ちょっとだけエキストラのバイトしたことあるんですけど、あの業界も大変ですよね』


高坂が呑気に軽バンを走らせ、絶対防衛線をあっさりと通過していく様子は、そのまま全世界に生配信されていた。


【戦車が道譲ってて草】


【JSAの精鋭部隊を映画のエキストラ扱いwww】


【もうやめて!JSAの胃のライフはゼロよ!】


【日本政府すら止めることができない男の買い物(トタン屋根)】


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