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バズりと赤スパ



『えーっと、スープも飲み終わったところで……おわっ!?』


S級ダンジョンの最深部で、食後のコーヒー(※霊薬割り)を飲んでいた高坂紬は、スマートフォンの画面を見て目を丸くした。 配信開始時には「1人」だった視聴者数が、みるみるうちに「10,000人」を突破し、信じられない速度で増え続けていたのだ。


『な、なんだこれ!?バグか!?コメントが滝みたいに流れてるぞ……』


高坂の困惑とは裏腹に、コメント欄はお祭り騒ぎになっていた。


【草】

【なんだこの謎配信。クマのCGすげえな。映画並みじゃん】

【というか後ろで土下座してるコスプレイヤー、JSAの氷室玲奈に似てね?】

【本人だろwなんで氷室がネギマ汁食って泣いてんだよwww】

【このチャンネル、VRゲーの宣伝か?物理エンジンどうなってんだ】


一般視聴者たちは、画面に映るS級魔獣(ポチ)や、国家最高戦力のS級攻略者たち(氷室たち)を、完全に『超高画質のCG』や『そっくりさんのコント番組』だと勘違いしていた。


無理もない。まさか本物のS級ダンジョンの最深部から、ジャージ姿の男がまったりキャンプ配信をしているなどと、誰が想像できるだろうか。


◆ ◆ ◆


一方、JSA本部の戦略指令室では、防衛局長の葛城が発狂寸前で通信部隊に怒鳴り散らしていた。


「早く配信を止めろ!!一般人にS級ダンジョンの内部情報が漏れたらパニックになるぞ!それに、冠位室の連中がジャージの男に服従している映像など、国家の威信が崩壊する!!」


「む、無理です局長!プラットフォームの運営会社にサーバーの強制停止を要請しましたが、『謎の超常的なプロテクト』に弾かれてアクセス権限が奪われています!物理的に海底ケーブルを切断しても、なぜか配信が止まりません!!」


「バカな!?どんなチート通信設備を使っているんだあいつは!」


JSAがパニックに陥る中、配信画面にはさらなる異常事態が発生していた。


高坂の画面に、赤や黄色に彩られた派手なエフェクトと共に、次々と『投げ銭(スーパーチャット)』が飛び交い始めたのだ。


【名無しゲーマー:CGクオリティ高すぎ!応援の5000円!】

【犬好き:ポチちゃんにおやつ買ってあげて!10000円!】

【石油王:最高に面白いコントだ。これでちゃんとした拠点でも建てなさい。50000円!】

『うおおおおっ!?な、なんですかこれ!赤いコメントと一緒にお金が……!?これが噂のスパチャってやつですか!?』


高坂は画面を覗き込み、感動で声を震わせた。 自分がただ趣味で始めた山林開拓日記が、こんなにも多くの人に認められ、しかもお金まで貰えるなんて。 ブラック企業で毎日理不尽に怒鳴られ、タダ働きを強いられていた高坂にとって、この視聴者たちの温かさと五万円という大金は、涙が出るほど嬉しいものだった。


『ありがとうございます!皆さん、本当にありがとうございます!……よし!石油王さんから「拠点を建てろ」ってリクエストも頂いたし、このスパチャの資金で、俺の夢だった「手作りログハウス」を建てちゃおうと思います!』


高坂の宣言に、コメント欄は【うおおおお!】【VR建築助かる】【やれやれー!】と大いに沸いた。


『玲奈さん、みんな!俺、この山で家を建てるよ!ちょっと木材の伐採を手伝ってもらってもいいかな?』


高坂が振り返って声をかけると、霊薬スープを飲んで『人を超越した何か』へと進化してしまった氷室たちは、感動の涙を拭いながら深々と平伏した。


「もちろんでございます、主(マスター)!最高の建材をご用意いたします!」


『マスターじゃなくて高坂でいいってば!』


高坂は百円ショップで買ったノコギリとハンマーを腰にぶら下げ、ポチと氷室たちを引き連れて、ダンジョンのさらに奥へと歩き出した。


『ヤスさんの動画で、家を建てるならヒノキとか杉がいいって言ってたんですけど……おっ、ちょうどいい林があるじゃないですか』


高坂が指差した先には、洞窟の奥で不気味な紫色の瘴気を放ちながらうごめく、巨大な樹木の群れがあった。 それは三十年前のダンジョン出現記録にも残されている、S級指定の植物型モンスター『千年の呪樹(デス・トレント)』の群れである。


一本でも地上に出れば、その根から放たれる猛毒で半径十キロの動植物が死滅するという恐るべき魔物だ。


「……主様。あの下等な雑草どもが、主様の御殿の建材に相応しいとお考えで?」


氷室が、冷たい瞳で呪樹の群れを睨みつけながら尋ねた。 霊薬で覚醒した彼女の目には、かつてなら死闘を強いられたであろうS級モンスターが、ただの『邪魔な枯れ木』にしか見えなくなっていた。


『え?うん、太くて頑丈そうだし。でも、あれ切るのすごく大変そうだな……』


「お任せください。一瞬で終わらせます」


氷室はスッと立ち上がると、腰に帯びていた国宝級のS級アーティファクト『絶対零度の魔剣』を抜いた。 そして、かつての十倍以上に膨れ上がった膨大な魔力を剣に集中させ、何の造作もなく、ただ軽く横に一閃した。


――ピキィィィィィィンッ!!!!


その瞬間、空間そのものが凍結し、数十体の『千年の呪樹』の群れが、根元から真っ平らに切断された。 さらに、氷室の神がかった魔力コントロールにより、呪樹の枝葉や猛毒の樹液だけが綺麗に粉砕され、後には『完璧に製材された最高級の丸太』だけが、ドサドサと音を立てて積み上がっていった。


『うおおおおっ!?すげええええ!!玲奈さん、その氷の魔法のコスプレスキル、伐採にめちゃくちゃ便利ですね!!木屑も全然出ないし!』


高坂は無邪気に拍手喝采し、コメント欄も【CG班の過労死が心配になるレベル】【エフェクト神すぎる】【コスプレイヤーさん有能すぎワロタ】と大盛り上がりだ。


一方、JSAの戦略指令室では。


「……S級指定モンスターの群れが、たった一振りで『ログハウス用の丸太』に加工された……」


最高顧問が虚ろな目でモニターを眺め、葛城はもはや胃薬を通り越して、頭痛薬をラムネのようにかじっていた。


「あ、あいつ……スパチャの五万円で家を建てるとか言っていたが……あの『千年の呪樹』の木材は、魔法使いの杖の素材として世界中のギルドが数千億円積んでも欲しがる超一級品のアーティファクト素材だぞ……」


そんなJSAの絶望をよそに、高坂は積み上がった数千億円分のS級素材(丸太)に、百円ショップの釘をトントンと打ち込み始めた。 【地主】スキルの『絶対強化』によって、百均の釘は『次元固定の神釘』へと概念昇華されており、S級素材の丸太同士を絶対に破壊不可能な強度で結びつけていく。


『いやー、皆さんのおかげで、最高の家ができそうです!次は屋根をどうするかですね。ヤスさんはトタン屋根にしてましたけど……この奥に行けば、いい石とか落ちてないかな?』


高坂が呑気にダンジョンのさらなる深層――いまだ人類が足を踏み入れたことのないS級ダンジョンのボス部屋の方角を見つめた瞬間。 JSAの指令室に、本日何度目かの悲鳴が響き渡った。



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