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家庭菜園とジビエ料理



『えー、視聴者の皆さん。無事に畑ができたので、さっそく買ってきた苗と種を植えたいと思います。スーパーで買ったネギの根っこと、プチトマトですね』


画面の中で、高坂紬はフカフカになった黒土(※日本の最高戦力が必殺技で耕したS級ダンジョンの大地)に、ヒョロヒョロのネギの根と小さな種を均等に埋めていく。


カメラの枠外では、全身を泥だらけにした冠位室(クラウン・ルーム)のS級攻略者三人が、正座をしてその様子を息を呑んで見守っていた。


『ヤスさんの動画でも言ってましたけど、植え付けた直後の水やりが一番肝心なんですよ。さっき掘り当てたミネラルウォーターをたっぷりかけてあげます』


高坂は百均のプラスチック製ジョウロに、青白く発光する泉の水――伝説の『世界樹の霊薬(エリクサー)』をなみなみと汲み、植えたばかりの土にバシャバシャと景気よくぶち撒けた。


――その瞬間である。


ズゴゴゴゴゴゴォォォォォォォッ!!


激しい地響きと共に、高坂が植えたネギとプチトマトが、狂ったような速度で急成長を始めたのだ。 三十年前のダンジョン出現以来、いかなる文献に載っていない異常自体。


ただのスーパーのネギが、霊薬の莫大な魔力と【地主】スキルの恩恵を受け、まばゆい光を放ちながら数メートルの高さへと伸びていく。茎は白磁のように美しく輝き、葉は周囲の瘴気を浄化する神聖なオーラを放っていた。 隣のプチトマトに至っては、ルビーのように赤く発光する果実を鈴なりに実らせており、一つ一つから濃密な魔力の波紋が広がっている。


「……ッ!?な、なんなのあれは……っ!」


氷室玲奈は、美貌を引き攣らせて絶句した。 彼女はS級攻略者として数々の希少な魔法植物を見てきたが、目の前にあるものは次元が違った。


あの白く輝くネギは、神話に登場する『聖なる世界樹の枝』そのものにしか見えない。トマトに至っては、一口かじれば寿命が数百年は延びるであろう『神々の黄金林檎』に匹敵する魔力密度を感じる。


『おわっ!?すげえ!一瞬で育った!』


だが、当の高坂は「すごい品種改良だなー」と呑気に笑いながら、世界樹の枝(ネギ)をあっさりと素手で引っこ抜いた。


『いやぁ、この山の土と水、めちゃくちゃ栄養満点ですね!これなら自給自足も余裕そうです。よし、手伝ってくれたお礼に、今日のお昼は俺が手料理をご馳走しますよ!』


高坂が氷室たちを振り返ってそう言った直後。 背後の茂みがガサガサと揺れ、愛犬(?)のポチが、自分よりふたまわり以上も巨大な獲物を咥えて意気揚々と戻ってきた。


『グルァァ……ッ(意訳:主様!お食事の足しに、その辺を飛んでいた小鳥を狩ってまいりました!)』


ポチが高坂の足元にドサリと落としたのは、漆黒の羽と三つの首を持つ巨大な怪鳥だった。 氷室たちの顔面から、再びスッと血の気が引く。


(あ、あれは……A級迷宮の最深部でしか確認されていない、空の支配者『三頭の災鳥(ディザスター・フクロウ)』!?全身の羽が鋼鉄よりも硬いと言われるあの化け物を、あの子熊は散歩ついでに狩ってきたというの!?)


『おっ、ポチすごいな!でっかいキジ……いや、烏骨鶏かな?三つも頭があるなんて、双子どころか三つ子の卵だったのかな。よーし、いい子だ!』


高坂はポチの頭をワシャワシャと撫でると、おもむろに百円ショップで買ってきたサバイバルナイフ(※【地主】スキルにより絶対切断の呪具へと概念昇華済み)を取り出した。


『じゃあ、さっそく捌いていきますね。鳥肉のネギマ汁にしましょう』


高坂がナイフを振り下ろした瞬間。 A級攻略者数十人がかりの魔法でも傷一つ付かないはずの災鳥の装甲羽が、まるで豆腐か何かのようにスパスパと解体されていく。血抜きから骨抜きまで、わずか数十秒の早業だった。高坂にはただの大きな鶏肉にしか見えていないため、手際が異様に良いのだ。


高坂は、風防代わりの『S級ダンジョンコア』の上で熱したアルミ鍋に、世界樹の霊薬(水)を注ぎ、災鳥の肉(最高級の魔力肉)と、世界樹の枝(ネギ)、神々の林檎(プチトマト)を次々と放り込み、市販のコンソメキューブをポンと入れた。


グツグツ、グツグツ。 鍋から立ち上る湯気だけで、洞窟内の瘴気が完全に吹き飛び、花畑のような芳醇な香りが蔓延する。香りを吸い込んだだけで、氷室たちの魔力が限界を突破して暴走しそうになるほどの破壊力だ。


『はい、完成!名付けて、ツムギ特製・山の恵みコンソメスープです。熱いうちにどうぞ!』


高坂は百均の紙どんぶりに黄金色のスープをよそい、氷室たち三人に手渡した。


「い、いただきます……」


氷室は震える手で紙どんぶりを受け取り、木のスプーンでスープをすくい、おそるおそる口に運んだ。


――次の瞬間。


氷室の脳裏に、宇宙の真理がフラッシュバックした。 細胞という細胞が歓喜の声を上げ、人類という種の限界(レベルキャップ)が音を立てて砕け散る。体内を駆け巡る圧倒的なエネルギーの奔流。それは、何十年もの修行と命がけの戦闘の末にようやく辿り着けるであろう『覚醒』の境地へ、たった一口のスープで強制的に引き上げられる感覚だった。


「ぁ……あぁぁっ……!」


背後の二人のS級攻略者も、スープを飲んだ途端にポロポロと涙を流し、神の奇跡に触れた信者のように地面に平伏してしまった。


『あれ?美味しいですか?泣くほど喜んでもらえるなんて作った甲斐がありましたよ』


高坂は嬉しそうに笑いながら、カメラに向かって自分のどんぶりを掲げた。


『視聴者さん、山の幸は最高です!皆さんも山を買ったら、ぜひやってみてくださいね!』


◆ ◆ ◆


同時刻。JSA本部の戦略指令室。 モニターの向こうで繰り広げられる『神話級食材のクッキング配信』を前に、防衛局長の葛城は、胃薬のビンを傾け、錠剤を水も飲まずにボリボリと噛み砕いていた。


「……A級指定の災鳥の肉に、S級ダンジョンコアの直火。霊薬で煮込み、未知の神聖植物を添える……。あいつ、冠位室の連中に何を食べさせているんだ……」


魔力解析官が、狂ったような数値を弾き出す計器を見ながら悲鳴を上げる。


「きょ、局長!氷室さんたちの生体データが異常をきたしています!魔力総量が従来の十倍……いや、二十倍以上に膨れ上がっています!彼女たちの力が、人類の枠組みを外れようとしています!!」


「……紙どんぶり一杯のスープで、国家の軍事バランスが崩壊したというのか……」


葛城は虚ろな目でモニターを見つめる。 画面の中では、日本の最高戦力たちが、ジャージ姿の青年に向かって「主様、おかわりを……!」「このスープの前に、私の過去の人生はすべて無価値でした!」と泣きながらひれ伏している。


『あはは、そんなに急いで食べなくても、まだ鍋にいっぱいありますよ。あ、コメント来てますね』


高坂の声にビクッと肩を震わせた葛城は、血走った目でオペレーターを睨みつけた。


「おい……また何かコメントしたのか!?」

「す、すみません!高坂が『皆さんも山を買ったらやってみて』なんて言うから、つい一般人を装って……!」


画面には、震える指で打たれたであろうコメントが表示されていた。


【名無しさん:とても美味しそうですが、素人が真似をするのは危険ではないでしょうか?】


そのコメントを見た高坂は、ウンウンと真顔で頷いた。


『確かにそうですね!山には野生動物(S級魔獣)もいるし、危ない段差(絶対破壊不可の岩盤)もありますから。皆さんは、ちゃんとしたキャンプ場で安全に楽しんでくださいね!俺も気をつけます!』


「……お前が一番危険なんだよ!!」


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