↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/32

無人販売所の攻防戦



『いやー、まいったな。ちょっと育ちすぎちゃったかもしれない』


西多摩のS級ダンジョン最深部、ツムギ村。 高坂紬は、目の前に広がる『ネギとトマトと大根の畑』を見て、頭を掻いていた。


【地主】スキルのバフと、神話級の霊薬(ミネラルウォーター)を浴びて育った野菜たちは、高坂の予想を遥かに超えるスピードで増殖し、豊作を通り越して「爆発」に近い収穫量になっていたのだ。


『せっかくこんなに採れたんだし、山の入り口に「無人販売所」を作ろう!近所の人とか、登山客の人に安くお裾分けしようと思って』


高坂の提案を受け、陸が【工作】スキルで『絶対に腐敗しない野菜直売テント』と『どんな盗難攻撃も反射する絶対防御の百円箱』を即座に作り上げた。 高坂はそこに、野菜を並べて値段を書き込んでいく。


『プチトマト一袋・100円』

『長ネギ三本・150円』

『大根一本・200円』


『うん、こんなもんだろ!視聴者の皆さんも、もし近くを通りかかったら買っていってくださいねー!』


高坂は満足げにカメラに向かって手を振ったが、この呑気な発言が、後にとんでもない地獄を引き起こすこととなる。


【無人販売所キター!】

【価格崩壊どころじゃなくて草】

【※一袋100円でS級攻略者に覚醒します】

【ソシャゲのガチャより排出率いいじゃねえかww】

【おい、今から車飛ばせば買えるぞ!!急げ!!】


ネットの拡散力は恐ろしかった。 「あの100円のトマトを食えば、F級でもS級に覚醒できるらしいぞ!」という噂は、またたく間にSNSを駆け巡り、力に飢えた一般の低ランク攻略者や、スキル未覚醒の学生たちの欲望に火をつけたのだ。


さらに、再生数稼ぎを狙う『迷惑系配信者』や、日本の動向を監視していた他国のスパイ(間者)たちまでもが、100円玉を握りしめて西多摩へと殺到し始めた。


◆ ◆ ◆


「……局長。西多摩のダンジョン入り口(百均のトラロープの外側)に、暴徒と化した一般人および他国のスパイが約三千人、殺到しています!」


JSA本部の戦略指令室。 防衛局長の葛城は、震える手で胃薬の瓶を逆さまにしたが、すでに中身は空っぽだった。


「バカな……!もしあんな神話級の劇薬が、野心を持つ連中やスパイの手に渡ってみろ!日本中で無自覚な自爆テロが起きるか、軍事バランスが崩壊するぞ!!一般人の手に渡ったとしても本当に安全なものなのかわかっていないのも危険だ!」


「直ちに強襲部隊で鎮圧し、販売所を完全封鎖しますか!?」


「ダメだ!!」 葛城は血走った目でオペレーターを怒鳴りつけた。


「高坂は『近所の人』に向けて売っているんだ!我々が重武装で封鎖して客を追い返せば、あの男は『営業妨害だ』と激怒し、また百均のホースで特務部隊を壊滅させるぞ!!」


「で、ではどうすれば……!」

「JSAの特殊潜入部隊を招集しろ!全員、パーカーやエプロンを持たせて『近所の主婦』や『散歩中の老人』に変装させるんだ!彼らによる『人間バリケード(※行列に偽装)』を形成し、不審者から野菜を死守しろ!!」


かくして、国家の存亡を賭けた『朝の野菜買い占め防衛戦』が幕を開けた。


◆ ◆ ◆


翌朝。ツムギ村の入り口に設置された無人販売所の前は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。


「オラァッ!どけぇ!俺はこのトマトを食ってS級になるんだよ!!」


「動画回ってますよー!ここが噂のS級農園でーす!今から野菜全部パクってきまーす!」


欲望剥き出しの攻略者や迷惑系配信者たちが、テントめがけて突撃していく。 さらに木の上からは、光学迷彩を纏った他国の暗殺者たちが、ネギを奪おうと音もなく飛び降りてくる。


だが、それを迎え撃つのは、割烹着やサンバイザーを装着したJSAの超エリート部隊(主婦偽装)だった。


「あらァ〜!横入りはダメよォ〜!!」


裏声で叫んだエプロン姿の男(JSA第一空挺団隊長)が、買い物カゴを凄まじい速度で振り回し、襲いかかってきた中国のS級スパイの暗殺拳を完璧にパリィ(弾き返し)した。


「なっ……日本の主婦は、A級武術をマスターしているというのか!?」


「スーパーの特売日は戦場なのよォッ!!」


エプロン隊長はそのままスパイの鳩尾に強烈な膝蹴りを叩き込み、茂みの中へ蹴り飛ばした。


一方、無人販売所の正面では、スマホを掲げた迷惑系配信者が木箱に手を伸ばしていた。


「よっしゃ!100円なんか払うかよ!タダで全部もらうぜ!」


配信者が『絶対防御の百円箱(陸の神造錬成)』に触れようとした、その瞬間。


――バチィィィィィィンッ!!!!


「ギャアアアアアアッ!?」


百円箱から放たれた『窃盗反撃(カウンター)』の雷撃が配信者を直撃し、彼は全身を黒焦げにしてアフロヘアーになりながら、数十メートル後方へと吹き飛ばされた。


それを見た一般の攻略者たちは「ヒィッ!?」と悲鳴を上げ、急いで財布から100円玉を取り出して行儀よく並び始めた。


「ほらアンタたち!ちゃんと一列に並んで100円玉用意しなさい!おつりは出ないわよ!」 JSAの偽装主婦たちが、巧みに列を誘導し、他国のスパイは暗殺技術(近接格闘)を用いて気づかれないように排除していく。 「そのネギは私が先に見つけたのよォ!」(※ロシアのスパイの首を締め落としながら)


まさにスーパーの特売日を装った、高度な情報戦と物理戦闘の真っ最中だった。


『おっ!みんな朝から元気だなぁ!』


そこへ、商品の補充にやってきた高坂紬が、ダンボールを抱えてのんきに現れた。 一瞬にして、血みどろの戦闘を繰り広げていたJSAの部隊も、他国のスパイも、一般人も、全員がピシッと直立不動になり、顔に引き攣った笑顔を貼り付けた。


『いやー、大盛況ですね!おばちゃんたち、朝早くから並んでくれてありがとう!はい、これ追加の大根ね!』


「あ、あら〜!ツムギちゃんありがとうねぇ!おばちゃん大根の煮物にしようと思って〜!」 JSAの隊長(エプロン姿の屈強な男)が、裏声で冷や汗を滝のように流しながら大根(※時価数千億円はくだらない神話級素材)を受け取った。


『あ、そこのお兄さん。顔真っ黒だけど大丈夫?』 窃盗バリアで黒焦げになった迷惑系配信者に高坂が声をかけると、配信者はガタガタと震えながら「タ、タキビデ、ヤケドシマシタ……100エンハライマス……」と泣きながら100円玉を箱に入れた。


【おばちゃん(JSA特殊潜入部隊)の体格良すぎて草】

【裏声キツいwww】

【窃盗しようとしたYouTuber、箱に迎撃されててワロタ】

【おばちゃんのエコバッグ、ミスリル製で草】 【JSAの皆様、朝早くから防衛戦お疲れ様です!!】


視聴者たちは、画面の端で繰り広げられる「国家権力vsスパイvs一般人」の熾烈な特売日バトルを、腹を抱えて楽しんでいた。


『大好評みたいだし、明日はもっとたくさん並べようかな!しずくちゃん、陸くん!明日は裏山の畑も全部引っこ抜いておいて!』 「はいっ、ツムギさん!」


「任せてください!」


高坂の声に、コテージから元気な返事が響く。 それを聞いたJSAの偽装主婦たちは、「明日はさらに戦況が悪化するのか……」と絶望の涙を流した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。