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開拓村




『ふぅー、やっぱり自分の山は最高だなあ』


隣町への買い出し(※B級モンスターのワンパン浄化)を終えて帰還した高坂紬は、西多摩のS級ダンジョン最深部のフカフカの黒土を踏みしめながら、大きく深呼吸をした。


彼が持つ【地主】スキルは、あくまで『自分名義の不動産(私有地)』の範囲内でしか力を発揮しない。街中ではただの一般人に戻ってしまう高坂にとって、物理法則すら自分の思い通りになるこの山林こそが、唯一心からリラックスできる絶対安全地帯なのだ。


『買ってきたクワと種も使いたいし、そろそろ本格的に人手が欲しいところなんだけど……おや?』


高坂がログハウスの縁側に腰掛けようとした時、入り口に張ってある百均のトラロープの向こう側に、二つの人影が現れた。


「ツムギさんっ!!」


声をかけてきたのは、先日この空間に迷い込んできた元F級攻略者の少女、神崎しずくだった。 そして彼女の隣には、すっかり顔色の良くなった10歳くらいの少年が、緊張した面持ちで立っている。


『おお、しずくちゃん!いらっしゃい。そっちの子は、もしかして……』


「はい!ツムギさんが下さったトマトのおかげで、弟の陸(りく)の病気が治ったんです!今日はそのお礼に伺いました!」


しずくと陸は、トラロープを潜り抜けると、高坂の目の前で勢いよく土下座をした。


「ツムギさん!僕の命を救っていただき、本当にありがとうございます!僕、なんでもします!だから……僕たちを、ツムギさんの『お弟子さん』にしてください!!」


しずくも深く頭を下げて同調する。


トマトの恩恵でS級へと覚醒した二人は、国から「超VIP待遇」でのスカウトを受けていた。


しかし彼らは、高級マンションも無制限のブラックカードもすべて辞退し、自分たちを救ってくれた『神(高坂)』に生涯を捧げる道を選んだのだ。


『えっ?弟子?』


高坂は目を瞬かせた。

(弟子って……ああ、最近テレビでよく見る『農業体験(ファームステイ)』とか『田舎暮らしの弟子入り』ってやつか!確かに、若いのに偉いなぁ)


『嬉しいけど、うちは農家としてはまだまだ素人だよ?土いじりは腰が痛くなるし、虫も出るし、結構大変だけど……それでもいいの?』


「はいっ!どんな過酷な修行(S級モンスターとの死闘)でも耐えてみせます!」


「僕も、ツムギさんのお役に立ちたいです!」


悲壮な決意を固める姉弟を見て、高坂はニッコリと笑った。


『わかった。じゃあ、今日からうちの「住み込みアルバイト」として採用するよ。お給料はあんまり出せないけど、採れたての美味しい野菜と、温泉は使い放題だからね』


「「あ、ありがとうございます……っ!!」」


歓喜の涙を流すしずくと陸。


かくして、空間消去魔法を操る少女と、あらゆる物を神造兵装に変える少年が、時給制の『農業アシスタント』として高坂農園に就職することとなった。


『住み込みって言っても、このログハウスじゃ三人で寝るにはちょっと狭いからなぁ。よし、君たちの分の家を建てようか!』


高坂はスケッチブックを取り出すと、適当に「こんな感じのコテージがいいな」と丸と四角の簡素なイラストを描いて陸に見せた。


『陸くん、図工は好き?その辺の木材(※千年の呪樹)を使って、こういうの作れるかな?』


「はい!やってみます!」


陸は元気よく返事をすると、持参した子供用の『ハサミ』と『木工用ボンド』を取り出した。


そして、積み上げられていた数千億円相当のS級素材の丸太に向かって、チョキチョキと空を切るようにハサミを動かす。 その瞬間、未確認スキル【工作】が発動した。


――ズバババババババッ!!


巨大な丸太が、不可視の刃によってミリ単位の狂いもなく完璧な建材へと切り出されていく。


さらに陸が木工用ボンドを宙に絞り出すと、建材がまるで意思を持っているかのように空中で組み上がり、わずか数分で高坂の描いた通りの『立派な木造コテージ』が二棟、魔法のように完成してしまった。


『うおおおおっ!?すげええええ!!なんだ今の!?マジック!?』


「えへへ、ツムギさんの土地の力が僕を手伝ってくれたみたいです。すごく作りやすかったです!」


照れ笑いをする陸。


事実、高坂の【地主】スキルは「所有地内での建築・開拓行為」に対して絶大なバフ(絶対強化)を与える。


陸の【工作】スキルと高坂の土地のバフが掛け合わさった結果、完成したコテージは『核ミサイルが直撃しても傷一つつかない絶対防衛拠点へと仕上がっていた。


『いやー、陸くんは大工の才能あるよ!しずくちゃんは掃除(空間消去)が得意だし、頼もしいバイトが入ってくれて本当に助かるなぁ。……なんか、家が増えて小さな村みたいになってきたね』


高坂は満足げに腕を組み、完成した集落を眺めた。


『よし!ここを今日から「ツムギ村」と名付けよう!』


【ツムギ村爆誕ww】

【D◯SH村かな?】

【弟くんの建築スキルどうなってんだよw】

【もう国を作れ】


配信のコメント欄が「村の誕生」に沸き立つ中、絶望のどん底に叩き落とされている者たちがいた。


◆ ◆ ◆


「…………ツムギ村、だと……?」 


JSA本部の戦略指令室。 防衛局長の葛城は、モニターに映し出された西多摩の惨状(?)を見て、胃薬を水なしで飲み込んでいた。


「報告します。西多摩の第4区画に、新たな建築物が二棟追加されました。さらに、居住者として神崎しずく(S級・空間消去)と神崎陸(S級・神造錬成)の移住が確認されました……」


「週末には氷室たち冠位室も農業の手伝いに行っている。そしてあの山には、S級魔獣の【星喰いの大羆】と【不死鳥】まで棲みついている。さらにアメリカ最強の暗殺者まで住み込みで温泉を掘っているんだぞ……?」


葛城の呟きに、指令室の全員が息を呑んだ。 その戦力を総合すると、導き出される答えは一つしかなかった。


「……現在、西多摩の山林(ツムギ村)が保有する軍事力は、我が国の自衛隊とJSAの総戦力を上回っているかと……。それだけでなく、アメリカやロシアなどの軍事大国と戦争になっても、ツムギ村が一方的に圧勝する計算です……」


「ただの一般人が……退職金で山を買って、家庭菜園とDIYをやっていただけで、なぜ『地球上で最も強大な独立国家』が出来上がっているんだ……ッ!!」


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