↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/32

最弱の逆襲



埼玉県、家賃三万円のボロアパート。 神崎しずくは、布団の上で苦しそうに咳き込む10歳の弟、陸(りく)の口元に、西多摩のS級ダンジョンで貰ってきた『プチトマト』をそっと運んだ。


「陸、これ食べて。すごく美味しいトマトだから」 「ゲホッ……うん、ありがとう、お姉ちゃん……」


陸は弱々しく口を開け、赤い果実を飲み込んだ。 次の瞬間だった。


カッ……!!


陸の小さな体から、太陽のような眩いプラチナ色の光が弾け飛んだ。 「えっ……!?」 光が収まると、先ほどまで青白く痩せこけていた陸の頬に血色が戻り、呼吸も嘘のように穏やかになっていた。それどころか、不治の病に侵されていたはずの肺も心臓も完全に治癒し、体中に溢れんばかりの生命力が満ちている。


「お姉ちゃん……僕、全然苦しくない!それどころか、なんだか力が湧いてくるよ!」


「陸……!よかった、本当によかった……!」


しずくは号泣して弟を抱きしめた。 しかし、神話級の霊薬を吸い上げた『神々の黄金林檎(トマト)』の効果は、ただの病気平癒に留まらなかった。本来なら15歳を超えてから受けるはずの攻略者の『スキル覚醒』を、強制的に引き起こしたのである。


「あれ?なんだろうこれ……頭の中に、何かが流れ込んでくる……」


陸は不思議そうに呟くと、部屋の隅にあった『ティッシュの空き箱』と『ハサミ』を手に取った。


彼が目覚めたのは、過去に確認例のない未確認スキル【工作】。

陸がハサミでチョキチョキと空き箱を切り、セロハンテープで剣の形に組み立てる。


「えいっ」 陸がその『ティッシュ箱の剣』を軽く振った瞬間。


――ズバァァァァァァァンッ!!


アパートの壁どころか、遥か上空を覆っていた分厚い雨雲までが、真っ二つに両断された。 魔力を帯びた【工作】スキルは、ただのゴミを『S級の神造兵装』へと昇華させてしまったのだ。


「……ええええええ!?」 「わあ、すごい切れ味!」


無邪気に笑う弟と、白目を剥きそうになる姉。


この日、非公式ながら日本に五人目の『S級(あるいはそれ以上)の化け物』が、埼玉のボロアパートで同時に誕生したのである。


◆ ◆ ◆


翌朝。


埼玉の攻略者ギルド支部。

しずくは、引退の手続きと借金の返済を行うため、ギルドの窓口を訪れていた。


「おいおい、誰かと思えば『お片付け』のしずくちゃんじゃねえか。弟の葬式代でも借りに来たのか?」


下劣な笑い声を上げて近づいてきたのは、D級攻略者パーティー『赤き牙』のリーダー、郷田だった。彼は日頃からしずくを「荷物持ちのゴミ」と見下し、不当な報酬でこき使っていた男である。


「郷田さん……私、今日でシーカーを辞めるんです。今までのお金も全部お返しします」


「はあ?シーカー辞めるだと?ふざけんな、お前みたいなゴミでも囮くらいにはなるんだよ。いいから来週のB級ダンジョン探索にもついてこい!」


郷田は威圧的に舌打ちをすると、しずくの胸ぐらを掴もうと手を伸ばした。 しかし、しずくの目には、D級である郷田の動きが「止まっている」ようにしか見えなかった。S級へと覚醒した彼女の動体視力と魔力感知において、郷田など道端の石ころと同義なのだ。


「触らないでください。――【お片付け】」


しずくが小さく呟き、指先を軽く振るった。 シュンッ、という音と共に、郷田が身につけていた『D級の魔法鎧』と『鋼鉄の剣』が、空間ごと完全に消去(クリア)された。


「……あ?」 郷田は一瞬何が起きたか分からず、自分が下着だけになっていることに気づいて呆然と立ち尽くした。


「な、なんだ!?俺の装備が!?お前、何をしやがった!」

「ただ『片付けた』だけです。もう、私に関わらないでください」


郷田が顔を真っ赤にして殴りかかろうとした、その時。


「そこまでだ!!その方に無礼を働くことは、我々が許さんぞ!!」


ギルドの入り口の扉が蹴破られ、黒塗りの高級車から降りてきた黒スーツの集団――JSAの精鋭部隊が雪崩れ込んできた。 先頭に立つのは、JSA防衛局長の葛城本人である。


「JSAの防衛局長……!?なんでこんな埼玉の末端ギルドに……!」


郷田たちD級攻略者は、雲の上の存在の登場に腰を抜かしてその場にへたり込んだ。


葛城は郷田たちを一瞥もせず、しずくの前に進み出ると、深々と最敬礼を行った。


「神崎しずく様、ならびに弟の陸様。我々JSAは、お二人の類まれなる力……『S級(あるいはそれ以上)攻略者』としての覚醒を歓迎いたします。どうか、国からのスカウトを受けてはいただけないでしょうか」


「えっ……S級?スカウト?」


「はい。お二人には、都内の超高級タワーマンションの最上階をご用意しております。専属の医療チームと、生活費としてご利用いただけるクレジットカードも支給いたします。どうか、どうか我々に力を貸してください!」


ギルド内が、水を打ったように静まり返った。


あの万年F級のゴミ扱いされていた少女が、日本に三人しかいないはずのS級攻略者になった?しかも国賓待遇でスカウトされている?


「ひ、ひぃぃぃっ……!!」


先ほどまでしずくを罵倒していた郷田や他の攻略者たちは、自分たちがとんでもない化け物に喧嘩を売っていたことを悟り、顔面を蒼白にして泡を吹き、次々と気絶していった。


「あの……私、戦うのは怖いんですけど……それでもいいんですか?」


「もちろんです!ただJSAに在籍していただくだけで結構!あわよくば、西多摩の『高坂農園』にお越しの際は、我々への口利きをお願いしたく……!」


「ツムギさんのところなら、また行きたいです!お礼も言いたいですし」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。