【episode9】ビジュアル面もね、磨かないと
Plymouth K-POP Studioに通い始めて、少しずつレッスンにも慣れてきた。ダンスでは身体の使い方を、歌では発声や表現を教えてもらえる。前世で十年近く練習してきた私にとって、技術面では順調なスタートを切れていると思う。
けれど、ある日の帰宅後、私は机の前でノートを開きながらふと手を止めた。
――ダンスと歌だけで、本当にいいのかな。
前世の私は、ずっとそれだけを考えていた。ダンスが上手くなれば、歌が上手くなれば、いつか認めてもらえる。そう信じて、毎日何時間も練習した。でも、何度オーディションを受けても、最後に言われる言葉は同じだった。
『ビジュアルがダメです』
あの言葉を思い出すと、今でも胸の奥が重くなる。
もちろん、アイドルは顔だけで決まるわけじゃない。歌もダンスも表現力も大切だ。それは分かっている。でも、オーディションという最初の入り口で、見た目が判断材料になることも事実だった。そして私は、前世でそれに気づくのが遅すぎた。
だから今度は――最初から意識する。
私はノートの新しいページを開き、そこに大きく『ビジュアル研究』と書いた。その下に、思いつくまま項目を書き足していく。
・髪 ・肌 ・表情 ・姿勢 ・服装 ・写真写り ・ステージでの見え方
私はペンを持ったまま、しばらくその文字を眺めた。
前世の私は、「自分は顔が良くないから無理」と考えてしまっていた。でも、今の私は違う。
鏡を見る。
大きな目。すっとした鼻。整った顔立ち。肌もきれいで、声まで可愛い。
――神様、本当にありがとうございます。
思わず心の中でそう呟いた。でも、せっかくもらったこのビジュアルを、何もしないままにするつもりはない。
私はスマホを手に取り、K-POPアイドルの写真や動画をいくつか見始めた。ただ「可愛いな」と眺めるのではなく、今度は別の視点から見る。
髪型はどうなっている? カメラを向いたとき、どんな表情をしている? 笑顔のときと真顔のときで、どこが違う? 立っているときの姿勢は? ステージでは、どこを見ている?
同じ顔でも、表情や角度、髪型、照明によって印象が大きく変わる。私は次々と気づいたことをノートに書き込んでいった。
「……なるほど」
前世では、オーディションに受かるためにダンスを練習して、歌を練習して、それで終わっていた。でも、本当はもっとできることがあった。自分に似合う髪型を探すこと。表情を研究すること。姿勢を綺麗にすること。カメラの前でどう見えるかを知ること。服装やメイクについて学ぶこと。そして何より、自分の長所を理解すること。
「……私、前世ではここまで考えてなかったんだ」
小さく呟いて、私は苦笑した。
もちろん、当時の私だって何もしていなかったわけじゃない。毎日必死に努力していたし、本気で夢を追いかけていた。ただ――努力の方向を、もっと早く増やせていたら。そんな後悔が残っている。
だからこそ、二度目の人生では同じことを繰り返さない。
私は鏡の前に立った。まずは姿勢を確認する。背筋を伸ばして、肩の力を抜く。それだけでも、鏡の中の印象が少し変わった。
次に表情。
普通の顔。笑顔。少し口角を上げた顔。目元を意識した笑顔。
私はスマホのカメラを使って、いくつか撮ってみる。
「……あ、これ結構違う」
画面を見ると、自分では同じように笑っているつもりでも、写真になると印象が違っていた。
前世なら、ここで「盛れない」で終わっていたかもしれない。
でも今は違う。
「じゃあ、どうしたらもっと良く見えるんだろう?」
私はもう一枚撮った。角度を少し変える。また撮る。表情を変える。もう一枚。
「……面白い」
気づけば、すっかり夢中になっていた。
可愛く写るためだけじゃない。自分がどう見えるのかを知ること。それが、これからオーディションを受けるうえで大切になる気がした。
私はノートに新しく書き込む。
『自分のビジュアルの長所と短所を客観的に知る』
そして、その下に続けた。
『長所は伸ばす。短所は工夫する』
これでいい。
私はもう、自分の見た目を理由に最初から諦めるつもりはない。むしろ今の私は、前世では持っていなかった大きな武器を持っている。
だったら――最大限に活かせばいい。
私は鏡の中の自分を見て、少しだけ笑った。
「今度は、ビジュアルでも負けない」
ダンスも、歌も、ビジュアルも。全部、私の武器にする。
前世では、夢を叶えるためにひたすら努力した。今度は違う。努力するだけじゃない。自分に何が必要なのかを考えて、必要なところに時間を使う。
十三歳の今なら、まだ間に合う。
むしろ――今だからこそ、間に合わせられる。
私はノートを閉じた。
こうして、二度目の人生での私の「アイドル計画」に、新しい項目が加わった。
――ビジュアルも、武器にする。




