【episode8】本当のスタート
体験レッスンを終えて家に帰ると、私は玄関に入った瞬間から今日のことを話したくて仕方がなかった。靴を脱ぐのもそこそこに母のところへ駆け寄って、「すっごく楽しかった!」と話すと、母は少し驚いたように笑いながら、「そんなに楽しかったなら、行ってよかったね」と言ってくれた。
私は今日のレッスンで先生に言われたことを一つずつ思い出しながら話した。ダンスでは振り付けを覚えるのが早いと言われたこと、身体の使い方を褒めてもらったこと、そして歌では「今までどこかで習っていたの?」と聞かれたこと。もちろん、前世で十年間レッスンを受けていたことは言えないから、「家で練習していただけ」と答えたことも話した。
「それで、萌花はどうしたい?」
母にそう聞かれて、私は迷うことなく答えた。
「ここに通いたい!」
体験レッスンを受ける前から、もちろん通えたらいいと思っていた。でも実際にスタジオで踊って、先生に教えてもらって、同じ夢を持つ子たちと一緒に練習してみたことで、その気持ちはもっと強くなっていた。
前の人生では、レッスンに通うこと自体が当たり前になっていた。だからこそ、今の私は分かっている。レッスンはただ技術を身につける場所じゃない。自分では気づけない癖を教えてもらったり、他の人と一緒に踊ることで自分の足りないところに気づいたりできる。
そして何より、私はもう一度、この場所から始めたかった。
「じゃあ、先生に連絡してみようか」
「うん!」
母がスクールに連絡している間、私は自分の部屋へ戻った。机の上には、転生してからずっと使っているノートがある。
私はページを開いて、以前書いた『K-POPアイドルになるための計画』を見つけた。そこには、韓国語の勉強、オーディションについて調べること、ダンスと歌の練習など、これからやるべきことがたくさん書かれている。
その下に、新しく一行を書き足した。
『Plymouth K-POP Studioに通う』
ペンを置いた瞬間、不思議な気持ちになった。前世では、何年も努力して、それでも夢に近づいている実感を持てない日が何度もあった。だけど今は違う。まだ何も始まっていないように見えて、その実はもう、私は一歩目を踏み出している。
もちろん、今日褒められたからといって、これでアイドルになれるわけじゃない。オーディションだってまだ受けていないし、韓国語ももっと勉強しなければならない。アイドルとして必要なことは、ダンスや歌だけじゃない。表情、体力、発音、ステージでの見せ方、自分をどう見せるかということまで、学ばなければいけないことは山ほどある。
でも――私は、そういうことを知っている。前の人生で十年間、夢を追いかけてきたから。だからこそ、今回は同じ失敗を繰り返さない。
「……今度は、全部やる」
私はノートを見つめながら、小さく呟いた。
ダンスも歌も、韓国語も、そして自分自身を磨くことも。前の人生では一つのことに夢中になりすぎて、見えていなかったものがたくさんあった。でも、今度は違う。私は十三歳で、まだ時間はある。それに、前世の十年分の経験まで持っているのだ。だったら、今からできることを全部やればいい。
その日の夜、母から「正式に通っていいよ」と言われたとき、私は思わず両手を握りしめた。
「本当に!?」
「うん。ただし、学校の勉強もしっかりやること」
「分かってる!」
嬉しくて、思わず笑顔になる。
これで決まった。私はこれから、学校に通いながらPlymouth K-POP Studioでダンスと歌を学び、家では自分でできる練習を続けていく。前世で十年かかった道を、今度はもっと早く、もっと賢く進んでいくつもりだ。
私はもう一度ノートを開いて、ページの一番下に文字を書いた。
『今日、K-POPアイドルへの一歩を踏み出した。』
書き終えた私は、ペンを置いて満足そうに笑った。まだ、始まったばかり。でも――私にとっては、ここからが本当のスタートだった。




