【episode10】ビジュアルを磨くためにすること
翌日、私は学校から帰ると、昨日のノートを机の上に広げた。昨日は「ビジュアルも武器にする」と決めただけだったけれど、決めただけでは何も変わらない。大切なのは、ここから実際に何をするかだ。
私はページの上に、新しくタイトルを書いた。
『ビジュアルを磨くためにすること』
まずは髪。次に肌。それから表情、姿勢、身だしなみ、写真写り。アイドルのビジュアルを研究していくなら、このくらいは最低限やっておきたい。
「よし。まず髪から」
私は自分の髪を手に取った。前世では、練習時間を少しでも増やしたくて、髪を乾かすのも適当になっていた。濡れたまま放置することもあったし、ブラシを勢いよく通してしまうこともあった。
でも、今度は違う。
お風呂に入る前には、まず毛先から優しくブラッシングする。絡まったところを無理に引っ張らず、毛先がほどけたら少し上、さらに上へと進んでいく。シャンプーをするときも、髪そのものをゴシゴシこするのではなく、頭皮を指の腹で丁寧に洗う。
そして、すすぎはしっかりする。シャンプーが残っていたら、それだけで頭皮の負担になるからだ。
トリートメントは毛先を中心につけて、時間を置いたら丁寧に流す。お風呂から出たら、タオルで髪を強くこすらず、水分を優しく押さえる。
「ここまでは前世でも知ってたけど……」
問題は、その後だった。
私はドライヤーを持つ。
濡れた髪を放置しない。まず根元を乾かして、それから毛先へ。熱を一か所に当て続けないように動かしながら乾かして、最後に冷風を当てる。
鏡を見ると、さっきまで少し広がっていた髪が、前よりまとまっている。
「……ちゃんとやるだけで結構違うんだ」
私は髪を触ってみた。
さらさらしている。
なんだか嬉しい。
次は肌。
ここは、何か特別なことをするより、毎日続けられることを大切にする。顔を洗ったら、こすらず優しく水分を拭き取り、化粧水などで保湿する。外に出る日は紫外線対策も忘れない。
そして、睡眠と食事も大切。
「ビジュアルを磨くって、結局生活習慣も含まれるんだ……」
前世の私は、ダンスの練習時間を増やすためなら睡眠時間まで削っていたことがある。でも、今思えば逆効果だったのかもしれない。
私はノートに書き込んだ。
『無理なことはしない。毎日続けられるケアをする』
次は表情。
鏡の前に立って、いろいろな表情を試してみる。
普通の顔。笑顔。少しだけ口角を上げた顔。驚いた顔。嬉しい顔。曲に合わせた表情。
「……これ、思ったより難しい」
自分では笑っているつもりでも、写真で見ると少し違う。目元まで笑えているときと、口だけ笑っているときでも印象が変わる。
私はスマホで撮影しながら、一つずつ確認していった。
「なるほど。カメラで見ると分かりやすい」
前世なら、写真を撮って「今日盛れてない」で終わっていたかもしれない。でも今は違う。どうしてそう見えるのかを考える。
次は姿勢。
背筋を伸ばして、肩の力を抜く。首を前に出さない。歩くときも下を向きすぎない。
鏡の横を通りながら、自分の姿を確認する。
たったこれだけでも、立っているときの印象が変わった。
最後は身だしなみ。
制服の襟が曲がっていないか。髪がぼさぼさになっていないか。爪が伸びすぎていないか。靴が汚れていないか。
アイドルになるためだからといって、特別なことばかりする必要はない。むしろ、毎日の小さなところをきちんとするほうが大事なのかもしれない。
私はノートの最後に、もう一つ書き足した。
『写真写りは定期的にチェックする』
これも重要だ。
オーディションでは、ステージの上だけを見られるとは限らない。プロフィール写真や動画を見られることもある。だったら、カメラにどう映るのかを知っておいたほうがいい。
私はスマホを立てて、正面から写真を撮った。
次に少し角度を変える。
笑顔にする。
真顔にする。
髪型を変える。
撮った写真を並べてみる。
「……この角度、結構好きかも」
自分のことを客観的に見るのは、意外と面白かった。
私はノートを見返した。
髪――丁寧に洗う、しっかりすすぐ、毛先をケアする、優しく乾かす。
肌――こすらない、保湿する、紫外線対策をする。
表情――鏡とカメラで研究する。
姿勢――背筋を伸ばして、肩の力を抜く。
身だしなみ――毎日きちんと整える。
写真写り――定期的に確認する。
これで、やることは決まった。
私はペンを置いて、ノートを閉じる。
前世の私は、「ビジュアルが悪い」と言われたあと、自分の顔そのものを変えなければいけないと思ってしまった。でも、今の私は違う。
今の自分をどう活かすか。
どうすれば、今持っているものを一番よく見せられるか。
そこを考えていけばいい。
「よし。今日から毎日やろう」
そう呟いて、私はもう一度鏡を見る。
そして、少しだけ口角を上げた。
――ダンスも歌も、ビジュアルも。
全部、自分で育てていく。
私の二度目のアイドル人生は、今日からまた一歩進んだ。




