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【episode11】変化は出るものらしい

 朝、鏡の前に立って、私は昨日より少しだけ長く自分の姿を見つめていた。


髪は昨日の夜にしっかり乾かしたおかげか、毛先までまとまりがいい。寝癖を直して、前髪を整え、制服の襟を確認する。たったそれだけのことなのに、以前よりも自分の見た目を意識するようになった気がする。


前世の私は、とにかく練習を優先していた。学校から帰ったらダンス、歌、ダンス、歌。少しでも練習時間を増やしたくて、髪を適当に乾かしたり、鏡を見る時間すら「そんなことをしている暇があったら練習しよう」と削っていた。


でも、今は違う。


ダンスも歌ももちろん大事。それは絶対に変わらない。だけど、アイドルになるなら、自分自身をどう見せるかも同じくらい大切だ。


「よし」


鏡の中の自分に小さく頷いて、私は学校へ向かった。


教室に入ると、いつものように何人かのクラスメイトが「おはよう」と声をかけてくれる。私は笑顔で返しながら席に座り、教科書を取り出した。


すると、隣の席の女の子が私の髪を見て言った。


「なんか今日、髪きれいじゃない?」


「え?」


思わず自分の髪に触れる。


「そうかな?」


「うん。昨日よりさらさらしてる感じする」


「ほんと?」


何気ない一言だったけれど、私は少し嬉しくなった。


――やっぱり、変化ってちゃんと出るんだ。


昨日までの私は、「髪をきれいにする」と言っても、何となく手入れをするくらいだった。でも、やり方を調べて、実際に毎日続けてみる。それだけでも少しずつ違いが出てくる。


もちろん、一日二日で劇的に変わるわけじゃない。


だからこそ、続ける意味がある。


授業が始まると、私はいつも通りノートを取りながら、ふと窓に映った自分の姿を見た。姿勢が少し丸くなっている。


私はすぐに背筋を伸ばした。


――そうそう。姿勢も。


ダンスをしているときはあれだけ姿勢を意識しているのに、普段の生活になると無意識に崩れてしまう。アイドルはステージの上だけが勝負じゃない。歩いているとき、立っているとき、座っているとき。何気ない瞬間にも、その人の印象は作られていく。


休み時間になると、私はスマホを取り出して、昨日撮った写真を見返した。


正面、少し右向き、少し左向き。笑顔、真顔、口元だけ少し笑った表情。前世では、オーディションの写真を撮るたびに「どうしてこんなに写りが悪いんだろう」と落ち込んでいた。でも今は、落ち込む前に原因を探す。


「この角度だと顔が少し固く見える……。こっちは目線をもう少しカメラに合わせたほうがいいかな」


私は写真を見比べながら、ノートに気づいたことを書いていく。


『写真では、実際に鏡で見るより表情が小さく見える』


『笑顔は口だけじゃなく、目元も意識する』


『姿勢がいいほうが全体的にすっきりして見える』


少しずつ、自分のことが分かってきた気がする。


放課後はいつものようにK-POPのレッスンへ向かった。


レッスンが終わったあと、先生が私に声をかけてくれた。


「最近、踊り方がまた変わったね」


「そうですか?」


「うん。前より姿勢が安定してる。あと、表情も自然になってきた」


その言葉に、私は思わず笑った。


「ありがとうございます」


――ちゃんと、繋がってる。


ビジュアルを磨くことは、顔だけをどうこうすることじゃない。姿勢も、表情も、髪も、服の着こなしも、そしてステージでの見せ方も全部繋がっている。前世の私は、もっと早くそれに気づけばよかった。でも、今は違う。気づいたなら、今日から変えていけばいい。


私は家に帰ると、いつものノートを開いた。


『K-POPアイドルになるための計画』


その下に、新しく書き足す。


『毎日の小さな積み重ねを大切にする』


そして、その横にもう一つ。


『昨日の自分より、今日の自分』


ペンを置いて、私はノートを閉じた。まだ私は、ただの中学生だ。テレビにも出ていない。ステージにも立っていない。事務所にも所属していない。それでも、前世の私にはなかったものが、今の私にはある。もう一度、挑戦できる時間。そして、前世の私が十年間かけて身につけた経験だ。


だったら、今度こそ全部使う。


ダンスも、歌も、ビジュアルも。一つずつ積み上げていけばいい。今日の努力が明日の自分を作るなら、私は一日だって無駄にしたくない。


「……絶対、アイドルになる」


そう呟いた私は、明日の練習メニューをノートに書き始めた。二度目の人生は、まだ始まったばかり。だからこそ、今は焦らず、一歩ずつ前に進んでいこうと思った。

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